鶴の一声-承-2

彼は柿本さん。無職。


頭の回転が早く、色んなことに気づく。悔しいことに勉強もめちゃくちゃできて、


正直、なんで無職なのか分からない。


私はここまでのあらましを話した




「って感じなんだけど。意見を聞かせて欲しいな。」






「それは泥沼だねぇ…。」




「まず相談というか確認させてもらいたいのは、真っ当な法律に当てはめるとこれってどうなるの?」






「基本は遺書通り。1つ目だったら現金以外は親父さん。現金を法律に則ってだから、親父さんと彩花さんで半々だね。」




「あぁー法定相続人はーお婆さんが亡くなってるからー…息子娘だけになるから半々か。」






「そゆこと。で、2枚目の遺書。これはそのまま全て陽子さんに入るね。」






「そのままになるんだ。」






「それだけ遺書は強しってことよ。でも1つ問題がある。」






「問題?」






「遺留分侵害額請求。」






「何…それ?」






「まぁ簡単に言えば「私は最低限これくらい貰えるはずなんだから納得いかない!」って話だね。例えば今回の場合。


利治さんが亡くなったとして、


利治さんの奥さんは既に居ない仮にいた場合で半分。となると、子供のみになるから全体の半分を兄妹で均等に分ける。この金額は法律上守られなければいけない。


例えば利治さんが10億残したらその半分の5億を子供の数で均等に割る。今回なら2人だから2.5億。これはこの彩花さんと重次さんが最低限受け取れる金額になる。で、問題は遺書。


2つ目の遺書では重次さんも彩花さんも一銭も受け取っていない。そうなるとこの遺留分侵害額請求ができる。1枚目でも、彩花さんは自身の取り分の金額によってはできるって訳。」




「法律ってむずいな…」






「まぁもっと簡単に言えば、全部の金額の半分を子供たちで均等に分けろよってこと。


でも遺書にはそれが守られてないから裁判されるよって話しよ。」






「裁判かぁ…そうなれば費用とかもかかるし、事前に話し合いで済むとか、書き直させるとか出来れば、余計なことに遺産使わなくて済むからこの手の話は揉めるのもあるんだね。」






「まぁそういう側面もあるね。余計な経費かけたくないじゃん?」






だがここで疑問が湧く




「でもじゃあこれって…法律に基づいた文面に書き直してもらえばいいんじゃないの?」






「ここまでの話で、遺書に登場して話に登場してない人いるだろ」






「……あ、陽子さん」








「そう。これが多分どっちの遺書を採択するかで1番ネックだな。」




「それは……金額が変動すると?」








「さっきも言った通り、遺留分。つまり相続の受け取りとして法的に主張できるのは今回重次さんと彩花さん。


で、このふたりは全財産の半分を均等に分ける。ここまでは保証されてる。」






「さっきの話だよね。10億だったら2.5億って。」






「そう。だけどこれが、ようこさんの登場でだいぶ話が変わる。」




「そんなに大きく?」






「そもそも彩花さんは法定相続人。さっきの例えでは現金以外を半分の5億にしたけど、金額変えてみよう。例えば現金の遺産が6億、現金が1億、負債が3億としよう」






「え、負債も加算されるの?マイナスじゃなくて?」




「なるぞ?で、これも含めてだからだったり、実際に等分する時に遺産が現金になるとかならないとか…まぁ色々あるんだよ。」






「投げたなこいつ…」






「法律は面倒なんだよ。あとは自分で気の済むまで調べてくれ。ひとつだけ言えることは、遺産の内訳次第ではあるけど、遺書1なら円満に見せかけて彩花さんは1/4の現金だけ。遺書2なら、現金がなければもしかしたら支払い遅延とか名義変更で売却不可とか。色々面倒なんだよほんと。」






彼は気だるくそう言いながら一方的に電話を切った。






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