鶴の一声-転-1
さて、そうなると遺産の内容も必要になる。
しかし、他人の私が遺産の内容を知る術はない。わかる範囲でいいので、友人に聞くことにしてみた。
「財産って…実際どれくらいあるの?
「まぁー会社が何個かと3軒の不動産。あと現金で数億ってくらいだね。」
「会社…何個?」
「大体ね。世界的に展開されてるんで…かなり大きい。」
「…へ?」
私の認識が甘かった。彼の祖父は、ただの「金持ち」ではなく、国際的な規模での企業を所有していたのだ。
「お前の家…本気で凄いんだな…」
「まぁね。爺ちゃんが凄い人なんですよ。ただ…」
「ただ?」
「最近、爺ちゃんおかしいんだよ。」
「おかしい?」
「何か…雰囲気が変わった。昔はもっと…こう元気いっぱいって感じだったらしいんだけど。」
「それっていつからだ?」
「多分2年くらい前?」
「2年前…何かあったとか?」
「特段何もかなー。ちょっとお金借りたくて久しぶりに電話したときに、あれ?こんな感じだっけ?って思った程度。あとは記憶が曖昧というか…あと体調?昔に比べて疲れやすくなったみたいなんだよ。まぁ60も超えて来ればそれくらいはあるかなって程度だけどね。今も居間でテレビ見てるよ老人らしく。」
確かに。60も超えれば以前のように動けるかといわれれば60歳とは程遠い私には、
体感としてはわからないが、想像することはできる。
私は柿本さんへ再び電話をした。
「お疲れ様ーって感じでもないけど…」
「遺産の規模は想像より遥かに大きい。国際的に展開してる複数の会社と不動産。」
「へぇ…」
「加えて」
「加えて?」
「2年前から利治さんの雰囲気が変わったらしい。記憶の曖昧さと体調不良。」
電話の向こうで、一呼吸の間があった。
「…その人,何才だ?」
「え?」
「確かに加齢によって体力が落ちたりするのはあるけど。今までずっと世界中飛び回ってた人が急に全部やめて帰ってくるか?」
「自分に限界を感じたとか」
「まぁ現場単位はそうかもしれないけど。例えば経営にはかかわってて日本にいても仕事の電話するとか、経営陣から相談の連絡とかあってもいいと思うけど。」
「それはそうか。」
「二年前にから様子が変わって、日本に帰ってきた時期。あと持ってた会社のリストなんかもあればほしい。」
「わかりました。聞けるだけ聞いてみます。」
私は再び友人に電話をし、利治さんの二年前からの時系列と友人のわかる範囲の利治さんの会社のリストをもらった。
「宮森グループ…相当大きかったんだな…」
そこには医療、美容、製薬、また国内においてはそれらの流通から小売りの店舗まで、会社名の記載があったが
「こんなに大きいのに、この店名見たことないな…」
そう。見る限りの大財閥。しかしそれらの経営する店舗は、どれとして私は実店舗を見たことがない。
私はそのうちの一つの店舗を検索してみた。
「北海道にあるんだ」
二つ目、三つ目を検索してもすべての店舗が北海道にある。
「いわゆるローカル企業ってやつなのかな。でもなんで北海道に?」
私はもう一度友人に電話をし、利治さんと北海道に関して聞いてみた。
「え?爺さんは生まれも育ちも神奈川って聞いてるけど…現にこの家も爺さんの家で爺さんの5代くらい前からずっとあるって聞いてるし…」
「はぁ…でも何かないとこんなに北海道に固執した事業展開にはならない気もするんですが…」
「個人的に何かあればそうかもしれないけど…個人的なとこまではちょっとな…実際爺さんに会ったのなんて何年前かわかんないしそんないわゆる身の上話みたいなこと話したことないからさ…」
有力な情報もない。私はもう一度柿本に相談をした。
「北海道に固執した事業展開…ね」
柿本は、電話の向こうで深く息を吸い込んだようだった。
「その利治さん、神奈川出身なんだよね?なのに、なんで国内事業の基盤が全部北海道なんだろう。まるで、そっちが…」
「そっちが?」
「……いや。それより、二年前から様子が変わった、って話。記憶が曖昧で、体調不良。世界を飛び回ってた人が、急に老人らしくテレビを見るようになった」
柿本さんの声のトーンが、いつもの気だるいものではなく、刃物のように研ぎ澄まされていく。
「まるで、別人みたいじゃないか?」
「……え?」
「ちょっとこれは大至急だ。二年前。利治さんの様子が変わったって時期。その頃の出入国記録とか、あるいは会社の登記簿とか、何か追えるものはないか?特に、北海道の会社の。とりあえず何でもいい。」
「登記簿?どうしたそんなに…」
「もし、本当に利治さんの様子がその通りで、記憶もあいまいで人が変わったようだったとして。その状態で書かれた遺書は、法的に無効になる可能性もある。痴呆とかな。だが、それよりもっとヤバいことが起きてる気がする」
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