第2話 二度目
落合くんは、中1の時からバスケ部で頭角を現していた。
秋の新人戦からレギュラーになり、得意の3ポイントシュートを決めまくっていた。
(また決めた!)
からだが、ぎゅっとなる。
試合を見ていた万智子には、こんな体験が初めてだった。
観客のざわめきの中、落合くんはちらっと私の方を見たような気がした。
自意識過剰かな。
振られた身だ。
ぶるぶると頭を振る。
試合が再開されると、観客は息をのんでボールの行方を見つめる。
体育館にバスケシューズと床が織りなす高音と、ドリブルの低音が響く。
落合くんが、相手のボールをカットした。
小さい顔に、長い手足。日本人離れした八頭身が駆け抜ける。しなやかに舞っているかのようだ。
(またシュートを決めた—!)
落合くん、かっこよすぎだよ。
気付けば、涙が頬をつたっていた。
そんな落合くんを女子が放っておくはずもなく、日に日に彼の取り巻きは大きくなっていった。万智子は、渦の中に入る勇気もなく、遠くから眺めるしかなかった。自分に、イライラしていた。
地団太を踏んでいるうちに、中2になっていた。
万智子の胸の内は、落合くんの思いで膨れ上がっていた。
冬、母のお使いでスーパーに行った。
赤い色の広告に惹かれて、お菓子売り場に足が向いた。
そうか、もうすぐバレンタイン、か……。
ひときわ目立つ真っ赤な包装紙の板チョコを手に取り、カゴに入れた。
帰宅すると、玄関でレジ袋から素早く板チョコを取り出し、母に見つからないよう急いで二階の自分の部屋に隠した。途中、階段で足を滑りそうになりながら。
「板チョコ? 万智子らしいな」
落合くんは、笑いながら受け取った。既に、左手にはたくさんのチョコが入った大きな紙袋を持っていた。
強風が吹きすさぶ寒空の下、残雪の道を滑らないように、足元を見る万智子。
「じゃあな」
「あの……」
「なに?」
「や、やり直さない? 私たち」万智子は真剣だった。
「いいよ」落合くんは、簡単に答えた。
緊張の糸が切れた万智子は、雪に足を取られ、尻もちをついた。
笑いながら差し出された落合くんの右手が、温かかった。
そこから、万智子と落合くんは再び密かに付き合いだした。
とはいえ、部活で忙しい落合くんと、帰宅部の万智子ではあまり会う機会もなく、デートしたのも、数えるほどだった。
高校は別々の学校に進学し、二人の仲はなんとなく自然消滅してしまった。
落合くんの噂は、絶えず聞こえてきた。
相変わらずバスケ部で活躍していて、新たなファンの群れもでき、日々大きくなっているらしかった。
ある日、万智子の通う高校に、落合くんが練習試合で来たことがあった。
校門の前だった。
「よう! 万智子。元気?」
聞き覚えのある声に見上げると、更に背が高くなった落合くんが余裕の笑みをたたえていた。
「……」
万智子は、驚きのあまり、何も言えずに走り去ったのだった。
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