第2話 異能世界の脅威

 転生した翌日。


 俺は、母さんと過ごすうちにこの世界の事が少しずつ分かってきた。ここは俺の知っている日本とは違う。時代や場所は俺の知っている世界そのものだが、この世界には「異能者」という存在がいる。


 異能者とは超常の力を持つ人間の事だ。車と同じ速度で走るヤツもいれば、超能力みたいに物を浮かせたり、火や風を操ったり。とんでもない頭脳を持つという能力者もいるらしい。なんだかそれだけ聞くとマンガの世界みたいだな。


 それに加えて、この世界にはある問題が……。


「イオリちゃん! 今ね、一瞬パパが映ったよ!」


 俺を抱っこしている母さんがテレビ画面を指差す。そこでは、「LIVE」の文字と共に黒い影のような人間と、それを追いかける異能者達が映っている。その映像の下に小さくアナウンサーの姿が映り、視聴者に向けて語りかけていた。


「次元震度2。発生した亜幻ファントムは1体。ただいま異能協会・・・・より第二級異能者が対応しております。都民のみなさんは落ち着いて、命を守る行動を心がけて下さい」


 LIVE映像の中で、「影人間」が地面の中に飛び込み、姿を消してしまう。いや、消したというより地面に潜ったみたいだ。人はいないのに、地面に人の影だけが写っている。その影人間は壁や床を滑るように進んで逃げていた。


「待てやコラァアアアアア!!!」


 影を追い立てる異能者達。右腕に光を溜めた異能者が地面を殴ると、アスファルトの大地は砕け、影が潜んでいた地面ごと空中に放り出される。地面を叩き割った異能者は、後ろに向かって叫んだ。


「島田!!」


「任せろ!」


 島田と呼ばれた異能者が両腕をムチのように伸ばす。その腕が瓦礫を拘束し、地面に叩き付けた。すると、地面に隠れていた影人間がヌルリと地面から飛び出した。


 逃げる影人間。追いかける男2人。あのどちらかが俺の父親なんだろうか? なんだか輩みたいで嫌だな……。


 などと思っていると、母さんが俺をギュッと抱きしめた。


「きゃあああ!! パパよ!! カッコいい〜!!!」


 影人間の前方に黒いスーツ姿の男。その男はどこにでもいそうな普通の男だった。


「ギギ!!」


 影人間が大きく口を開く。先ほどとは異なる異形の姿。それが俺の父親に食らいつこうとした──。


 が。


「ギィッ!?」


 父親が影人間に脚をかける。そして、バランスを崩した影人間を一瞬にして地面に組み伏せてしまった。流れるように拳を構える父親。粒子を纏って光る拳。父親がその拳を影人間に叩き付け、纏っていた粒子を流し込むと、影人間は霧のようにかき消してしまった。


 父親は、耳に着けていたインカムに指を添えた。


亜幻ファントムの処理完了。怪我人の救護に移行する」


 映像がスタジオに戻る。昼のニュース番組は今回の事件について解説していた。難しい専門用語はよく分からない。話している内容から推測すると、コンビニ内に突如時空の歪みが発生。あの影人間こと亜幻ファントムというのが現れたらしい。


 スタジオでは今回の亜幻は弱い個体だったとか、死者は出ていないとか語られている。この世界だと日常的に次元の歪みが現れ、あんな奴らが現れるみたいだ……こわ。


「凄かったねパパ! パパはね、派手な能力じゃないけど、みんなから信頼されてるの。イオリちゃんもきっとパパみたいなイケメンになれるよ〜!」


 母親が頬を擦り寄せてくる。スリスリと頬の感触がくすぐったい。


 だけど、母さんの反応でなんとなく分かる。今みたいに亜幻が現れた時は、父さん達「異能協会」の人間が対処する。そして、それはきっと上手く機能しているんだろう。だから母さんはこんなにあっけらかんとしていられるんだ。


 俺のいた日本とどこか違う世界、どこか違う災害。そして、どこか違う価値観……俺は改めて自分が転生してしまったのだと確信した。


 俺も、生後7ヶ月だけど、昨日歩く訓練したおかげで、気合いを入れると幼児と同じように動く事ができる。これも異能力なのだろうか?


 あとは言葉が話せたらなぁ。母さんと意思疎通が取れないのもツライ。聞きたいことも聞けないし。今日の夜は言語能力を開発……はつ、は、腹減った……!


「ふぇっ、ふぇぇええん!」


「あらあら、イオリちゃんお腹空いたんでちゅか〜? 今おっぱいあげますからね〜!」


 ちょ!? またかよ!?


 どうやら生理現象が起きると、俺の意識は急速に赤ちゃんの精神に飲まれてしまうらしい。今の俺の頭は「おなかすいた」という思考で埋め尽くされてしまっている。


「ふぎゃ! ふぎゃ!」


「慌てないの〜! イオリちゃんのご飯は逃げませんからね〜!」


 またもやおっぱいを吸わされる俺。そして、またもや赤ん坊の本能に抗えなかった俺は、安心感で満たされてしまう。しかし油断したのも束の間……。


 プッ。


「ほぎゃあああああああ!!」


「あらら、自分のオナラでビックリして泣いちゃったのね。大丈夫よ〜」


 俺は……なんとも恥ずかしい姿を見せてしまった。




◇◇◇



 〜空木うつろぎ映司エイジ


 深夜0時を過ぎ、静まり返ったマンションのエントランスを抜けてエレベーターに乗る。


 ……この数日間は出動が多すぎる。一織イオリも生まれたばかりだし、室長ももう少し融通を利かせてくれたらいいのに。


 5階でエレベーターの扉が開く。すっかり暗くなった通路を進み、「空木ウツロギ」と書かれた505号室へ。


 一織イオリ薫子カオルコさんは寝ているだろう。起こさないように慎重に扉を開ける。すると……。


「あぶぅ、あぶぅ」


「え?」


 薄暗い室内。窓から差し込む月明かりで、リビングでよちよちと歩いている・・・・・赤ちゃんが目に入る。それは……全身の関節から蒸気みたいなものを出して、明らかに異常な様子の我が子だった。


 しかも……。


「わぁ、い、うぇ?、うぉ、お、お……」


 当の本人はケロッとしたまま、口をパクパクさせ、言葉ともならない言葉を発していた。


「い、一織イオリ……?」


 思わず上げてしまった声。生後7ヶ月なのに、既に掴まり立ちどころか普通に歩いている我が子は、ふるふると震える頭をこちらに向けた。


「パぁパ?」


 なんだか今「パパ」と言った気がしたが……いや、赤ん坊は意味もなくパ行を言うものだ。聞き違いだろう。こんな生まれてすぐに話す訳がない。


 首を傾げる我が子になんて言おうか一瞬考えて、俺は言った。帰って来たという挨拶を。


「た、ただいま一織。パパだよ」


「うぉ、うぉ……パ……」


 一織は数度何事かを言った後、もう一度俺を見る。


「おか、えり、パパ」


「シャベッタアアアアアアアアアアアア!?」


 生まれたばかりの息子がハッキリ話したという衝撃。あまりの事に大声を上げてしまう。俺の声で起きてしまったのか、薫子さんが寝室から出てきた。


「んん……おかえり映司さん……どうしたの? そんなに口を開けて……」


「い、いや……イオリが歩いて……というより話して……!!」


 一織を指差す。当の一織はいつの間にかソファーの上に登ったりおりたりし始めていた。一織の体から水蒸気が立ち上る。何度も何度も繰り返すうち、一織がソファを登り降りする動作はスムーズになっていった。あれはなんだ……? 遊びのようには思えない。え、子供なりのトレーニング、か?


「あ、もうイオリちゃん。また動き回って! 今はねんねの時間よ? 明日またやりましょう?」


「だぁ!?」


「ほら、嫌がらないの〜。映司さん、ご飯なら冷蔵庫にありますから。チンして食べてね」


 ニコリと笑うと、薫子さんは嫌がる一織を抱っこして寝室に戻っていった。薫子さんは受け入れてるのか……何があったのか明日聞いてみよう。


 再び静まり返るリビング。それにしても……いや、7ヶ月で歩くって……ハッキリ話していたような気もするし……あの蒸気……。


 はは、トンビが鷹を産んだ気分だな。



―――――――――――

あとがき。


 次回は一織が2歳となり、異能測定を受けるお話。一織達家族の認識に反して、医者は一織を「無能力者」と判定。しかし本当に無能力なのか? 家族の為に一織が決意を固める傍らで、その力の秘密が明らかになる回です。

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