徒手空拳の怪物異能〜現代異能バトル世界に転生した俺、努力しすぎて人類最強の英雄になってしまう〜
三丈 夕六
第1話 赤ちゃん、異能世界に立つ
人は、誰もが才能を持っているという言葉を聞いた事がある。
だけど、才能を芽吹かせられなければ……そんな言葉は何の慰めにもならない。
それが、俺の短い人生で達した結論だ。
自分なりに人生を頑張ってきたつもりだった。だけど、いつも誰かが俺を軽く超えていく。落ち込むと、親は俺に言った。
「才能が無い」と。「身の程をわきまえて生きろ」、と。
俺は、その言葉に屈してしまった。
自分の才能を疑い、やりたい事を押さえつけられ……無意味に時間を過ごした挙句、重い病気で動けなくなってしまった。
最後まで残ったのは……諦めてしまったという後悔だけだ。
「俺……は……」
天井に手を伸ばす。悔しい。もう一度やり直せるなら、今度は死ぬほど努力して全員見返してやるのに。今度こそ、自分の才能を信じてみせるのに。
一筋の涙が溢れる。誰もいない病室で寂しさと悔しさを噛み締めながら、俺の意識は途絶えた──。
◇◇◇
「ほ〜らイオリちゃん!
目が覚めた時、見知らぬ若い女性が誰かを呼んでいた。視線の向きから俺に言ってるのか……? イオリって誰……?
立ち上がろうとするが、俺はうつ伏せに寝そべったまま立ち上がれない。あれ? なんだこれ? 体がうまく動かないぞ。
ジタバタと両手両足を動かして、女の人に声をかける。あ、アンタ……助けてくれ!
「あぶぅ」
「ほらほら! イオリちゃんはできる子よ〜!」
え? 声も上手く出ない? なんか強い薬でも打たれたのか……!?
頭を持ち上げて、周囲を見渡してみる。ぼんやりした視界には、ファンシーなぬいぐるみが並べられ、タオルケットが敷かれたリビングが映る。あと、やたらテレビが高い位置に。
知らない景色だ……。
不安になって横を見ると、窓ガラスに反射した
フルフルと震える頭。口から涎を垂らした口元。見たものと俺の感じる不快感が見事に合致する。右や左に頭を動かすと、目の前の赤ちゃんは俺の動かす通りに頭を動かす。
なんだこれ!?
「あーうー」
「イオリちゃーん! こっち向いて〜!」
女の人の声に反応して前を見ると、彼女はきゃあきゃあ言いながら喜んでくれる。もしかしてイオリって……俺? これ、転生ってヤツか!?
「あ〜なんて可愛いの! さすが私と映司さんの子だわ!」
女の人がウットリと俺を見つめる。ていうかこの女の人若すぎないか? まだ20代前半に見えるぞ。いや……もしかしたら10代かも。
「大丈夫! イオリちゃんならできるわ! だからおいで〜!!」
笑顔の女性。赤ん坊である俺を信頼しているその顔を見ていると……なんだか……その期待に応えて上げたくなった。
もし、この女の人の言うようにしたらこの人は喜んでくれるのか、と。
その一心で必死に腕と足を動かす。しかし、思ったように力が入らない。なんとか動こうとしているのにできない。もがいているうちに、俺は力尽きてしまった。
「あぶぅ」
「あ!? ごめんね! 無理させすぎちゃったね!」
女の人……今の母さんが俺を抱っこする。そして、背中をトントンと叩きながら俺の頭の匂いを何度も嗅いだ。そうされていると、俺は安心して、でもこの人の期待に応えられなくて悲しい気持ちになってしまった。
「ほぎゃっ、ほぎゃっ」
泣いていると、いつの間にか腹も減ってくる。泣く声が一際大きくなったと思った時、母さんがニットの服をたくし上げた。
「お腹空いたかな? おっぱいですよ〜」
え?
そのワードが頭に入る前に、口に柔らかい感触が伝わる。口が勝手に反応しておっぱいを飲む。赤ちゃんになったからか、全く変な気持ちにはならない。むしろ、安心感に包まれる感じがした。
「ママはイオリちゃんの頑張ってるとこと見てましたからね〜」
そのままユラユラと抱っこされていると、心地良さが伝わってくる。眠たい……。
「大丈夫。大丈夫だよ〜」
安心させてくれる声。優しい笑顔。その顔を見ていると、さっきハイハイできなかった事がまた悔しくなってきた。
この人を笑わせてあげたい。
そんな事を考えながら、俺の意識は離れていった。
……。
その日の夜。俺は小さな布団で目が覚めた。
隣を見ると母さんが眠っている。父さんは帰りが遅いのか、布団は敷いてあるが帰って来ていないようだ。
「あぶぅ」
思わず出そうになった声を抑える。母さんは疲れているみたいだし、起こさないように……。
「ふっ、ふっ、あぶぅ……」
ゴロンと寝返りを打って、両手と両足を交互に動かす。昼間は体の動かし方を忘れていてうまくいかなかったが、徐々に感覚が掴めてきた。今回はいけるはずだ。
うつ伏せのまま両手と両足に力を込め、体を持ち上げる。
「ぶぅ」
自分の体の重さでパタリと潰れてしまう。諦めるな。明日はハイハイをしてみせて、母さんに見せるんだ。
随分単純になってしまった思考。……俺の記憶がイオリの意識の奥底で声を出してる不思議な感覚。大人の俺と、赤ちゃんのイオリが混ざってしまったような感じがした。
だけど、今はそんな事どうでもいい。目の前の事に集中するだけだ。
「ふっ、ふっ」
体を持ち上げては潰れ、潰れては持ち上げ、それを何度も何度も繰り返していると、やがて体が熱くなってきた。
なんだ……? 熱い……インフルエンザになった時みたいに全身の関節が痛くなってくる。
「ふぎゃ……」
痛いなんてもんじゃない。激痛だ……! 思わず泣きそうになって両手を口で抑える。母さんを起こすな。耐えろ、俺。
熱と痛みに耐えながら体を持ち上げ、一歩ずつ前へ。すると……ゆっくりだけど、確実にハイハイができるようになっていた。
やった!! 成功だ!
ゆっくりハイハイしていると、なんだか体を動かすコツが掴めてきた気がする。俺は布団から降り、ダイニングを通り過ぎて、昼間俺がいたテレビのあるリビングへ向かう。
「あぶ、あぶ、あぶぅ」
この家は2LDKくらいのマンションみたいだ。段差も無いので移動しやすい。なんとか床を進んでリビングへ。
そして、リビングに置いてある低いテーブルの前まで来た時、俺はふと、机の上にある物が気になった。下から見える板状の機械。スマホか? アレの画面を見たら今が何年何月なのか分かるかも。
俺は、頑張ってテーブルの足を掴み、体を起こす。
う……っく……! ハイハイしたばかりの赤ん坊にはキツい運動だな……これ……。
何度も立ちあがろうと思考錯誤していると、真っ暗闇の中に「金色の粒子」みたいな者が見えた。
なんだろう、あれ?
粒子を見ていると、それはいくつものうねりを上げて俺の体に吸い込まれていく。
不思議に思って自分の体を見た瞬間、またもや全身が熱を帯び、関節に激痛が走る。
「ほぎゃ!? ほぎゃあっ!」
今度は意識で耐えようと思っても泣いてしまう。なんとか痛みを堪えて先ほどの事を思い出す。さっきはこの感覚が起きてハイハイできたんだ。この感覚をモノにすれば、立ち上がれるはず……! 前世の時、まだ体が動かせた時の記憶を手繰り寄せろ……!
両手でテーブルの足を掴み、ゆっくり右足で大地を踏み締める。全身の関節から蒸気が噴き上がり、体がイメージした通りに動く。
そして……悪戦苦闘しながら、俺は立ち上がる事ができた。
やった!! ハイハイしたその日に立ち上がる事ができたぞ!!
喜んだ瞬間、薄暗かった室内が急に眩しくなる。
「イオリ……ちゃん?」
振り返ると、リビングの電気をつけた母親が立ち尽くしていた。母親は驚いたように目を見開いて口を金魚のようにパクパクと開け閉めしている。俺は、無意識のうちに母親に寄ろうとして一歩踏み出してしまう。
「あ……!!」
母親が駆け寄ろうとして、動きを止める。普通なら、立ち上がったばかりの赤ん坊はすぐ倒れてしまうだろう。だけど、今の俺は、なぜだか倒れずに歩く事ができていた。
「だぁ、だぁ」
「すご……い……まだ1歳にもなっていないのに……」
驚きながら、でも母親はゆっくりと腰を下ろし、両手を広げてくれる。
「おいでイオリ……がんばれ……がんばれ!」
戸惑いながらも母親が応援してくれる。それに導かれるように俺は一歩ずつ歩き……そして、ついに母親の元に辿り着いた。
「だぁ」
「やった……すごいわイオリ!!」
母親が笑顔で抱きしめてくれる。それだけで頑張ったのが報われる気がした。ただ歩いただけなのに、何かを成し遂げたみたいな気分だ。
「イオリちゃん……アナタはすごい事をしたのよ? 分かる?」
母親はうれしさのあまり号泣しているようだった。え、いきなり歩いて驚いたのは分かるけど流石に大袈裟じゃないか?
「アナタは
「ふぇ?」
母親の口から出た聞きなれない単語に、俺は首を傾げるのだった。
―――――――――――
あとがき。
第1話をお読み頂きありがとうございました。新作は「異能力が普通の世界」に転生した主人公がひたすら努力し、何かを守り、やがて英雄と呼ばれるまでに至る……
「愛情・努力・勝利」の物語です。ド王道です。
毎日15:03投稿です。
次回、この世界に存在する脅威と主人公の父親について語られる回です。また、父から見た主人公の様子も何やら異常な様子で……?
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