♪ 03..このクジラの宇宙船、便利で快適すぎ!

 ソルは、部屋へやに戻ると、ふかふかのベッドに思いきりダイブした。


「ふぁ~……今日のディナーもおいしかったー! やっと宇宙旅行!って感じがしてきたよ。それにしても、初日しょにちのパーティ、緊張きんちょうしたよねー!」


 ルナはソファにすわり、ちょっとあきれたように笑った。

「緊張っていうより、ソルはあせってただけでしょ? 『ドレスで参加なの!? 聞いてない!』って大さわぎしてたじゃない」


「うぐっ……まだ言う?」

「しかも〈オリオン〉にぜんぶまかせて服をえらんでもらってたし。それでも似合ってたのがすごいけどね」


「えへへ。〈オリオン〉ってセンスいいよね~」

すると、天井てんじょうのスピーカーから、落ちついたAIの声が聞こえた。

「ありがとうございます」


 ルナはき出しそうになり、かたをふるわせた。

「ほんと、ソルがいると退屈たいくつしないわ」


「でしょ? 〈オリオン〉だってそう思ってるはず!」

「私の記録きろくによれば、おふたりのテンション良好りょうこうは今日も継続けいぞくしています」

「ほら! ねっ!」


「お二人に合わせて、この部屋へやでは特別なかお成分せいぶんを少しだけしています。落ちつける香りです」

と〈オリオン〉が続ける。


「へぇ。なんかリラックスできると思ってたら、そのおかげだったんだ」

「AIが香りのことまで考えてくれるなんてね」

「いいじゃん! セレーネシティの乾燥かんそうした空気よりずっと快適かいてきだよ!」


〈オリオン〉の声はやわらかい。

「おふたりが安心してごせるのも、航行こうこう支援しえんの一部です」


「うんうん。ほんとたよりになるよー」

「ただし、ソルがなにかやらかさなければ、もっと安心できるんだけど」

「もー! そのネタ何回言うの!? 〈オリオン〉、記録きろく消してー!」

削除さくじょ申請しんせい却下きゃっかされました」

「ま、そうだよね!! うん、知ってた」


 二人の笑い声が、部屋に広がった。


 ルナはふと、かべ船外せんがいモニターを見つめた。

青白いびれの光がゆっくり流れている。

「……あの光、海の中をおよいでいるみたい」

「この船って、ほんとにクジラみたいだよね」


⋆⋅⋅⋅⊱∘──────∘⊰⋅⋅⋅⋆


 航行こうこう開始から10日目。


 〈セレスティアル・ホエール〉の船外モニターいっぱいに、太陽が広がっていた。

 まるで、金色きんいろの光の海だ。


 まぶしくて、まるで光がえたぎっているようにも見える。


 船は今、水星すいせいのすぐ後ろを追いかけるように進んでいる。

 今日はいよいよ、みんなが楽しみにしていた太陽観測かんそくイベントだ。


「きたきたきたっ! ルナ、見てよ! これこそが太陽に一番近い旅だよ!」

ソルの赤茶色の髪が光に透け、金色になった。


「きれいだけど……ちょっと近すぎてこわいわ」

「え~こんなにきれいなのに?」

「だってあそこ、数百万のプラズマが吹きれてるのよ」


「現実的な話やめて! こわくなるから!」


 まわりの乗客がふふっと笑った。


 そこへ、観測かんそくドームのAIが案内する。

「現在、本船は水星の後方こうほう約二千キロ、公転軌道こうてんきどうから外側二十万キロを航行こうこう中。バリアは外部環境かんきょうから皆さまを保護ほごしています。放射線ほうしゃせんしゃへい率は、99.9998%です」


「……0.0002%の放射線は通るのね」

「ルナ、それげ足取りだよ!」

「太陽と近いときは大事なことよ」


 AIが返す。

「アマカワ様のご指摘してき正確せいかくです。ただし安全上の問題はありません」


「AI、真面目まじめすぎ!」

「私は常に真面目です」

「ぷっ…くく!」


 みんなも笑った。


⋆⋅⋅⋅⊱∘──────∘⊰⋅⋅⋅⋆


 そして、一番大事だいじなプログラム「水星すいせい日食にっしょく体験」が始まった。


 宇宙船が少しスピードを上げ、太陽と宇宙船のあいだに水星をはさむように位置を変える。


 やがて、太陽が細い光のリングだけに見える金環日食きんかんにっしょくが始まり、そして、完全に太陽の光が見えなくなる皆既日食かいきにっしょくになる。


 黒い太陽の周りに、白くやわらかなすじ——コロナが広がった。

 太陽に近いせいか、大きな丸い玉のように見える。


「うわ……これが本物なんだね。映像えいぞうで見たのとぜんぜんちがう……」

「きれいなだけじゃなくて、なんだか神秘的しんぴてきだわ」

 乗客のみんなも日食に見とれて、静かになった。


 やがて太陽の光が戻りはじめ、フィルターごしの太陽表面がモニターに映った。


「これ、直接ちょくせつ見たらあぶないから、特別とくべつなセンサーで合成ごうせいしてるのよ」

「つまり見ても安全な特別な太陽ってことか」


「でも、太陽の表面ひょうめんが六千度で、外側のコロナは数百万度って、どういうこと?」

「太陽系の七不思議ななふしぎの一つなんだって。磁場じばのせいらしいけど、まだナゾも多いらしいわ」

「七不思議!? ナゾが七つあるの? あと六こは?」

「それは……〈オリオン〉に聞こう!」

「ずる~!」


⋆⋅⋅⋅⊱∘──────∘⊰⋅⋅⋅⋆


 次のプログラムは「太陽風たいようふう可視化かしか体験」。

全員の端末たんまつグラスのスイッチが入り、目の前に光のつぶが流れはじめるのが見えた。


 これが、毎秒数百メートルで流れる太陽の風。

 光のつぶが線のようになって、体のまわりを走りぬける。


「うわ……これ、風っていうより、光の砂嵐すなあらしだね」

「科学的に合ってる表現だと思うわ」

「ルナ、もっと感覚で楽しもうよー!」


 デッキがまた笑いにつつまれた。


 時間がきて、AIが伝える。

滞在たいざい制限せいげんに達しました。体への負担ふたんをさけるため、デッキからご退出たいしゅつください」


 二人は、時間いっぱい、ぎりぎりまで太陽を見ていた。


「ねぇ、ルナ。太陽を近くで見ると、なんだか静かな気分にならない?」

「……わかる。音まで光に飲まれていく感じ」

「でも、こころの音は大きくなるよ。ドクンドクンって」

「それ、ただの心臓しんぞうのドキドキじゃ?」

「それもあるけど、気分もあるの! 両方!」


 二人は笑った。


 《セレスティアル・ホエール》が姿勢しせいを変え、青白い尾光びこうがまたかがやき出す。

 目の前に次の目的地もくてきち――水星すいせいが、ゆっくりと大きくなっていった。


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【小学生高学年】太陽系トラベラーズ 〜ソルとルナの宇宙冒険〜 小惑星もお菓子 @Shouwakusei_mo_Okashi

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