♪ 02..旅の仲間〈オリオン〉! いろいろ教えてね!


 「わぁ……足が、ちゃんと重い!」


 ソルは宇宙船の入口を一歩いっぽふみ出したとたん、びっくりした声をあげた。

 月では体がふわふわしていたのに、ここでは足がズンッと下に引っぱられる感じがするのだ。

 片足を上げたり下げたりしながら、ソルはぎこちなく笑った。


「うわっ、地球の人って、いつもこんなに重い世界で歩いてるの!?」


「私はぎゃくに、体がふわっとして変な感じ。地球よりずいぶん軽いわ」

 ルナは少し戸惑とまどいながら、きそうな足どりでソルのとなりに立った。


 二人は見つめ合い、そして思わずわらった。


「これが0.6Gジー重力じゅうりょくってやつね」

「月より重くて、地球より軽い。お互いにれるまでころばないようにしないと」


「大丈夫!……たぶんね!」

 ソルはむねをはって歩こうとしたけれど、よろけてルナは思わずき出した。


 ――いよいよ、宇宙船セレスティアル・ホエールでの生活が始まる。


⋆⋅⋅⋅⊱∘──────∘⊰⋅⋅⋅⋆


 二人が向かったのは〈4Aブロック・15号室ごうしつ〉。

 ドアのパネルには、光の文字でこう表示されていた。


  4A-15 〈Sol.M|Luna.A〉


 その文字は、二人が近くに来たときにだけ表示され、少しはなれるとスッと消える。


「ねぇルナ、見て! はなれると名前が消えるよ!」

「すごいわね。大きな宇宙船だから、プライバシーの仕組しくみがしっかりしているのね」


 ルナが言ったとたん、ドアは音もなく開いた。


 中に入ると――二人は思わず声をあげた。


「うわっ、部屋へやがひろっ……!」


 ゆかはふわっとやわらかくて歩きやすく、天井てんじょうも高い。

 ベッドが二つならんでいて、どれも本物のホテルみたいにしっかりいてある。


 かべいっぱいにある大きなモニターには、宇宙の景色けしきがまるで窓みたいにうつし出されている。

 さらにソファ、大きめの机、非常時ひじょうじに使える宇宙スーツの収納部屋しゅうのうべや、シャワールームが二つ……。


「ここ、本当に宇宙船なの? セレーネシティの私の部屋より広いんだけど!」

「私のコウベシティの家も負けてるわ……」


 二人は顔を見合わせて笑った。


 キッチンもあり、小さな配膳はいぜんハッチには《出航2時間後より提供開始》とやさしく光る文字。


「ねぇルナ! 食事のルームデリバリーまであるって! しかも、メニューやばい! このスイーツ、パンフで見たやつだー!」


「食べすぎると、加速かそく中に胃がひっぱられるらしいわよ」

「えっ、それも一度体験たいけんしてみたい……!」


 ソルがテンション高くメニューを見ていると、室内のスピーカーから落ち着いた声がした。


⋆⋅⋅⋅⊱∘──────∘⊰⋅⋅⋅⋆


「おふたりのご到着とうちゃく確認かくにんしました。

 私は《セレスティアル・ホエール》第4Aブロック管理かんりAI支援しえんサブユニット――

 《O.R.I.O 統合とうごう運航うんこう支援システム》です」


 声は、まるで上品じょうひん執事しつじのようだった。


「名前が長い……!」

 ソルは思わず笑った。


「どうぞ、りゃくして〈オリオ〉とおびください」


「んー、でもそれでもかたいなぁ。……〈オリオン〉! そのほうがカッコよくない?」


「ちょ、ちょっとソル!? 勝手かってに名前つけるの?」


「いいのいいの! こっちのほうが呼びやすいでしょ!」


 少しの沈黙ちんもくの後、AIは静かに言った。


「……登録とうろく完了。これから私を〈オリオン〉とお呼びください」


 声がさっきよりも少し強く、たのもしさを感じる。


「うわ、本当に変わった! 声までしぶくなってるよね!?」

「ありがとうございます、ソル」

「わっ、てになった!?」

「マドモアゼル・ソルともお呼びできますが」

「やめてー! ソルでいいよ、ソルで!」


 ルナはあきれつつも笑いをこらえきれない。


「あなた、本当にだれとでも仲良なかよくなるのね」

「でしょ!」


 〈オリオン〉が言った。


「これよりお二人の旅を、全力ぜんりょくでサポートします。どうぞ何なりとお申し付けください」


 こうして、たのもしい相棒あいぼうAIが仲間なかまくわわった。


⋆⋅⋅⋅⊱∘──────∘⊰⋅⋅⋅⋆


 出航しゅっこう2日目。

 0.6Gの生活にも少しれてきた。


「月より体が重いけど、これなら走れそう!」

「私はまだ地球より軽いから、ふわふわするわ」


 モニターにうつる地球は、少しずつ小さくなっていた。


「……もう、あんなに小さい」

「でもまだ見えるわ。火星かせいあたりでも見えたりするのよ」

「へぇ……なんだか安心するね」


 居住きょじゅうリングのカフェでは、無重力むじゅうりょく抹茶まっちゃカプチーノが人気だ。

 ダイニングでは、太陽系たいようけいらしいメニューが日替ひがわりらしい。


「この太陽コロナカレー、絶対ぜったいからいよね……」

「辛さレベル、大型フレアきゅうって書いてあるわよ」

「それもう冗談じょうだんじゃないやつだ!」


 二人の笑い声が広がる。


⋆⋅⋅⋅⊱∘──────∘⊰⋅⋅⋅⋆


 そして5日目。

 その日、船内に〈ORIO〉の声がひびいた。


「――航行安定モード。加速度かそくど0.068G……ヒッ……ピピッ……」


「ん? 変な声まざらなかった?」

 次の瞬間しゅんかん、船中のモニターにノイズが走った。


「〈ORIO〉どうしたの? 〈オリオン〉聞こえる!?」


 返事がない――と思ったそのとき。


「申し訳……ヒッ……ありませ……太陽フレア……ヒョピッ……」


「しゃっくり!?」

 ソルがき出した。

 「AIってしゃっくりするの!?」


演算えんざん……同期どうきおくれです……ヒッ……ただいま補正ほせい中……」


 20秒後、声は落ち着いて戻った。


「――メイン系統けいとう復帰ふっき。現在、航行は安全です」


 ルナは胸をなでおろした。


「よかった……。太陽フレアって、こわい時もあるのよね」

「でもAIのしゃっくりはレアだよね!」


「不正確ですが……半分、正しい表現です」

 〈オリオン〉のしぶい声に、二人はまた笑ってしまった。


 その後、船は問題なく航行を続け、

 窓にはどんどん大きくなっていく太陽の光が金色にかがやいていた。


「かなり太陽に近づくんだね……ワクワクする!」

「ちょっとこわいけど……この船ならきっと大丈夫よ」


 二人は並んで、まぶしい光を見つめた。


 こうして彼女たちの太陽系の旅は、ゆっくりと、でもたしかに進んでいった。




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