♪ 01..クジラの宇宙船に乗って、太陽系クルーズに出発!


「ほかの惑星わくせいを見に行ける時代」――そんなすごい時代が、ついにやってきた。


 今では、太陽のまわりをめぐる旅に、ふつうの人も参加できる。

 もちろん、とても人気だから、ツアーに当たるのは大変なんだけど。


 あたし、ソルは月面都市〈セレーネシティ〉の家で、ベッドにすわりながら天井のモニターをながめていた。

 そこには、太陽の光をキラキラ反射はんしゃしながら、月の軌道きどうをゆっくり回っている大きな宇宙船うちゅうせんが映っている。


 あれが、クジラの形をした巨大きょだい宇宙船〈セレスティアル・ホエール〉号。


 去年できたばかりで、地球でも月でも大人気。

 ネットの「一度は乗ってみたい宇宙船ランキング」でも、ずっと一位だ。


⋆⋅⋅⋅⊱∘──────∘⊰⋅⋅⋅⋆


「うそでしょ! 本当に行けちゃうんだ、太陽系たいようけいクルーズに!

 しかも、あのクジラに乗るなんて~!」


 私はベッドで足をバタバタさせながら、宇宙船を見上げた。


水星すいせいの〈かげまたぎ〉もやる! 金星の〈雲すべり〉もやる!

 土星の〈リングジャンプ〉もやる! スイーツも、無重力むじゅうりょくドリンクも全クリアするっ!」


 言っているだけで顔がにやけてくる。


「やばい! 明日から私、ついに太陽系たいようけいトラベラーじゃん!」


 枕をぎゅっときしめてころがったら、月の弱い重力で体がふわっと浮いた。


 明日、あのクジラに乗るんだ。

 そして、大親友しんゆうのルナと宇宙を旅するんだ。


 そう思っていたら、チャットの着信音ちゃくしんおんった。



「あ、ソル? こっちは大分おおいたの宇宙港でお天気待ちになっちゃって、シャトル宇宙船の出発が3時間おくれたの。

 でも、明日の集合には間に合うから安心して。

 それよりソル、そのスカスカのキャリーケース、まさか…まだづくりしてないんじゃ…?」


「えへへ……あとちょっと。半分ぐらい……かな?」


「半分!? 明日の朝すぐ出発だよ!?」


「だって服が選べないんだもん! お気に入りのやつ、全部持って行きたいし!」


「はぁ……ま、ソルらしいけど。とにかく明日、月面港げつめんこう合流ごうりゅうね」


「うん! おやすみ~!」



 ソルとの通信つうしんが切れる直前、ルナのシャトルの画面にも《セレスティアル・ホエール》が映っていた。


「明日、ソルと一緒に、あの船に乗るんだ……本当に夢みたいだな」


⋆⋅⋅⋅⊱∘──────∘⊰⋅⋅⋅⋆


 次の日の朝。

 シャトルから月の空港にりたルナの体が、地球よりもずっと軽い重力でふわっと持ち上がる。


 歩くたびに少しき上がる不思議ふしぎな感じに、ルナはちょっと緊張きんちょうしていた。


「ルナっ! こっち、こっちー!」


 いつもの明るい声でソルが手をる。

 赤茶色のかみがふわっと揺れている。


「ソル…! うわっ!」


 ソルが飛びつくいきおいで抱きついたので、二人とも少し浮き上がりながら、ぶつかった。

 月の軽い重力じゅうりょくのおかげで、ふわっとゆっくり着地する。


「ソル……重力、忘れてたでしょ」


「だって、オンラインじゃないルナに直接ちょくせつ会えたんだよ! そりゃ浮いちゃうよ!」


「もう……」


 文句を言いながらも、ルナの顔には自然と笑みがこぼれていた。


⋆⋅⋅⋅⊱∘──────∘⊰⋅⋅⋅⋆


 それから2時間後。

 二人は《セレスティアル・ホエール》へ向かう小型宇宙船〈オルカ〉に乗りこみ、少しの振動しんどうとともに浮き上がった。


「わぁ! 月面のまちが小さくなっていくよ!」

「ソル、動くと危ないからすわってて~」


 ルナが止めても、ソルは窓の映像えいぞうモニターにりつくいきおいでのぞきんでいる。


 やがて、モニターいっぱいに巨大なクジラのような姿がうつった。


 白く光る長い身体。

 胴体どうたいにくるりといた居住きょじゅうリング。

 そして、ゆったりと青白い光を出すビレ。


 ルナは思わずいきをのんだ。


⋆⋅⋅⋅⊱∘──────∘⊰⋅⋅⋅⋆


「皆さま、《セレスティアル・ホエール》の搭載とうさい宇宙船オルカ-07へようこそ」


 やさしい声のAI案内がながれる。


 宇宙船の大きさや、重力じゅうりょくがどれぐらいあるかなどの説明が始まった。

 むずかしい仕組しくみの話もあったけど、要するに……


 この船は完全に安全で、すごく大きくて、すごく快適かいてき


 ソルは小声で言った。

「完全に安全って言われると、逆にドキドキするよね」


「ソル、それフラグだからやめて」

 二人は笑い合い、周りの乗客もつられて笑った。


⋆⋅⋅⋅⊱∘──────∘⊰⋅⋅⋅⋆


 宇宙船のAI案内が、旅の順番を説明する。

 月から出発して水星すいせい金星きんせい火星かせい木星もくせい土星どせいめぐって、月に帰る、全部で90日の旅。


「火星の都市としで2はく!?」

「土星の衛星えいせいタイタンにまれるんだ!」


「宇宙船の中でいろんな体験たいけんアトラクションもするってさ!」

 ソルはキラキラした目でルナを見る。


「ルナ、もちろん全部行くよね?」

「……うん。行くわよ」


⋆⋅⋅⋅⊱∘──────∘⊰⋅⋅⋅⋆


 モニターいっぱいに、白銀はくぎんにかがやくクジラみたいな宇宙船が近づいてくる。

「でっか……ほんとにクジラじゃん!」


 ソルが目を丸くする。

 ルナもゆっくりうなずく。


「なんだか海の中に来たみたいね…」


 10機のオルカ号がクジラのおなか部分〈ピノッキオ・デッキ〉へ順番に入っていく。


 デッキに入ると重力が少しずつ戻り、船がカチッと固定されると、AI案内の声が流れた。


「皆さま、母船ぼせん《セレスティアル・ホエール》へようこそ。

 どうぞ、この宇宙の旅をお楽しみください」


 とびらが開く。


「ルナー! 行くよ、行くよ! クジラちゃんに乗船じょうせんだよ!」

「はいはい。かれてころばないでね」


「だいじょーぶ! まかせて! ふふーん♪」

 二人は笑いながら歩きだした。


 こうして、私たちの宇宙大冒険の1日目が始ったんだ。


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