第3話 冒険者協会新宿第一支部

 後日、俺は東京二十三区に点在する冒険者協会の一つ、最寄りの新宿第一支部へと足を運んでいた。


 ダンジョン冒険者として本格的に活動を始めるには、協会に赴き正式に冒険者登録をしなければならない。

 指定ダンジョンへの立ち入りはもちろんのこと、クエストの受注、並びに協会内に軒を連ねる装備店やアイテムショップ等等を利用することが可能となり、その恩恵は計り知れない。


「……にしても、人の数が半端じゃねぇぇ!」


 見渡す限りの冒険者達。

 ゴツい鎧を纏った防御特化のナイト、モンスターを遠距離から正確に撃ち抜くアーチャー、いかにも魔法少女やってます的なローブに身を包む女ウィザードと多種多様なジョブが存在している。


 それに比べて俺ときたら……。

 一応初めての冒険者協会だからスーツ姿で気合いを入れて馳せ参じた訳だが、どうにしてもアウェイ感が。

 まだ装備を購入していない身とは言え、少々衣服の選定を間違えたよな、面接じゃあるまいし。

 加えて禿げ隠しのために帽子を被っているので、すれ違う人の目線が痛いったらありゃしない。


「しかしまぁ、この規模感、さすがは冒険者達の拠点…………力入ってるなぁ」


 協会内部はとてもデカい。

 一階部分の敷地面積だけで東京ドーム一個分程の広さを有するピラミッド型の八階建て。

 冒険者登録の受付は一階の奥の方に存在しているため、ひたすらに長い道を歩きながら辺りの様子を見物しているわけだ。


「お、あれが受付カウンターか」


 受付嬢は美人っと。

 やっぱ二十代半ばくらいの女はいいねぇ、若過ぎず熟し過ぎずの良い塩梅だわ。

 名札に書かれてる名前は、"花山さん"ね。

 今度連絡先でも聞いて食事にでも誘うつもりだから、覚えとくか。


「冒険者協会へようこそ! 本日はどのようなご用件でしょうか?」

「今日は冒険者登録をしに来たんだ」

「かしこまりました。では早速ですがステータスを開いて下さい」

「ステータスオープン!!」


 ドヤ顔でステータス画面を開く。

 反して驚きの表情を見せる花山さん。


「…………ず、随分と珍しいジョブですね」

「あぁ、俺にもよく分からん……そんな事より、早いとこ冒険者公認バッヂを貰えると助かるのですが」

「分かりました。先ずは証明写真を撮りますので帽子を脱いでこちらにお立ち下さい」

「え、帽子取る必要あります?」

「はい。身分を証明する公的な写真なので」


 こればっかりは見逃してもらえないか。

 俺の禿げが白日の元に晒されるのは勘弁願いたかったが…………まぁいい。

 流石に冒険者協会の雇った受付嬢に馬鹿にされたりはしないだろう。


「帽子取りますけど、準備はいいか?」

「何の準備ですか?」

「後光が差すから心の準備しときな、お嬢さん」


 俺はキメ顔で帽子を外した。


(なんかカッコ付けてるけど……キ、キモっ……メッチャ禿げとるじゃないですか……!!)


「ほら、固まってないで早く写真撮りなさい」

「は、はぃぃぃ、背筋を伸ばして姿勢を正してお待ち下さい……!」

「声が裏返ってるけど大丈夫?」

「き、気にしないで下さいませぇ!!」


 俺の禿げ頭を初めて見る人間は、目ん玉が飛び出るくらい強烈なインパクトでビビるらしい。

 菩薩ですら恐れ慄く後光のテカりは伊達じゃないのだ。


「では、次に後ろ向きで撮りますので……」


 俺は後ろを向いた。


(うわ、眩しっ、光が反射して目がぁぁぁ!)


 条件反射的に目を覆い隠しながら、心の声が漏れ出ちゃってるご様子。


 今はモードを必要最小限に抑え込んでるから受付嬢の目が焼かれる事態にはならないのだが、ずっと見てると視力が低下する可能性があるのでオススメしないぞ。


「はぁはぁ、凄まじい輝きでしたね。まさにって感じで……!」

「人の頭で楽しんでないで早よ写真撮りなさい」


(茂って名前せっかく付けてもらったのに親が泣きますよね……ブフっ…………笑っちゃダメ、大切な冒険者様なんだから!!)


「喧しいわ!」


 ま、いつもの事なので気にも留めないが。

 はっきりと言わないだけ通勤時のJKに比べれば幾分かマシである。


 兎にも角にも無事に証明写真を撮り終えた俺は、帽子を深く被って後光を隠す。

 昨日の風呂で頭を磨きに磨き上げたので、光の反射がいつにも増して鋭いのだ。


「それでは正式に冒険者登録がなされましたので、これからはどんどん依頼を受けてランクを上げてくださいね。"目指せダンジョンの頂き、最高のダンジョンライフへ!!"」


 このセリフがダンジョン冒険者に送られる最初のエールってやつだ。

 同時に協会から冒険者として認められた証として冒険者バッヂが手渡された。


「んじゃ、今日は記念に禿げ仲間と自宅でビールでも一杯いっときますかね」


 しかし、そうは問屋が許さない。


 意気揚々と帰宅しようとしたのも束の間、広々とした冒険者協会に館内放送が響き渡る。


『冒険者の青木茂。至急、所長室まで向かわれたし。繰り返す。冒険者の青木茂…………』


 俺を名指しで呼ぶとは何事か。

 今さっき冒険者登録したばかりだというのに、早々に面倒ごとに巻き込まれるのはゴメンだぜ。


「青木さん、所長室は八階にございますので、今すぐにエレベーターで向かって下さい」

「いきなり呼び出しとは穏やかじゃないな」

「私にも要件は分かりませんが、あの所長のことですから何か重大なお話があるのかと……」

「何者だ、その所長って」

「この冒険者協会を取り仕切る一番偉い人です」


 この機会に挨拶しとくのも悪くないか。

 数多いる冒険者のトップに君臨する人間だから、相当な実力者なのは間違いない。

 身長二メートル超えの巨体男か、あるいは超セクシーでナイスバディな美魔女か……いずれにせよ規格外の強さを誇る冒険者と予想する。


 ……いいだろう。

 その面、拝みに行ってやる!


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