第40話 我々のコンテンツ的勝利だ!
『やりましたか……!?』
それ言っちゃ駄目なやつって知ってていってるだろこいつ。
俺達は見事に灯らぬ社から出てきたよくわからない怪物に大勝利していた。
まあこっちにはもっとやべえ怪物がいるのだから当然と言えば当然である。
バケモンにはバケモンぶつけるんだよ。
パワーバランスが狂っている気がするけど、まあぶつけるんだよ!
『いやぁ、灯らぬ社は強敵でしたね! 私も思わず覗いてしまいましたよ』
『……覗かなくても勝てたのでは? 伽骸ノ嫁の攻撃は届いたと思うんだけど』
伽骸ノ嫁の糸は間違いなく間に合っていた。
そもそもソラが使役している化け物が負けるわけがない。
バケモンがバケモン操ってんだよ。
『いやいや。それじゃあまるで私が自分のコンテンツ欲を満たすためにわざと覗いたみたいじゃないですか^^』
『そう言ってるんだよねぇ』
『で? だとしたら何が問題なんです? ん?』
そう開き直られては、俺にはどうすることもできない。
このお方はもはや世界のそのものなので、強気に出られるとこちらはへこへこ頷くことしか出来ない矮小な人間に成り下がってしまうのだ。
これが転生者の姿か?
チートとか使って最強になるんじゃないのかよ。
今の所、やってることが力を持ったオタクのご機嫌取りだぞ。
『それに、ちょこっと顔を見せただけなのでこの場所にいた人達しか私は見えていませんよ。縁者なら、この程度は耐えて貰わないと。この後待っている強敵たちとの激戦についてこれません』
『強敵たちとの激戦……』
『縁理庁に渦巻く陰謀……。かつて起きたあの大災害の亡霊が現代によみがえろうとしている。果たして人間たちは食い止めることが出来るのか……! 乞うご期待ですね!』
現実世界でそんなものを示唆するな。
ここはコンテンツじゃねえんだぞ。
そもそもあの大災害ってどの大災害だ。
……えっ、本当にそんなのがある訳じゃないよね?
また俺を怖がらせようとしているだけだよね?
『楽しみですね^^』
『ウィッス』
御空様が楽しみなら、この世界もコンテンツです!
何も異論はありません!
大災害とかも多分ないぜ! わはは!
「……さて」
今、俺に出来ることは御空様を見たせいで完全に固まってしまった皆を正気に戻す事だった。
セナノちゃんだけではなく、小川さん達もずっと空を見てお口パクパク状態である。
よく考えれば、ソラの顕現でこうなった人達を見るのは初めてだなぁ。
前に出てきた時はセナノちゃんの眼を後ろからそっと覆ったし。
今回もそうしてあげれば良かったのに。
「……あれ」
そう言えば、ミナコちゃんはどこに行ったんだろうか。
空を眺めているメンツにミナコちゃんの姿が無い。
今まで何も仕事をせずにセナノちゃんの応援をしていた彼女がまさか仕事をしているわけもなく、その辺で固まっていると思ったのだが。
あの高身長なら目立つからすぐに見つけられる筈だ。
が、辺りを見渡してもどこにも彼女は見当たらない。
もしかしてたまたま空を見なくて済んだから誰か助けを呼びに行ったのだろうか。
『縫い足らぬ……』
俺の背後にいた伽骸ノ嫁は突然そう呟く。
驚いて肩を震わせてしまいそうになったが、そこは男のプライドでぐっと耐えた。
『うーん、これに針金を混ぜてエイに着せたいですね……。そうすれば、より痛々しく……』
『華やかな拷問?』
ソラが何やら不穏な事を呟く。
どうして戦闘が終わった後の方が、怖い出来事多いんだよ。
背中が汗でびっちょびちょだよ。
『縫い足らぬ……』
うるせえよ。
意思が無いのにヒヤッとしてしまうので、早くソラにしまって欲しい所だ。
どう見てもこの子は味方のビジュアルじゃないので、背後を預けているのが本当に怖い。
急に花嫁にさせられたらどうしよう……。
『ソラ、もうセナノちゃんを起こすだけだから俺の後ろにいるやっべえ奴しまってくれない?』
『それはできません』
『な、なんで?』
『まだ奴がいますからね^^』
俺が詳細を問いただす前に、伽骸ノ嫁が何かを警戒するようにその手を持ち上げ糸を垂らし始めた。
同時に鼻を突く、磯の香り。
「――いやぁ、凄いね。相変わらず空澱大人は」
先ほどまでは誰もいなかった筈のセナノちゃんの隣に、一人の少女がいた。
溌溂とした印象を持つ彼女の姿は、この静かな世界では異物の様に浮き上がっている。
何故、彼女は――ミナコちゃんは何故この場で笑えているのだろうか。
『エイ、私から提供した情報でさも知っているかのように振る舞ってください。それと、貴女の相方へとしっかり執着心を見せるチャンスです』
色々台無しだよ。
やるけども。
『そしてあと数分後にエイの体には大苦痛が襲い掛かります。苦しみに耐えて笑顔で取り繕いながら、あの人間を曇らせましょう!』
『大 苦 痛』
助けてセナノちゃん!
■
エイとミナコは互いに距離を保ちながら、見つめ合っていた。
どこか緊張した面持ちのエイとは違い、ミナコは潮風を心地よさそうに受け目を細める。
「この辺りは良い風が吹く。客人を招くなら、お気に入りの場所でと思ったんだけど、気に入ってくれたかな」
「……どういうことですか」
「うーん、すぐに察するのは無理か。いいよ、まずはセナノちゃんを起こしてからにしよう」
「っ、セナノさんに何を――」
エイが動き出すよりも早く、潮騒がより一層響き渡る。
海からここまでそこそこの距離があるにもかかわらず、まるで海が目の前に在るかのようだ。
その音を耳にした瞬間、先ほどまで呆然としていたセナノの瞳に光が戻る。
「っ、わ、私は……何を……」
「セナノちゃん、大丈夫? 意識はちゃんと自分のものかな?」
「ミナコ? ……ええ、私は大丈夫よ。っ、そうだ灯らぬ社は!?」
「もう倒したよ。空澱大人がね。記憶がまだ混濁しているのかな。もう少ししたら全部思い出せると思うよ」
「そ、そう。ミナコ、貴女……」
今までの彼女の感覚的な会話からは想像できない程に理路整然と語る様子を見て、セナノは困惑する。
その時、耳をつんざくように激しい蝉の声が聞こえ始めた。
覚えのある現象にセナノはハッとしてエイを探す。
そして、こちらを睨んでいる彼女を見つけた。
「エイ……?」
今まで見たことが無い。
エイの怒りの表情。
何よりも、その背後にある青空がゆっくりと硬化を始めていた。
「ど、どうしたのエイ!」
「――返してください」
「え?」
「セナノさんは……私のお友達なんです」
意味が理解できない言葉にセナノは困惑する他なかった。
エイがあんな表情をするなんて想像が出来ない。
何よりその視線が、少し前まで楽し気に話していたミナコに向けられているとは思いもしなかった。
「っ、ミナコごめんなさい。突然の事で困惑しているでしょうけど、まずは目を閉じて「おや、まさか戦うつもりなのかな。空澱大人」……え?」
その名前は縁者内でも秘匿にされている筈であった。
知るだけでも権限が必要な筈のその名を、地方の縁者が知っているわけがない。
セナノはゆっくりとミナコから距離を取る様にして、ヒバリを構えた。
「貴女何者……?」
「何者……何者かぁ。私は海原ミナコだよ。それ以上でもそれ以下でもない。私は私」
揶揄うようにそう告げる。
突如、岸壁に激しい波が打ち付けた音が響いた。
蝉の声と競り合うように、その音は激しさを増していく。
「でも、そうだね。この力の事を言っているならこう名乗った方がいいね」
ミナコは今までと変わらぬ快活な笑みで、その名を告げた。
「
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