第12話 ここまでが読み切りソラねぇ……
『――以上が、折津エイに対して我々が持っている情報です』
その言葉で、オペレーターは説明を終える。
迎えが来るまでの間、セナノは折津エイという存在について説明を受けていた。
しかし、それを素直に受け止められる人間などそう多くはない。
少なくともセナノは理解はしても受け止められていなかった。
今、彼女はぽかんと口をあけながら空を見上げることしか出来ない。
目の前には見慣れた青空が広がっている。今日も快晴だ。
「災主級……え、災主級がサンドイッチを食べてた……?」
絞り出した理性が発した言葉はそれであった。
『正確には疑似媒介体です。あくまで空澱大人との繋がりを持った窓ですね。ですので、くれぐれも慎重に接してください』
「わかってるわ。大丈夫、安全に縁理学園まで届ければいいのよね」
その言葉にオペレーターはほんの少しの間黙り込む。
沈黙に嫌な予感がしたセナノは、きわめて明るく話しかけた。
「それにしても、こんな貴重な経験は中々ないわよ。災主級と朝ご飯を一緒に食べた縁者なんて過去に一人もいないでしょ?」
『その……セナノさん』
「なに?」
『折津エイさんは、学園ではなく廻縁都市に用意された特別な家に住んでもらう事になります。既に、ご家族には連絡済みだそうで』
「へぇ、隔離施設じゃないだけマシね。というか、家を用意するなんて随分と気前が良いのね。誰が手配したの? 縁理庁? 学園?」
『それで……その……』
「あ、わかった学園でしょ? 縁理庁の指示なら絶対にこの後、蒐集だもの。ま、蒐集出来たらの話だけど」
早口でそうまくしたて、オペレーターの言葉を封殺するセナノ。
しかし彼女は気が付いていた。
災主級と接しても現状は問題がない縁者。
それも、間もなくS級になる実力とまともな人格。
仮にそんな人材がいたとして、誰が放っておくだろうか。
賢いセナノは既に答えを導き出していた。
『セナノさんには、これから折津エイさんと一緒に暮らして貰います』
「終わった……」
セナノは膝から崩れ落ちた。
エリートとしての栄光の道から一転、 まさか猛獣と一緒の檻に入れられるとは。
そんな彼女を心配したのか、遠くの木陰で休んでいたエイは首を傾げながらセナノへと近寄ってきた。
原因だというのに、エイは不思議そうにしている。
「大丈夫ですか?」
「ええ。大丈夫。……ちなみになんだけど、もしも私と一緒に住むって言われたらさ、すごく嫌じゃない?」
「住む?」
「そう。一緒に住んで欲しいのよ」
「住む……」
エイは考えるように黙り込む。
そこに光明を見たセナノは更に言葉を付けたした。
「私、朝は4時に起きて鍛錬だから早朝からうるさいし、基本はデリバリーで料理も味気ないわ。住んだら、耐えられないかも!」
「そうですか。……わかりました」
「そう!」
本人が嫌と言えば、考え直すだろうとセナノは考えた。
何せ、相手は災主級だ。
無理やり住ませようとすれば、それだけで天災が起こりかねない。
故に、エイが断ればこの計画はなかったことになるのだ。
そう、断れば。
「セナノさん」
エイは名を呼び、微笑む。
それからその場に座り込み、三つ指をついて丁寧に頭を下げた。
何度も繰り返してきたであろう所作は美しく無駄がない。
こんな時だというのに、セナノは少しだけ見とれてしまっていた。
「不束者ですが、よろしくお願いします」
「……わぁ(呆然)」
三鎌セナノ、16歳にして災主級疑似媒介体との同棲が決定した瞬間であった。
【縁理庁極秘記録】
文書コード:EN-XF-SORA-0914-OBS
機密等級:最上位限(縁理庁上層部限定)
記録日:令和██年8月15日
担当記録官:鎮縁課副補佐官 楽楽 ラク
観測対象:個体コード《A-E1/空澱疑似媒介体》
観測者指名:三鎌セナノ縁者(特別観察役)
■ 概要
本報告書は、特別観察対象『A-E1』こと折津エイが、A級異縁存在『EN-8773:伽骸ノ嫁』との実戦下において示した観測外的行動、ならびに迷宮環境への介入的干渉について記録するものである。なお、本件は縁者三鎌セナノの同行による随時観察下にて行われ、後述の経緯により同縁者へ新たに『特別観察役』としての任務が付与されたことを確認する。
■ 現地状況
当初の任務は、E級異縁存在の接触試験であり、民間人保護および縁者適性の測定であった。
しかし、現地にて確認された異縁存在は、かつて収容済みとされていたA級存在EN-8773『伽骸ノ嫁』であり、迷宮生成・物理縫製・血液媒体構造など複数の高位特性を確認。
三鎌セナノ縁者は即座に現場判断を行い、戦闘用NARROWを用いて実戦対応に移行。
NARROWの運用によって一次的な焼却成功・構造破壊が確認されたものの、対象は迷宮内にて第二形態へと進化。
該当進化体はEN-2734『
■ 重要事象
第二形態発現以降、三鎌セナノ縁者は領域拘束と縫製干渉により行動不能に陥る。
その際、保護対象であった『A-E1』が単独で異縁存在に接触。
以後の迷宮構造は記録不可能な位相変異を開始。
・既存の迷宮構造が自然の青空へと書き換えられる
・異縁存在EN-8773の完全消滅(物理・霊的両面での消失)
・迷宮そのものの消滅と、空間帰順化
すべてが数十秒内に発生。なお、当該迷宮内における位相・縁波・封応値等は、災主級存在(Ω級)出現時と一致する値を記録。
その後、折津エイが三鎌セナノ縁者を保護し、会話を経て事態は終息。
■ 折津エイの行動観察要点
・異縁存在EN-8773に対して敵対行動を取らず、干渉の末に消滅させる
・迷宮構造自体を夏の自然環境へ書き換える特異能力を有する(手段不明)
・出現直後、位相揺差および縁波が災主級に達する
・一貫して情動の乱れを見せず、民間人・縁者への危害なし
■ 三鎌セナノ縁者の対応評価
・敵性存在に対する即時対応力およびNARROW適正は極めて高い
・作戦外状況に対する情報抽出と報告判断力も優秀
・ただし、過信による危険行動および独断行為も見受けられたため、今後の戦術共有および連携意識の教育的補強を推奨
なお、折津エイに対して友好関係を維持できた唯一の縁者である点を重視し、今後は『特別観察役』として任命。
折津エイの行動・心理・位相変動を密接に監視し、必要に応じて縁理庁への報告義務が課せられる。
■ 推奨対応および今後の処置
1. 折津エイは『制御下に置かれた観測災害候補』として暫定分類
2. 三鎌セナノ縁者は引き続き『折津エイの観察』および『融合異縁存在の交戦データ取得』に従事
3. 折津エイの縁的覚醒が進行した場合、速やかに階位審査を実施
■ 備考
折津エイが伽骸ノ嫁を敵と認識していたかは不明であるが、消滅時に何らかの祝詞的発話を行っていた記録が断片的に存在する。
当該音声構造は既存の『
【縁理庁 特別観測報告書】
文書コード:EN-8773-INT-REPORT-B
作成日:令和██年8月█日
作成者:第十一監査局 記録部職員・未公開記録草案
提出先:不明
■ 件名:EN-8773『伽骸ノ嫁』の一時的活性化と新規交戦記録について
本報告は、既にS級異縁存在として収容済とされているEN-8773『伽骸ノ嫁』が、令和██年8月、局所的に出現・活性化した件について、現地対応チームによる記録、および交戦に参加したA階位縁者による初期報告をもとにまとめたものである。
なお、本報告は一部情報に機密指定がかけられていると見られ、出現原因や背景情報については十分な情報が提供されていない点に留意されたし。
■ 概要
・対象異縁存在『伽骸ノ嫁(EN-8773)』は過去に三名の縁者を戦闘不能とし、蒐集に成功した事例は過去一度のみ。
・本件では、同存在が突如収容外にて活動を再開。
・対応したA階位縁者『三鎌セナノ』は、現地で未登録の支援対象(詳細不明)とともに行動。
・戦闘において、三鎌縁者が携行していた対異縁兵装『ヒバリ』が起動し、最終的に対象の活動を封じるに至る。
・当該異縁存在の活動再開原因、または制御系統の不全については、監視局より別途調査中とのみ通知。
■ 戦闘概要(要点)
・異縁存在EN-8773は、突如として
・三鎌縁者はこれを発見し即応。
・対象は即座に縫製呪式を発動、近傍の構造物および死骸から「嫁形骸骨体」を縫合。
・縫合された躯体は白骨と血濡れの婚礼衣装を纏い、周囲に強制的な婚礼認識を発生させる。
・対象による干渉を受けながらも、縁者は最終段階にて『ヒバリ』を展開。
・対象の『裾』構造が異常に成長したことから、破断ではなく焼却・消滅処置が採用され、これに成功。
■ 特記事項:
・当該戦闘において、三鎌縁者の支援対象とされた未登録個体の詳細は、記録上に明記されていない。
・また、現場付近には観測記録にない“干渉跡”が複数検出されており、現象的な後遺反応が報告されている。
・本件の再活性要因については、記録上に「何者かによる封印不備または試験的再構成」の可能性が示唆されているが、裏付けは得られていない。
■ 今後の対応提案(暫定):
・EN-8773の一時活性に関して、過去の収容情報および実験記録の全面洗い直しが必要と考えられる。
・また、当該縁者による戦闘記録および兵装の展開状況を踏まえ、実地検証を実施すること。
・本件に伴う外部記録非公開区間の存在も確認されており、何らかの未開示計画が関与している可能性あり。
※備考:
報告担当者は、対象出現や縁者の行動に不自然な連鎖がある点を指摘しているが、それ以上の調査権限を持たないため、詳細な追記は保留されている。
(本報告は草稿段階にあり、正式提出が停止された形跡あり)
※注記:本報告には、特定の異縁存在の構成や制御に関する明示的情報が欠落しているが、何らかの意図的編集、もしくは機密遮蔽が実行された可能性がある。
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