第7話 説得判定……ギリギリ成功!
あっぶねええええええええ!
俺の目の前で上位存在に少女が連れていかれるところだったああああ!
「どうして邪魔したんですか? あれはエイの漫画を奪おうとした死んでいい人間です」
「ダメダメダメダメ……」
隣にいるソラに小声で言いながら俺は必死に首を振る。
俺達は今、映画館廃墟を後にして近くの公園に来ていた。
道が舗装され木々も良く管理された、所謂お散歩に向いていそうな公園だ。
セナノと名乗った少女は、何やら報告があるとかで少し離れた場所で電話をしている。
それにしても、突然あの地下劇場にセナノちゃんが入って来た時は驚いた。
最初はイキったクソガキが肝試しにでも来たのかと思ったがどうやらそうでもないらしい。
なんか光ってる羽根持ってたし。
上位存在がいる世界、イカれた髪色の美少女、明らかに原理不明の発光アイテム、そしてスマホでずっと聞こえていた男の子大好きワードの数々……間違いない。
ここには異能的な何かがある、良い感じにファンタジーな現代日本だ。
なんという素晴らしいご都合主義転生。神は俺を見捨てていなかった……!
洒落怖の大ハズレみてえな村だけがある世界じゃなかったんだ!
「やっぱり殺しましょう。いらないですよ」
「だから駄目だって……」
俺から漫画を奪った時、セナノちゃんは気が付いていなかった様だが隣の上位存在がマジでやばかった。
虫を殺すような気軽さで、何かをしようとしていたのである。
途中で慌てて止めたけど、セナノちゃん一部記憶が飛んでいたみたいだし……あんなこと絶対しちゃ駄目だよ……。
そしてたぶんアレが天移だ……。俺が最後にされるやつだ……。
「エイは優しいですね。服まで脱がされていたのに」
「それはどっちもダメージ受けたから相打ちというか……まあ、こっちも悪かったし」
俺の性別を知ったセナノちゃんは信じられない様子で、映画館を出てすぐの茂みで俺の事をひん剥いた。
その時の俺と言えば、笑顔で天移をしようとしているソラに止めるようにジェスチャーを送るので必死だったのだ。
「とにかく、殺しちゃ駄目」
「殺すのではなく空っぽにするだけです」
「その屁理屈通用しないって学習しようね」
「……エイ、少し生意気ですね」
「エッ」
ま、マズイ。遠くから蝉の声が聞こえてくる……!
近くの茂みにいるのかなぁ?
そうであって欲しいなぁ!
「お、俺がソラを止めたのは理由があるんだよ! ほら、この漫画!」
俺は話を逸らそうと漫画を手に取る。
そして、表紙を指さして言った。
「このキャラ、さっきの子に似てない? ねえ、似てるよね!」
ソラは何も言わず漫画の表紙と遠くのセナノを交互に見比べる。
俺が先ほど読んだ漫画に登場したキャラクターの中に、炎を使うツンデレヒロインで赤髪の子がいた。髪型こそ違うが、その印象は似ている。
「……言われてみればそうですね。人間の特徴なんて気にしたこともありませんでした」
「でしょ? 似てるでしょ!? だから殺すのは勿体無いって思ったんだよ~! それに、漫画を読んだ後ってそのキャラクターになりきるのも楽しいっておじさんが言っていたし! ここは殺さずに、俺達のコンテンツの一つとして楽しむのはどうかな!? ね、殺さずに生かしておこう!」
「なりきる……そうですね! 見るだけではなく実際に体験するのは大切な事だとヨイも言っていました! そのなりきり遊び、ぜひ私もしたいです! えー、じゃあ私がなりきるキャラクターは――」
俺の話術が今日も冴え渡っている。
これくらいのちびっ子なら、創作物のキャラクターになりきって世界観に浸るのは普通の事だ。
絶対に食いつくと思っていたぜ!
後はこのまま話をずらしてずらして、いいタイミングでセナノちゃんとバイバイ出来ればそれで良い。
「エイ」
「ん? どうしたのかな?」
ソラは漫画に視線を落としたまま、俺に問いかける。
「話を逸らせてホッとしましたか?」
その瞬間、まるで心臓を氷の手に掴まれたかのように錯覚してしまった。
思わず呼吸が止まり、脳の奥でガンガンと音が響く。
上位存在を騙した事がバレた場合、矮小な人間ごときがどうなるかなど明白である。
俺は恐る恐るソラの前に三つ指をついて土下座した。
俺の前世、魂の故郷に伝わる最強の謝罪方法である。この世界にあるかは知らない。でもたぶんあるから意味は通じると思う。
「…………ご、ごめんなさい」
『ふふふ、エイは可愛いですね』
突如、脳内から声が聞こえ俺は思わず顔を上げる。
そこで、青い目と視線がぶつかった。
何も言わず、漫画を片手にソラはこちらを見下ろしている。
ただそれだけで、自分よりもずっと幼い体躯の彼女が、とても恐ろしい存在であると無理矢理再認識させられた。
『今まで通り、仲良くしましょうね。なりきり、楽しみです』
口は動いていないのに、脳内にソラの声が響く。
これだけで怪現象なのだが、恐ろしいのがいつの間にか俺が土下座していた場所がコンクリートの上ではなく草の上になっていたことだ。
都市の面影など無い、見慣れた山々とその背後にある冗談のように青い空。
蝉の声は、まるで俺を笑っているかのようだった。
『エイ、起き上がってください。せっかくの服が汚れてしまいます』
「は、はい」
「……うん、いい子ですね」
ソラは口を開いてそう言うと、俺の顎を撫で頬へと指を這わせる。
そして、無邪気に笑った。
「では、あの人間で少しの間一緒に遊びましょうか」
「……ハイ!」
もう駄目だ、オイラには制御できねえよぉ……!
なんだよこの化け物パワー! 小さい田舎で祀られて良いレベルじゃないだろ! 国が総力を挙げて崇め奉れよこいつ!
「では、戻りましょう」
「ウィッス!」
今の俺は下っ端美少女♂生贄でしかない。
そうして三下らしく頷いた瞬間、辺りの景色は元の公園へと戻っていた。
丁度その時、連絡を終えて戻ってきたセナノちゃんが俺を見て首を傾げる。
「服、どうして汚れているのよ」
「……さっき、脱いだ時に」
「っ!? ご、ごめん」
先ほどの事を思い出しているのか、セナノちゃんは顔を真っ赤にしている。
ごめんね。まさかこんな見た目で、男だとは思わないよね。
でも油断した方も悪いからね。
「あ、そうだ!」
いい事を思いついたとでも言わんばかりの明るい声を隣の上位存在があげる。何か知らないけどやめてね。
「次に確認した時は性別を女に変えてこの人間を怖がらせましょう!」
やめてね。
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