第40話 久々無双!

「はい皆さんこんにちはー。雨月紫雲のダンジョン配信、今日は北の大地からゆるりとやっていきましょうかねぇ」


ひらひらとカメラに向かって手を振る北斗。

彼の口から普段は言わない単語が告げられたことに視聴者達の困惑でコメント欄がざわつき始めた。


“きちゃ!……ん??”

“雨月きちゃー!……え?”

“今なんて?”

“北の大地?”

“え、どういうこと?”


「あはは、びっくりしてますねえ。どういうことか説明しておきますと、前に配信中のリクエストで全国ダンジョン巡りってあったじゃないですか。勿論他のリクエストにもお応えするつもりなんですが、これが一番時間がかかるっていうのもあるので、並行してやっていこうということで今日は第1回目です。本当は1番目は沖縄の予定だったのですが……ニュースをみた人は知ってると思うけど、ね?」


本当はもう一回沖縄に行くつもりだったけど、雅達にさんざ言われた後にあっちに行ったら琉歌からも同じようにされそうだし、今度無茶したら本気で分からせるからなって言われたから、少しでも遠くに逃げるように来たとは言えないねえ……。

まあ、沖縄のことを思えば呑気にダンジョン巡りに来ましたってなことをしたらまた炎上しそうだったのもあるケド。

そんなことを考えつつ、ダンジョンブレイクが発生しかけたのを阻止した事当事者であることを告げると身バレに繋がってしまうためそれとなく伝えれば、視聴者はそういえばといった感じで話題がそちらに逸れて行く。


“そう言えば、ダンジョンブレイクが発生しかけていたんだっけ?そりゃいくら雨月が強くても行けないよ”

“確か那覇ダンジョンを統括してるクランのマスターとSSSランクの探索者が片付けたんだっけ?SSSって存在するランクなんだって思ったわ”

“わかる、都市伝説だと思った”

“どんな人なのかは流石にニュースに載ってなかったね。国内唯一って言ってたし身バレ防止かな?”

“国外とかに色々言われて振り回される可能性もあったりするからじゃない?”

“どゆこと?”

“強いんだからこっちに応援に寄越せとか言ってきそうってこと。国外の方がダンジョン数圧倒的に多いし、頻繁にダンジョンブレイク起こってるからさ”

“そういう可能性あるのか”


「そういうこと。そんな中のうのうと配信出来るほど馬鹿じゃないですからねえ。なんで沖縄に行ってはいたけど配信はせずに一旦東京に帰って、その後に北海道に来たって事です。だから配信が遅くなってしまって……ごめんなさい。北海道も土地柄か他のダンジョンには出ないモンスターもいるので、楽しみに……は違うかな?まあいつも通り見守っていてくださいな」


視聴者の中にちょくちょく紛れてる有識者のおかげで説明の手間が省けるのは有り難いが……俺の配信なんか見るよりダンジョンに潜った方が有意義なんじゃないかねえ…??

ダンジョン内に歩みを進めながらそんな事を考えていると、早速目の前にモンスターが現れた。

不燃鳥ふねんどり

小樽に伝わるとされている妖怪で、火葬した男性の腹から現れたと言われている。

火で燃えることはなく、カエルのような足とネズミのような尻尾を持つ、鳥とは名ばかりのその妖怪に準えたモンスターを目にした北斗は一閃。

太刀を抜いたとモンスターにも視聴者にも気付かせる事なく葬り去っていた。


“え、今もう倒したん??”

“今の鳥擬き死んどる!?”

“いつの間に??”

“絶対に雨月とんでもなくレベルアップしてるじゃん、太刀を抜いた瞬間すらわかんなかったが??”

“はわわ……”

“おっそろしいなこの速度”

“というかこうして驚いている間にも手がブレているしその瞬間にモンスターの首吹っ飛んでるから確実にレベル上がってる、うん”


そんなに言うほどかねえ?

確かに那覇ダンジョンの1件でそこそこレベルは上がったけど…言う程ではないだろうに。それに上層エリアのモンスター相手だし、そんなのほぼ誤差だよ、誤差。

おそらく世間一般的に元々残像に等しい太刀筋しか見えなかった人間が残像すら見えない状態になっている事を誤差と呼ぶことはないのだろうが、それを本人が自覚する事はない。

スタスタと上層エリアをまるで散歩している(実際はほぼ蹂躙)かのような気軽さで進みながら辿り着いた中層エリア。

イワイセポという、兎のような姿をした悪鬼……とされている北海道の伝承に伝わるそれを模したモンスターが現れたのだが、哀れこちらもあっという間に北斗の太刀の錆にされており、視聴者達はやっぱり北斗はやばいという声でコメント欄を埋め尽くしていた。


「あ、ちなみにこのイワイセポ、見た目が兎みたいだからなのか兎肉をドロップするんですよねえ。いや、美味しいから俺は好きなんですけど……これを落としたやつの見た目が、ね?だから食べる時は元の姿を頑張って脳内から消しています」


“確かにあの姿が頭にあったら食べるの嫌だわw”

“めちゃくちゃ食べづれえ……兎肉自体は美味しそうだけども”

“雨月って絶対舌肥えてるよなあ。だってめちゃくちゃ高級品落ちるダンジョンの食材沢山持ってるだろうし”

“味は全部高級品な食材食べ放題とかそれどんな富豪“

“いいなあ。ダンジョン産の食材がもっと安ければ手が出るんだけど近くの支部で売ってる食材、全部馬鹿みたいに高いんだよね”

“そうか?安価で美味しい食材も沢山あるでしょ?”

“そんなもの存在するの?どんなに安くても数万円が最低価格の食材をホイホイは買えないよ”


「あー……それって、言い方は悪いけど希少食材を専門に扱ってる支部かもしれませんねえ。俺は行ったことないけど話に聞いたことがあるんで。場所によっちゃ良くドロップしたり初心者でも採取出来るからって理由で安価なものもあるんで、良かったら別の支部を覗いてみたらいいかもしれませんね。果物、野菜辺りの採取品やオーク肉あたりなら普通のものより少し高いかな…?くらいで売られてたりしますよ。普段買いは出来なくても特別な時のご褒美にとかではいいかも」


実際に目の前でオークを殲滅しながらではあるが、そんな北斗の言葉に再びコメント欄がざわつく。

高級食材しかないとコメントを書いていた視聴者はそんな支部があるのか!!と驚きを隠せていなかったし、それ以外にも北斗の気遣いにいくつものコメントが飛び交っていく。

あまりの速度にお礼のコメントを見つける事が出来ず、一言謝罪を告げてから先へ進む選択肢を取るくらいには凄まじい勢いだったことだけ伝えておこう。


「先ほどの食材についての補足、というか、より安価に手に入れる方法を少しだけ。初級ダンジョンならオーク肉とかならそれなりの頻度でドロップするので、探索者でそこそこレベルがある人なら取りに行く方が早いかもしれませんね。もしも一般の方なのであれば、知り合いに探索者がいれば頼む、ダンジョン協会に依頼するのも手です。まあ、偶に底意地の悪い人もいるんで、依頼金を馬鹿みたいに釣り上げたり、知り合い相手でもべらぼうに高い金を請求する探索者の可能性もあるので、1番安全なのは支部で買い付ける事ですね。知り合いの子が詐欺紛いに金を取られた事例も知ってるんで、脅しではなく実例です」


“ひえ……実例あるんだ”

“雨月とか、大型クラン所属の配信者しか見てないから探索者は全員いい人なんだって思ってたけど、そんな人もいるのか……”

“いるんだよなあ……そのせいでこっちにもヘイト向くから勘弁してほしい”

“私もこの前急に金返せ詐欺師!!って言われてなんだ!?ってなった。そのせいか!”

“うわあ……風評被害の被害者が……”

“探索者も大変なんだなあ……”

“さっき食材高いって言った者だけど、雨月のアドバイス通りに探索者の旦那に頼んできた。支部のこと言ったらもっと早く言って欲しかった!って次は大量に持って帰ってきてくれるって約束してくれたよ、ありがとう”

“↑おお、良かった!!”

“旦那さんが探索者なの羨ましいけど、十分怪我には気をつけるようにしてほしいな。危険とも隣り合わせだからさ”

“俺、一緒に配信見てた娘に美味しいフルーツ食べたい!って言われたから頑張ってくるわ。勿論身の安全には気をつけて行ってくる。娘と妻を養わないといけないしな!”

“私も、食費を浮かせるために頑張ろう……初級から”


「おお、結構いますねえ。同胞さんにはお悔やみ申し上げることしか出来ないですが……何かあればすぐに協会に相談してくださいな。あ、でもどなたか言ってらっしゃったようにダンジョンに潜る探索者に命の危険は付き物ですから、十分に準備してから行ってくださいねえ?俺、せっかく見てくれている視聴者の方が怪我したりいなくなったりするの嫌ですから」


そのせいで悲しい思いをする人は増えるのは嫌だからねえ。

……この前、散々思い知らされたし。

北斗の仮面の向こうの瞳が遠くを見つめているとは露知らず、視聴者の中の探索者は彼の気遣う言葉を受けて絶対に無事で帰ろうと心に誓ったとか。

そして、少なくともそんなことを言いながらすでに下層エリアに突入し首無し騎士を蹴散らしながら進んでいる北斗ほどではないにしてもレベルを上げようとも。

どうして首無し騎士が脇に抱えている最大の弱点でありながら狙い難い位置にある筈の首のみを貫きながら突き進めるのだろうか。


「おっと……んー……本当、ダンジョンごとに偶にこういうイレギュラーは発生するけど……なんでジュエルゴーレムがオリハルコンゴーレムと一緒に群れてるのかねえ。硬いものが群れるなんてただただ面倒臭いだけだってのに」


ドゴォ!!!!

おおよそ人の足で蹴り上げたとは思えない轟音を立ててジュエルゴーレムが天井に突き刺さった。

それが致命傷だったのかそのまま消滅し、ドロップ品だけがカランカラン……と申し訳程度の音と共に床に転がる。

同時に、オリハルコンゴーレムの群れが僅かに後退した。


「逃すと思っているのかい?それは俺を馬鹿にしすぎだねえ」


レベルがさらに上がった今、太刀を抜くまでもない。

1体のオリハルコンゴーレムの腕の節目、細くなっている部分を鷲掴むとそのまま横へと振り抜いた。

そう、、だ。

鈍くどこか耳障りな音が響き渡り、鞭のように何往復もオリハルコンゴーレムを群に打ち付け続ける。

バキリ、ボキ、ゴリ。

やがて音が静まり、手に持っていたすでに機能停止……つまり絶命しているオリハルコンゴーレムだった成れの果てを床に放り投げれば、北斗の目の前で十数体と群れていたゴーレム達は壊滅状態となっていた。


「ん、終わり。久しぶりにやったけどやるもんじゃないねえ、ただ重たいだけだ……太刀で切り裂いた方が楽でいいですねえ。さて、先に進んでいきますよお……あれ?」


“やばい”

“やばいね”

“やばあ”

“え、雨月って剣士…?だよね?”

“腕力だけで、うん十倍は体積差があるオリハルコンゴーレムを掴んで…?”

“振り回してた……??”

“振り回してたねえ……?”

“探索者って、どんな役職というか、スキルでもこんな風に出来るの…?”

“圧倒的風評被害”

“全探索者がそうだと思うなよ”

“無理です”

“雨月は特殊個体です”

“雨月は規格外なんよ……”

“めっちゃ言われてるw”


そんなに言われるほどのことか???

えええ、特殊個体って…それなりに鍛えてる探索者なら出来るだろうに。

またしても視聴者の反応が理解出来ずに首を傾げる。

その後オークジェネラルを薙ぎ倒し、いい加減にしろ!視聴者を置いていくな!と怒られることを北斗はまだ知らないのであった。












あとがき


久しぶりの無自覚無双タイムでございました。

書いていて楽しかったです、北斗くんにモンスター蹴散らしてもらうの。

そして前話できちんと書いていませんでしたね、栞ちゃんは女の子です。


皆さんはどんな北斗くんを見たいんでしょうかね?

これからも色々書いていきますのでゆるりと楽しんでくださいませ。


そして、重ね重ね、本当にありがとうございます!

評価も応援もフォローも一件でも増えることに携帯に向かって拝み倒しております。

こんな拙作でも楽しんで頂けているのでしたら何よりの喜びでございます。

では、また次のお話でお会いしましょう。

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無自覚最強探索者がゆく、お気楽ダンジョン珍道中 ゆきおんな @setu1997yukime

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