第28話 終焉への加速

北斗の声に応えるように姿を見せたのは黒づくめの人物たち。

一見すると最近北斗がよく顔を合わせている八咫烏と見紛うような格好だが、よくよく見れば身に纏っているのは安物のマントにお祭りの会場で子供達が好んで買うような面というお粗末な格好。

手に握られている剣や弓、杖にここまで敵襲を隠さない者がいるのかと北斗は頭を抱えて深く息を吐いた。


「で?あえてお伺いしますが……貴方方は俺に何用で?っとと」


放たれた弓矢をなんなく避け、弾丸や魔法は斬り捨てる。

以前フォルトゥナと出会った時に買った不滅の首飾りを使わないのは、相手が使うに足らない相手だからに過ぎない。

太刀を振るって魔法の残滓を打ち払い、顔色一つ変えぬまま目の前の襲撃者らへと視線を動かした。


「もう一度問いますよ?俺に、何用ですか」


無言。

俺とは対話するなという指示を受けているのか、なんと答えるべきか言葉が見つからないのか……まあ、こんな上層エリアすら攻略がやっとと言えるような貧相な装備の探索者に俺が負けるわけないがね。

付け焼き刃、おそらく元々は探索者ですらない人間を無理やりレベリングさせて高価な武器や装備を買い与えて体裁を整えたってのが丸わかり。

剣先もブレブレ、奇襲をかける時の弓矢の軌道は良かったのに今はてんで明後日の方向に向かっているし、魔法も然り。

すう……と細まる仮面を隔てた北斗の目の鋭さに襲撃者らは肩を跳ねさせて震えが強まっていく。


「だんまりかい?流石に何か言ってもらわないと困るんですけどねえ……」

「……の、せいだろ」

「え」

「お前のせいだろうがよ!!!」


襲撃者の中の1人、声からしておそらく北斗と同年代か少し下に思える少年だろう人物が叫ぶ。

お前のせいと言われても北斗には全くもって心当たりがない。何を言っているのだと首を傾げつつ、果たして原因になったことがあったろうかと記憶を探っている間に少年は叫び続けていた。


「お前みたいななよっちい見た目のやつでも成功してるんだから俺たちでも楽勝だってマネージャーが言って、俺たち、VTuberでも出来るだろうって探索者系配信者にシフトチェンジさせられたんだよ!!!売れてないなら、別のことで稼げってな!!VTuberにもなれなかった落ちこぼれ野郎が変なところで目立つから俺たちが割を食ってるんだろうが!!!」

「あれまあ……それはそれは、随分な逆恨みで。こちとら面接まで通ったのに俺程度どこにでもいるっていう理不尽な理由で落とされたってのに。その上で俺が出来ることをやっていたら目立つなって??流石にそれは酷すぎやしませんかねえ」

「うるせえよ!!!どうせ平凡顔なんだろ!?顔隠してるんだからな!!!だから落とされたんだよ!!大人しく家に引きこもってろよ!!!」


思いっきり私怨入ってるしあんまり色々叫ぶとせっかく事務所名伏せてんのにバレるぞ??

別に顔が整ってるとか自意識過剰なこと言うつもりはないけど、落ちたなら家に引きこもってろは酷いもんだねえ。

俺を落としたのはエターナルの人間でそこに俺の意志は介入していないし、この坊ちゃんらをVTuberからNewTuberに転向させたのもエターナルの人間。

坊ちゃんらが意見すべきは上層部であって俺じゃないってのに、怒りに支配されて目の前が見えなくなってる感じだな。

まあ、ここで無視して置いて行ってもまた絡まれるだろうし、逆に置いて行ったことでモンスターに殺されでもしたらそれこそ寝覚めが悪い。

ここで少しばかり痛い目を見てもらおうか。


「そこまで言うなら掛かってきな。俺からは反撃せんよ。好きなだけ魔法を撃つなり弓矢を放つなり斬りかかるなりしてくればいい。……その代わり、分からせてやるさ。坊ちゃんらが、上層部の連中が無意識に甘くみている探索者という職業。それが誰にでも出来るっていう考え、ぶち壊してやろうねえ」


北斗は鞘に太刀を納めたまま構え、口元に不敵な笑みを浮かべて襲撃者──おそらくはエターナル所属の探索者達──を待ち構える体勢をとった。

それが彼らの逆鱗に触れたのだろう、冷静さを欠いた獣に似た動きで襲いかかってくる。

剣筋はめちゃくちゃで、初めて剣を手にした子供のよう。

掠りもしなければ空振りばかり、北斗に届く距離に近づくことすら出来ていなかった。

魔法や弓矢も狙いを定める事すら知らないのか見当違いの方向にばかり飛んでいて悪戯に床や壁に浅い傷をつけているだけ。

流石にここまで実力が伴っていないとは思っていなかったなあ……よくもまあこれで上層エリアとはいえここまで俺に着いて来れたもんだ。この祇園ダンジョン、上層エリアとはいえ特殊能力持ちのモンスター多いから、下手するとどこかで戦闘不能になっててもおかしくなかったぞ……?

半ば呆れつつ攻撃を全て避けていると、当たらないことに激昂した襲撃者達は北斗に出鱈目に攻撃を仕掛けてくる。

ありゃ……本当に何も考えずに攻撃してるんだねえ……しかもこんなに奇声というか、大声を出して。

このままだと、ちとまずいか。

とある気配を悟った北斗が早々にケリをつけようと動きかけたが、一歩遅かった。


「あー……くそったれ」


珍しく口調が荒くなる北斗と、何かを悟ったのか北斗への攻撃の手を止めて挙動不審になる襲撃者達。

次第に周辺に気味の悪い薄霧が立ち込めその場にいる全員を覆い尽くしていく。

その向こう、無から生まれ出でたのは、モンスター。

否、この場合は妖怪だと言い表すべきなのだろうか。


「百鬼夜行……祇園ダンジョンの中でごく稀に発生すると言われていたが……負の感情とこの騒ぎに惹きつけられたか」


上層エリアのモンスターだけでなく、中層エリア以降のモンスターも入り混じり群れを成して探索者を襲う祇園ダンジョン限定の異常現象、『百鬼夜行』。

普通に攻略をしていれば発生はしないとされているこの現象はここ数十年起こっていなかった。

ではなぜ、今回起きてしまったのか。

百鬼夜行については発生する原因として、いくつかの要因があるとされている。

ダンジョン内に負の感情が蔓延すること。

無闇矢鱈に騒ぎ立てること。

ダンジョン内で、人を襲う、傷つけるような行為を頻繁に行うこと。

他にもあるとされているが、今回の場合はこれら全てに該当してしまったが故に発生してしまったのだろう。

北斗は険しい顔をするだけに留まっていたが、襲撃者達はそうはいかない。

少なくとも自分たちが敵う相手ではないと理解してしまった彼らの状態は悲惨の一言に尽きる。

パニックに陥り北斗を傷つけることが目的だったことも忘れて逃げ惑い、しかしモンスター達に囲まれてしまっているために逃げられずへたり込み泣き叫ぶ始末。

北斗としては放置しても良い存在なのだが、ここまで騒がれると発生した百鬼夜行がさらに悪化する恐れもある。


「致し方なし、か。坊ちゃんらには悪いが、ちと大人しくしててもらいますよっと」


アイテムボックスからユニークアイテムの一つである捕縛縄を取り出すと、襲撃者達へと投げた。

この捕縛縄、使用者が捕らえたいと願ったものを全て縛り上げてくれるお手頃アイテムなのである。


「おい、てめえっ!」

「まだ騒ぐかい……別に構わんが、これ以上最悪の事態、それこそ深層深淵エリアクラスのモンスターまで呼び寄せたかったら好きにすればいい。深淵エリアクラスになると俺ですら命の保証はないから、そちらさんまで守れるとは限らないけどねえ」


その一言でぴたりと押し黙るあたり実力差はきちんと理解しているのだろう。

なのに襲撃してきたのは愚かなのか逆恨み故か。

このまま黙っていてくれさえすれば、余計にモンスターを呼び寄せることはないだろう、そう思い百鬼夜行へと向き直った北斗だったのだが……。


「お前みたいな奴でも俺たちを守るくらいの役には立つだろ!?もし守れなかったらエターナルが黙ってねえからな!!!」


前言撤回、本当に愚かだったらしい。

下手に名前が明らかになればエターナル所属の他の無関係のVTuberらが被害を被る。

だからこそ北斗は敢えて事務所名を声に出すことなく伏せていたというのに声を大にして言ってしまったのだから。


「はあ……俺が何のために正体について言及しなかったと……まあいい」


深くため息を吐き、呆れ果てた視線を襲撃者達へ向ける。


「まずは百鬼夜行を片付ける。坊ちゃんらについては後だ。……自分から所属を明かした以上、お咎めなしはあり得ないから覚悟しておくことだ」


彼らは言い逃れはできない。

今もなお続く配信の中で堂々と宣言してしまったのだ。

自分たちの所属を、あまりにも身勝手極まりない理由で北斗を害そうとしていた事も。

彼らに待つのは、穏やかな破滅か、それとも。

北斗はその行く末を思い緩く頭を振ると、百鬼夜行を殲滅すべく駆け出した。











あとがき


本当はもっとざまあな展開にする予定だったのが、書けば書くほどこんな展開に。私は北斗くんを戦わせたがりだったのか…?


ともあれこれで次話以降エターナルの面々にも罰を与えていくことになります。

作者、頑張ります。

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