第29話 終焉と三人目

百鬼夜行の殲滅は30分も掛からなかった。

今はアイテムボックスに片っ端からドロップ品を放り投げており、背後で30分間ひたすらギャーギャーと騒いでいて、今もなお五月蝿い襲撃者達のことは放置である。

その姿すら、世間の評価を落としていることにも気づかずに。


“エターナルの所属のVTuberって礼儀正しいって思ってたんだけど違ったんだ…”

“正直幻滅”

“ヤラセ…ではないよな。調べてみたけど百鬼夜行って起こそうと思って起きるものじゃないって出てきたし”

“ていうか、炎上商法にしてはいくらなんでもおかしすぎるよね”

“↑その通り。ここまでの実力者の雨月がわざと炎上するメリットがわからん”

“これ、本当にただの逆恨みなんじゃ?”

“雨月、あんな断られ方してるから本来なら恨む側だぞ?恨まれる理由ないのに”

“俺通報してきた。ダンジョン内での襲撃って悪意ありすぎ”

“私も通報済み。これはないわ、雨月くん可哀想”


コメント欄にも北斗へは同情的な意見が多くみられ、エターナルには厳しい声や通報済みのコメント。

きっとダンジョンの外には色々と面倒ごとが待ち構えているのだろう。

ドロップ品を集め終えた北斗がそのことに目頭を抑えながら振り返ると、いまだに口汚く北斗を罵り叫ぶ襲撃者達。

一瞬ここに置いて行ってやろうか、と考えが浮かぶも、ユニークアイテムを使用して捕縛している以上そんなことをしてしまっては非難の矛先は北斗へ向くだろう。

流石にこちらに非はないというのに非難を受ける謂れはないと帰還石を取り出し祇園ダンジョンの入り口へと戻った。


「おやおや、我が事務所所属の探索者をそのように捕縛するなんて……最近何かと話題に尽きない雨月紫雲殿はかなり野蛮なようだ」

「……こちらとしては百鬼夜行を呼び起こすきっかけを作られた上に襲撃をかけられた身、身の安全のために捕縛するのは至極当然のことでは?」


かつて、北斗がエターナルへ面接に赴いた際に例の言葉を吐き捨てた男が卑下た笑みを浮かべて待ち構えていた。

北斗は北斗で穏やかに見えて冷たい笑みを浮かべて応戦していたが。

背後の襲撃者達は口々に北斗がいかに悪辣かを大声で叫び、それに目の前の男が大仰に答える。

ああ、なんという茶番劇なのか!!

周囲の冷ややかな視線に気づきもしないで、自分たちの世界に浸っている愚か者共。

とはいえこの茶番劇を延々とみているつもりはない。

北斗は反撃をすべく口を開きかけたが……それよりも先に声を上げた者がいた。


「あらあら……とっても元気な方々ですねえ。真実はすでに世間に知れ渡っているというのに、尊敬しますわ」

「……なんで、ここに」


美しい銀髪に蒼い瞳。

鶴の意匠が施された着物を身につけたその女性は北斗ににこりと微笑んでから彼の前に立ち男から守るかのように対峙する。

扇で口元を隠し薄らと開かれた瞳には、男に対する怒りの色が浮かんでいた。


「おお!これはこれはダンジョン協会祇園支部を統括するクラン『飛燕ひえん』のクランマスター、『氷鶴ひょうかく』殿ではありませんか!ええ、ええ、そうでしょう!この雨月紫雲という男は世間に己の悪辣非道さが知れ渡っているというのにそれを認めるどころかうちの所属の探索者をあのように捕縛しているのです!どうか、貴殿のお力添えを!」


それに気づきもしないで男は我が意を得たりと意気揚々と女性に近づき、いかに北斗が悪なのかと声高々に語り始める。

ますます周囲の視線が鋭く貫いていることに気づくこともしない男に北斗はため息をついたが声を出すことはしない。

が何か行おうとしているのを邪魔するほど愚鈍なつもりはないからねえ、俺は。


「あら?もしかしてお耳が悪いのかしら?ダンジョンの中で同業者に襲いかかり、祇園ダンジョン内で稀に発生すると言っても条件が揃わないと発生しないはずの百鬼夜行を発生させて。その上で厚顔無恥にも無実ですと言いたげに語るそのお口。本当……ある意味で尊敬ですわね?」

「ひ、氷鶴殿……??何を」

「彼、雨月紫雲殿は配信を切る余裕もないほどに貴方達の対処に追われていたんですのよ?それすなわち、ダンジョン内でのやり取りも、それをみてどちらが悪かわかっている視聴者の方々にこのダンジョン外でのやり取りも全て垂れ流し。ああ、ちなみに百鬼夜行は強制的に引き起こすことが不可能とされている現象ですので、雨月紫雲殿がアイテムを用いて引き起こした……などという虚言はおやめ下さいね?」


別に切ろうと思えば切れたが……まああえて垂れ流してたことは別に言わなくてもいいか。

さて、随分と顔色が悪くなってきたが……ここからどう巻き返す算段をつけているのやら。


「し、しかしですね!?襲ったことも、我が事務所の探索者を脅してやらせた可能性も!!!」

「あら。そうだとしたらどうして貴方はこちらにいるのですか?雨月紫雲殿は予告なしにここで配信を行なっていたはず。もし彼が貴方の事務所の方々を脅していたとしても、どこで配信をするか予告していない時点で待機するのは不可能では?」

「そ、それは彼らが私に事前に相談をですね……!?」

「ならばその時点でダンジョン協会なりダンジョン省に相談すれば良かっただけのお話。なのに何故あえて泳がせてこんな大衆の面前で騒ぐように糾弾しているのですか?まるで、雨月紫雲殿を悪にしたくて堪らないように見えますわ」


1に対して10の威力で畳み掛ける女性に次第に勢いが無くなっていく男。

野次馬からも女性の言葉が正しいと支持する声が大きくなり、エターナルの人間にとっては居心地の悪い空間になりつつあった。


「そして、配信をみていた視聴者の方達から警察やダンジョン省の方へ大量の通報があったそうで……事態を重くみた警察ならびに省庁の方がすでに対処に動いているとか。今後も活動、出来ると良いですわね?」


実質的にこれがトドメだったのだろう。

血相を変えた男は捕縛された襲撃者達を置き去りにどこかへと走り去って行ってしまった。

置いて行かれた側は茫然自失である。おそらく助けてやるから北斗を……と唆されでもしていたのだろう。助かると踏んでいたのが見捨てられてはこんな反応にもなろう。

一転して大人しくなった襲撃者達を通報を受けてやってきた警察に引き渡し、野次馬も居なくなって一息ついたところで女性が話しかけてきた。


「お久しぶりですね、北斗さん。……いえ、今は紫雲さんとお呼びした方が良いでしょうか。ふふ、卒業以来でしたから少しはしゃいでいるのかもしれません」

「今はいいけど…この格好の時はそれで頼むよ。本当に久しいねえ……澪那」


雛鶴澪那ひなつるみおな

雅達同様で高校生時代の元パーティメンバーであり、先ほどの男が言っていた通り祇園ダンジョン支部を統括するクラン『飛燕』のクランマスターであり『氷鶴』の二つ名を持つ支援魔法使いである。

見た目の冷たさに反して本人は結構おっとりしているんだが……敵認定するとさっきみたいに情け容赦一切ないんだよなあ。


「全くもう……雅さんも水琴さんもつれないですわ。北斗さんに先に再会しているのに私に教えてくださらなかったんですよ?私もお会いしたかったのに……北斗さんも北斗さんですわ。どうして今まで連絡をしてくださらなかったんです?別々の道に進んだとはいえ私たちは元パーティメンバーですのに」

「それは雅にも言ったけどレベル上げのためにほとんどダンジョンに潜っていたから基本誰とも連絡を取ってなかったのよ。それに、それを言うならお前さんらだってクランマスターになってたなんて連絡くれなかったってのに、俺を責めるのはおかしくないかい?」

「うっ……そ、それは、私も就任してからと言うもの多忙を極めておりまして……」

「なら、この件についてはおあいこってことで」

「はい……」


澪那はこのまま色々と話したそうにしていたが、流石に彼女らの同級生兼元パーティメンバーである東雲北斗としてではなく面識がないはずの雨月紫雲として誰の目に触れるともわからない場所でこのままでいるのはリスクが高く、場所を飛燕のマスタールームへと移した。


「……なるほど、そんなことが……国外勢力については私ではお力になれないかもしれませんが、国内勢力については全力でお力になりますわ。これもでクランマスターですもの」

「ありがとう、そうしてもらえると助かる。……雅と水琴は、その、相手を潰しに行こうとするから……」

「ああ……私も北斗さんに手を出されるようなら容赦は致しませんが、流石に法に則って対処いたしますし……他の皆さんは少し過激かもしれませんね」

「ちっとばかし俺に対して過保護が過ぎるんだがねえ……俺はそんなに頼りなく見えるかい?」

「いえ、そんなことは決してございませんわ。ただ、私を含めて皆さん北斗さんの事が大切なのです。だからこそ北斗さんに対して過保護になってしまうのです。どうかご容赦くださいね」


大切、と言われたことに北斗はどこか複雑そうに頬をかきながら渋々頷く。

流石にそこまで言われたら嫌だ、とは言えないなあ……仲間からのそういう系の言葉に弱いんだよ、俺は。

澪那は北斗のその一面を知っているため、くすくすと笑い声を漏らしつつホッとした顔を見せる。

北斗は知らないが、卒業以降北斗は本当に誰とも連絡を取っていなかったため、仲間内でも安否確認が難しかったのだ。いっとう懐いていた水琴などは半泣きになるほど、北斗は仲間に愛されている。


──そしてそれは、きっとこれまでに出会った人間も、これから会うだろう人間も同様に。


「澪那?突然黙ってどうしたんだ?」

「……いえ、なんでもありませんわ」


ニコリ、と完璧な笑顔を浮かべる澪那に何かを隠したことを察しながらも北斗は追求しなかった。

澪那達元パーティメンバーが北斗自身に害を成すことはないと信用しているからこそ、何も言わなかったのだ。

その後北斗が帰ろうとして澪那に泣きつかれ、京都に一泊したのは言うまでもない。仲間には弱い北斗なのであった。













あとがき


はい、3人目のお仲間澪那ちゃんの登場です。

決してヤンデレ枠と言うわけではなく、北斗くんの元パーティメンバーは総じて愛が重いだけです。

それこそ北斗くんのためなら…と大抵のことはします。


ただ雅くんや水琴ちゃんをまた登場させることが出来ていないし、かといって元パーティメンバーばかり登場させていたらフォルトゥナの面々が出てこなくなってしまうので、バランスよく登場、させたいなぁ……と頑張っております。

応援よろしくお願いします。

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