第27話 不変の終わりへの始まり

北斗への嫌がらせの域を超えた悪意は普段のダンジョン探索にも及んでいた。

どこからともなく放たれる銃弾に弓矢。

角を曲がれば火炎や氷塊をぶつけられ。

背後から斬りかかられたことも数知れず。

しかもそれら刺客たちは言語を隠しもせずに襲いかかってくるのだから、あまりの愚かさに流石の北斗も頭を抱えた。

まあ、それはいい。国が増えても手数が増えても、この刺客たちは千歳に伝えて捕縛・連行して貰っているからまだいいのだ。

今はそこに別の面々も混ざって北斗を攻撃してくる。

それが、エターナルだった。

かつて北斗のことをいくらでもいる存在だと吐き捨てて追い出した相手。

雨月紫雲=北斗だとエターナル側は気がついていないが自分たちの事務所の探索者にとっての目の上のたんこぶだからこそ今のこの状況に便乗して表舞台から消そうとしているのだろう。


「諸外国の方々もそうだが……俺は簡単にやられるつもりはないんだがねえ」


北斗は悪意を見て見ぬふりをしているふりをして様々な証拠を揃えていた。

とは言え国外のことは個人にできる事はないと千歳に全てを委ねていたので、エターナルに関することに限るが。

誹謗中傷に関してはかつてフォルトゥナと初対面の際に炎上した時のように魚拓をとり全てを弁護士に任せ。

物理的な干渉に関しては見えないところにカメラを配置し録画と練習と称した配信をして目撃者を増やし。

出来ることをコツコツと行い北斗に悪意はないと広めていった結果、僅かずつだが北斗は何も悪くないのでは?という意見を浸透させていった。

元々北斗の純粋なファンは北斗の実力が本当だと信じているのでそこからも広がっていたのも大きい。

そして今日、北斗はダンジョン配信を行うために渋谷ダンジョン……ではなく、新宿ダンジョン……でもなく。

雅と水琴が手を貸していると、やらせだという世迷言を言わせないために、配信では初めてのお目見えの超級ダンジョン、京都の祇園ダンジョンへとやってきていた。


「はい皆さんこんにちはー。雨月紫雲のダンジョン配信出張編、ゆるりとやっていきましょうかねえ」


“きちゃ!!”

“きちゃー”

“雨月大丈夫??最近色々と大変そうだったけど“

“本当にその通り。練習配信でもいつも襲われてたし、怪我ない?”

“銃が腕掠めたの見た時、腕吹っ飛んだ古代龍の時のを思い出して血の気引いた…”

“古代龍ってヤラセなんじゃなかったの??”

“いやいや、ミコちゃんのチャンネルで配信されてたのにヤラセなわけないじゃんか。AIにしてはリアルすぎるし”

“でもそんな噂出回ってるじゃん。火の無いところに煙は立たないでしょ”

“いや、ダンジョンっていう命懸けのとこに行ってるのにヤラセする方が馬鹿でしょ。自分に実力がないからって雨月を僻むのやめな??”


おうおう初手からコメント欄で喧嘩始めないで???

俺が困るから本当にやめて??

善良なファンに喧嘩をさせたり困らせるために配信してるわけじゃないんだよなあ。


「はいはい、喧嘩はそこまで。俺に対する根も葉もない噂については法に則って対処中だから安心してほしいとしか言えないんですけど、安心してくださいな。ということで、今日は京都の祇園ダンジョンに来ています。たまには世界に類を見ない日本特有のダンジョンに潜ってみようかと思いまして。ぜひ楽しんで行ってくださいな」


北斗の言った日本特有のダンジョン。

それがどう意味を持つのかというと、このダンジョンに出現するモンスター全てが日本由来のものなのだ。

以前戦った九尾の狐や水琴が戦った土蜘蛛もそうなのではないか?という疑問もあるだろうが、他のダンジョンでも出現自体はするが、ほとんどが深層や深淵エリアのエリアボスとして、そして逸話が強いものばかり。

上層エリア〜下層エリアにはほとんど出現しないのだ。

それが、この祇園ダンジョンでは上層エリアの所謂雑魚モンスターにも日本由来のものが出現する。

さらに言ってしまうと、モンスターだけではない。

ドロップ品からユニークアイテムすら全て日本由来のもの。

これが百鬼夜行の異名も持つ祇園ダンジョンの特性だった。


“そうだ、祇園ダンジョンって言ってた!!”

“待って、祇園ダンジョンに和装の雨月?ばり似合うやん”

“日本特有ってことは妖怪っぽいモンスターってこと?モンスター退治する和装のイケメン……似合いすぎる”

“そんなに遠方ダンジョンに行かないからどんなとこなのか気になるわ”

“前にそんな配信を別の人で見たことあるけど、その人すぐに撤退してたから今回がほぼ初見で楽しみ”


「似合います?ふふ、ありがとうございますねえ。なら、早速行きましょうか」


今回は初めての出張配信だから、上層エリアからのんびり降って行きますかねえ。

潜ってすぐに北斗を出迎えたのは人面犬。

体は犬、顔は人間 のなんとも気持ち悪いモンスターだった。

北斗もいくら倒すべき敵とはいえこのモンスターの見た目は見ていて気分は良くなかったのでカメラには映さず速攻斬り捨ててから先へ進む。

勿論コメント欄にはどうして映さなかったのか、それこそこの配信もAI生成なのではないのかというコメントが溢れるが、それを見た北斗が渋い顔(口元のみ)をして。


「いや……だって、人面犬って読んで字の如く顔が人ですよ?倒し方としては首を切り落とすんですけど……人の顔した首が吹っ飛ぶとこ、見たいです?」


“見たくないです”

“それは見たくないです”

“想像しただけで気持ち悪い…”

“雨月の配慮を疑ってごめんなさい、それは嫌だわ”

“普通に見たくないね”


視聴者も想像してしまったのか、勢いはすぐに鎮火して気遣いを見せた北斗への感謝の言葉が溢れる。

まあ視聴者の心配してたのも本音だけど、この映像を切り抜かれて俺が人を殺してるっていう捏造されるのも困るからねえ。本音半分打算半分ってやつ。

人面犬が出てくるたびにカメラに映り込む前に速攻で始末しつつ先へ進めば、次に姿を見せたのは鎌鼬。

三位一体で現れ、刃物で斬られたような鋭い傷を負わせる逸話を持つソレが北斗に傷を負わせようと襲いかかってくるが、上層エリアのモンスター程度が北斗に傷をつけられる筈がなく。

容易く斬り捨てられた鎌鼬は素材に姿を変えアイテムボックスに収納されていた。

よしよし、このダンジョンの素材は珍しいものが多いからねえ。全部とっとかないとな。この鎌鼬が何故かドロップする鎌は切れ味のいい短刀にしたりも出来るし。

その後も留まることを知らずに進み続ける北斗はあっという間に中層エリアの手前までやって来ていた。

ずるずる。ずるずる。

もう少しで……といったころに彼の目前に現れたのは、着物のようなものを身に纏い、ぼうぼうの長い髪で顔が隠れた女型のモンスター、 毛倡妓けじょうろう

またしても人の形をしたモンスターに、北斗は若干口元をひくつかせたが倒さねば話が進まない。

カメラをそっと逸らしてから一閃、首を斬り飛ばした。


「流石に人型は倒すとこ映せなくてすみませんね。コンプライアンス的にも視聴者の皆さんの心の安寧の為にも。毛倡妓は倒すとあの見た目に反して綺麗な反物を稀にドロップするんで嬉しいっちゃ嬉しいんですが……」


“いや、本当配慮素晴らしい”

“前に倒してたアルラウネとかドライアドと違って生身の人間味が強いから助かる”

“倒してねぇのがバレるからじゃねぇの?”

“ヤラセだろ”

“これは映さなくて正解でしょ。ヤラセだとか暴れてる連中は気にしなくていいよ”

“モンスターって頭が理解してても二足歩行の見た目が人間ぽくない人型モンスターじゃなくて人に近いやつは忌避感あるから、本当映さないでくれてありがとう”

“それにこれ、下手にそんなことするとその部分だけ切り取って雨月が人を!!とかってでっち上げする奴居そうだから映さない方が正解でしょ”

“↑その可能性あるのか!”

“もしかしてアンチしてる奴らそれ目的?人として終わってんね”


ありゃ、俺の意図見抜いてる人がいるねえ。

確かに、流石に常識あれば忌避感抱くだろうしその可能性も思いつくか。

これは反省、視聴者を見くびってたみたいなもんだし改めねえとな。


「ご理解ありがとうございます。ちなみにさっき丁度反物ドロップしたんでそれはお見せしますねえ」


カメラを元に戻した北斗の手には、美しく彩られた見るだけで高価だとわかる反物が握られていた。


“うわあ、綺麗”

“あの見た目のモンスターからこんな綺麗なの落ちるの?バグ??”

“残念ながら正しい仕様です”

“本当綺麗、うちの娘の成人式の着物これで仕立てたいくらいに気に入ってるわ。と言うか娘が隣でこれがいいって言ってくるけど気持ちとお値段比例せんのよ……許せ”

“↑それな、絶対高い”

“何の柄だろ、これ。梅か??”

“これもしかして柄何パターンもある系か?”

“それ着物を扱う人からすると喉から手が出る程欲しいやつじゃん”


「お、コメントありがとうございます、それが正解ですねえ。柄は特定とは決まっていません。今回みたいに梅文の豪奢なものもあれば少し落ち着いたデザインのものもありますよ。ちなみに素材も5種類に分かれます」


反物の素材は主に絹(正絹)、木綿、麻、ウール、化学繊維に分けられる。

言うまでもなく最高級品は絹だ。

中には芭蕉布、葛布、科布など植物の繊維を使った希少な高級素材もあるが、ダンジョンもそこまでは網羅していなかったらしい。

補足すると今回ドロップした反物は絹である。

いや、でも本当に。


「この反物みたいに全員の心が綺麗だったら良かったのにねえ……何が面白くて自分たちの事務所への内定を蹴り飛ばす勢いで拒否った癖にその相手を社会的に蹴落とそうとするんだか」


“え?”

“ん?”

“雨月どした?”

“事務所内定拒否られたって何事?”

“あ、最初の配信の初っ端で話してたあれか!”

“確かに言ってたね、なんかされてるの??”


──あれ?

これもしかしなくとも俺やらかした?

心の中で言ったつもりだったのに口に出てた感じかい??

……うん、やらかしたな。


「あー……最古参さんもいらっしゃるみたいですし、うっかりポロリしてしまったんで改めて。実はですねえ、配信者になる前にとあるVTuber事務所に応募してまして。……そう、俺最初はVTuberになろうとしてたんですわ。んで、書類選考の結果は合格。これで VTuberに一歩近づいたぁと胸を躍らせながら面接の日に事務所に向かったらまあ夢ぶち壊し。俺程度どこにでもいる、面接するだけ無駄だと一蹴されて鼻先で扉を勢いよく閉められまして。それでもって皆さんに楽しんでいただけるコンテンツをお届けできるならどの媒体でも関係ないってことでNewTuberになったんです」


“は?何それ”

“うわ、その事務所最低”

“どこにでもいるって……”

“でも俺たちは雨月がNewTuberになってくれて嬉しいぞ!配信面白いし!”

“そうそう!だから気にしなくていいよ”

“むしろそんな仕打ちされたんなら思わず口に出てても仕方ない”


前もそうだったが、優しい方が多くて本当救われる思いだねえ。

問題は、と……。


“嘘だろどうせ”

“同情引いて構ってもらおうとかダサw”

“濡れ衣着せられた事務所さんかわいそーw”

“この詐欺師”

“嘘つき野郎”

“とっとと探索者系配信者やめれば?”


こっちだな。

見た限りコメントは全員別人……捨て垢でも作らせてコメント送らせてんのかね?

ま、言い逃げは許さないが。


「嘘でもなんでもありませんし、面接のお知らせ電話の時に少し違和感を覚えたので僭越ながら音声は記録させてもらいました。今回の迷惑コメントと併せて既に弁護士にお渡し済みなのでご容赦ください。あと……いくら俺に害を与えられないからってこんな配信中に白昼堂々攻撃仕掛けてくるのはどうかと思いますが」


カメラから一切視線を逸らさずに何かを受け止める。

バキリ、と。

掴んだ弓矢を容易くへし折った北斗はぐるりと背後へ向き直り。


「何度か警告しましたよね?これ以上は見逃せなくなりますよと。それでもこうして攻撃すると言うことは……制圧されても文句は言えませんよ?」














あとがき


一話遅れですが、前の話の英文の翻訳間違ってなかったから今更不安になっている作者です。

Google翻訳様にお力添えいただいたので英文自体は大丈夫でしょうが、翻訳は完全私が書いてた元の文章なのでふんわりニュアンスで捉えてくださると嬉しいです。


さて、最初の話以外名前が出てこなかった事務所エターナルとの絡み、ここからどう繋ごうかこねくり回している真っ最中なのでゆるりと待っていただけると嬉しいです。

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