第48話 party(3)

 派手な着物に身を包んだ早坂はやさかは、こういう時―――親友が困っている時、大体おかしなことを吐かすのである。



「―――なぁ。成瀬なるせのとこ……行かね?」



 河北かわきたは、言われてから一瞬考えた。


 悪い提案だとは思わなかったし、もとより自身もそのつもりだったからだ。


 宮崎の―――地元の医師は、成瀬が事故に遭った一年前に、関係者である早坂たちにこう言った。



成瀬なるせ君に―――成瀬なるせ君の脳に、なるべく負担を与えちゃいけない。君たちは、あくまで成瀬君の転入先の学生として彼と接するんだ。恐らく、傷ついた彼の脳が元に戻るとしたら、この遠回りな方法が最も確実性が高い』



 早坂はやさかは、この医師の言葉を覚えていた。だからこそ、こう言うのだ。



「つまり、成瀬なるせの脳を傷つけないようにすりゃ、負担? を与えないようにすりゃいいんだろ? 俺、理科苦手だから良く分からんけど―――」



 確かにその通りだ。けれど、口で言うのは簡単でも、医師の話していた『脳に負担を掛けないように接する』という条件は、従前の成瀬なるせにのみ適用されるもののはず。


 現在の、脳に負荷が掛かっている―――あるいは、掛かってしまった後の成瀬なるせに、その文言は通用するのだろうか。今、成瀬なるせに会いに行ったところで、できることなんて―――


 そんな理性的な考えとは裏腹に、河北かわきたの口は勝手構わず動き始めた。



「―――このままじっとしてても、成瀬なるせのいる場所に近づいても―――どっちにしろそれだけじゃあ、成瀬なるせには何ら影響はないんだ―――なら、いつアイツが目覚めたって、その目の前で『転入先のバカ三人』をすぐ演じられるように、スタンバイしておくのも―――悪くないハズだ」



 それを聞いた早坂はやさかは、フリフリの着物を揺らしながら『でもどうやって』と下を向いた。


 当然、中学生の彼らには東京まで向かう交通手段などありはしない。電車を乗り継いでいく―――なんてのは論外だ。金が足りな過ぎる。


 兄貴に車を出してもらうのも―――事情を説明したところで、保守的な兄は『信じて待つしかない』と言うだろう。確かに、それが正しいのかもしれない。一介の中学生たちには、できることなんて無いのかもしれない。


 でも、でも―――


 早坂はやさか河北かわきたが、俯いたままだった顔を、突然ふっと上げた。


 玄関で立ち話をしていた最中、薄い玄関扉の向こうから慌ただしい足音が聞こえてきたからだ。その足音は、すぐさま扉のノック音、そしてチャイムの連打音へと変わった。


 扉の向こうから聞こえてくるくぐもった声が、ひんやりした朝の空気を震わせた。



「早坂っ! トラックターミナルだ! もう少しで、東京行きのトラックが出るよっ!」

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