第28話 作戦失敗したけど、甘い(1)

 しかしだ。いくら思うような結果にならなかったとはいえ―――映画を見るのは、それ自体きっと楽しい。学校の友達と人気映画を見る経験をするのは、実のところ今日が初めてな僕。


 確かに、甘衣あまいさんの隣で映画を見れたらきっと―――もっと楽しかったかもしれない。でも、そうでなくても良い。


 冬休みが終われば、また甘衣あまいさんは隣で僕にいたずらを仕掛けてくるだろう。


 ―――いつも通りいたずらを仕掛けてくる彼女のにやにや笑う顔を想像したら、なんかもうどうでも良くなってしまった。


 席順は左から甘衣あまいさん、和御なごみさん、かがみさん、ひがしさんがいて、山田、河北かわきた、アホの早坂はやさか、そして成瀬なるせである。


 僕は端っこなのである。ポジティブに考えれば、いつでもお花を摘みに行けるのである。最高である―――多分。


 早坂はやさかは、なんとこの期に及んで『山田……俺と席変われよ』とせがんでいた。自分の細工ミスのせいで作戦が失敗したのに、ずいぶん厚かましいヤツだ。


 僕たちは、早坂はやさかの作戦に200円ずつ出資していたので、なおのことムカついた。山田は、当然のごとく早坂はやさかを突っぱね、左隣のひがしさんと仲良く話していた。それを見た早坂はやさかは、涙を流して悔しがった―――


 


 僕らは揃って着席し、映画のスタートを待っていた。


 体育館のスクリーンなんか目じゃないほど大きな映画館のスクリーンが、さまざまな広告を映し出す。その非日常感溢れる状況の中で、女子たちの小さく話す声がわずかに聞こえた。


 楽しいよね。


 分かるよだって早坂はやさかも左隣で『どれくらい怖いんだろうな』『ビビって声出したら夜ご飯は奢り』『山田は実はめちゃくちゃビビり』などという情報を僕に流し込んでくる(最後のはちょっと気になる)くらいなので。



早坂はやさか、もう良いってそろそろ映画始まるから……」


「それでな、山田は道に落ちてたヒモを蛇と勘違いした結果、近くにいたお姉さんに『ママっ!』って言いながら突撃したんだよ」


「もう良いって山田の話は―――まあ、あとで聞かせてよ詳しくね」

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