第27話 映画館でも、とろけるほど甘い(5)

 ―――勉強したテスト範囲と、実際のテスト範囲が違ったとき。いったい、どんな反応になるだろうか。


 実際、僕はそんな経験をしたことはない。慎重なタイプなのでね。


 しかし、世の中には間違いなく存在するのだ。その最悪な事態に巻き込まれた者たちが―――そして、その断末魔が。


 その答えはきっと以下の通りである。



「お、おいどうなってるんだ! どうしてっ……!」


「話が違う……! いやあああああああ!」



 事態は最悪といって差し支えないらしかった。


 僕らは、映画上映前の9番スクリーン左にある男子トイレで、作戦会議に励んでいるところだ。



「お、おいどういうことだ早坂はやさか! 俺と和御なごみは隣どうしなんじゃなかったのかよ!」


「お、おい早坂。僕はかがみさんの隣になるはずじゃあ……」



 山田と河北かわきたが、早坂はやさかに抗議している。それに対し、早坂はやさかはきまり悪そうに下を向いてこう言った。



「……マジシャンだって、たまにはミスるだろ?」



 マジシャンこと早坂はやさかはしくじったのである。チケットの振り分け時に、どういうわけか配る順番を間違えた。


 その結果、なんと八席ある座席の左半分を女、右半分を男に割り当てるという、何とも意味不明な結果に終わったのであった。


 僕は、もしかしたらこうなるんじゃないかなあと思っていた。何故なら、チケットを配る早坂はやさかの手がガクついていたからである。


 メロメロにされているひがしさんの隣で映画を見ることができる、という喜びにかまけた彼の指先は、意味なきダンスを踊った。その結果が、この失敗である。


 引き続き、二人に責められる早坂は『てへ!』みたいな仕草をしてめちゃくちゃどつかれていた。



「早坂お前『てへ!』で済むと思っていやがるのか!」


「ぼ、僕はこの日をどれだけ楽しみにしていたことか……なあ、成瀬なるせ君もコイツをどついていいよ」



 山田が僕に同調を求めて『何か言っておやり』みたいな表情で見つめてくる。その横にいる河北かわきたも同じだ。


 ―――しかし、僕は転入生の身であって、まだあんまり強い物言いができない。それに、座席なんてどうでもいいじゃないか。


 皆で楽しく映画を見ることができたら、それでいいじゃないか―――なんて思えるほど、今の僕は冷静じゃないのである。



早坂はやさか……」


「な、成瀬なるせ? お前、顔が怖いぞ」


早坂はやさかは良いヤツだ。転入してきた僕にも優しいし」


「へ? あ、うんそれは知ってるけど……」


「本当に良いヤツだよ早坂はやさかは」


「怖いよぉやめてっ! 成瀬なるせ、そんな目で見ないで! 悪かったからっ!」

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