第35話『闘技場に潜む影』

 屋敷に入ると、そこはこの国ではあり得ないほど豪華な内装だった。 そこかしこに絵画が飾られ、調度品も立派な物なのが素人目にもわかった。


「おいおい、この国でこんな生活かよ」


「よく、この街で襲われないな」


「ゼプトに逆らう奴らなんていない...... 殺されるのかオチさ」

 

 アードは冷めた目でレンドに言った。


「こっちだ......」


 武器をもつ黒服が数名立っている。


(確かに、こいつらの持ってるものは遺物レリックか...... 一国の騎士団並の装備だな)


 俺たちは黒服に奥の部屋に招かれた。



 応接室のような場所に通される。 そこではソファーに座る男がいた。 


「お前がカイトか...... 俺はグラウニーだ」


 そう眼光鋭くグラウニーが言った。 その低い声が威圧的に聞こえる。 その風体から並の人物じゃないことは見てとれた。


(まさかボス直々とはな...... 圧力をかけてくるのはこういうやつらの専売特許だが、それとは違う何か異様な感じを受けるな......)


「ああ、用件は伝わっているか」


「......聞いてはいる。 宝玉だったな」


「そうだ。 知っているか」


「なぜそんな遺物レリックを求めている......」


「どうやら危険なものたちがそれを集めているらしい。 何とか手に入れてそいつらから守りたい。 バルジの前教主がそれを売り払ったと聞いている。 あれを扱うのはここぐらいだろう?」


「ふっ、そうだな。 確かに十数年前、それを売りに来た男がいた」


「本当か。 それを手に入れたい」


「......あれの価値を知っているのか」


「かなりのものだと聞いてはいるが...... いくらだ」


「今はここにない...... あれは盗まれた」


「盗まれた?」


「ああ、昔、ここにいた【ファラド】ってやつだ。 そいつはここから盗んで、【ベアルーシの遺跡】というダンジョンに隠れた。 とってこれたらくれてやってもいい」


「取り返しに行かないのか......」


「さすがに遺物レリックひとつにダンジョンに行く気はない。 とはいえ盗まれたのはうちの傷になる。 必ず取り返さねえと示しがつかねえ」


「盗まれたのは大分昔だろ」


 レンドが横から言った。


「......いつだろうが、この社会の掟だ。 奪われたものは奪い返す。 倍にしてもな」


 そう冷たい目でグラウニーは言った。


「う......」


 レンドは言葉に詰まる。 


「わかった...... それを取ってくればもらっていいんだな」


「ああ......」


 そうグラウニーは笑みを浮かべる。


 俺たちはグラウニーと約束して屋敷を出た。


「カイトさん、本当に行くつもりですか」 


 レンドがそう怪訝そうな顔をしている。


「ああ、なにかあるのか」

 

「正直、グラウニーを信用しきれません。 確かに裏社会の掟では報復は絶対、それならなんで自分たちで行わないのか、不自然です......」


「......そうね。 何か企んでると私も思うわ」


「確かに...... 宝玉は遺物レリックの中でも高額なもののはず、自分たちで取り返せない理由があると考えるのが妥当かと......」


 ゼノフォスがそう言う。


「それはわかっている...... わざわざボスのグラウニー自身が出張ってくるんだ。 ただ今は時間がない。 やつに何の企みがあるかはわからんが、ここ以外だとゼアルードしかない...... 最悪、ここにないなら向かうしかないが......」


「それも確かに...... ゼアルードも厄介ではある」


 ゼノフォスもうなづく。


「仕方ないですね......」


「まあ、この四人ならなにかあっても大丈夫だし...... まあ、いいわ」


 レンドとディルセアが言う。


 俺たちは遺跡へと向かった。



 ベアルーシの遺跡は街から程近い山中にあった。 


「ここか......」

 

 石造りの遺跡に俺たちは入る。 そこは円形でコロッセオのようでもあった


「ディルセアどう見る......」


「そうね。 ヴェルザグ時代のものね。 ただこのタイプの遺跡は闘技場として使われていたの」


「賭博か?」


「ええ、奴隷同士を戦わせたり、モンスターと戦わせたり、市民たちの娯楽としてあったみたいね」


「いやな時代ですね」


 ゼノフォスが眉をひそめる。


「まあ、そうやって市民の鼓舞と娯楽、そして戦争に負けたとき恐怖感を植え付けるためにしたと考えられているわ」


「教育か......」


「ええ、小さな時から、そう植え付ければ戦士に憧れたり、戦いに意味を見いだせるようになるでしょう?」


「洗脳の一種ですね」


 ゼノフォスがヒビの入った壁を眺めながら言った。


「......でも、こんなところに隠れる場所なんてあるんでしょうか」


「ダンジョンなのだから、モンスターがいるはずだしな」


「それに十数年前から隠れるなんてありえる? もうとっくに外国に逃げているんじゃない?」


「国の至るところにやつらの目があるから、簡単には外に逃げられない。 もしかしたら宝玉の力で隠れているのかも......」


 レンドがそう言った。


 俺たちが円形の遺跡を進むと、空が見える内部に出た。 高い周囲の壁の上には観客のための椅子のような関段があった。 奥には鉄格子がある。


「なんのリスクもなく、宝玉を使えるとは思えんが...... 何かいる」


「カイト!!」


 ディルセアがいうと、来た場所の鉄格子が降りた。


 

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