第34話『裏社会の影と組織のボス』
「ここかひどいな」
俺たちはマスティアという国の街に来た。 腐臭や油などの悪臭が立ち込め、掘っ立て小屋のような家々が細い路地に立ち並ぶ。
「ええ、ここは他の国では生きられない者たちの避難所のような国」
ゼノフォスが悲しげに言った。
「噂には聞いてたけど、ここまでとはね......」
「他の国じゃスラムだけど、ここは国自体がスラムみたいなものだ」
レンドがディルセアにそうつぶやく。
「国はなにをしているんだ?」
「特に...... この国の王は【ビスクロエ】と言い、歓心を得るため、さまざまな無茶な政策を次々打ち出し、この国を疲弊させました。 今や反乱を警戒して王宮にこもっているとの事」
「歓心......」
「なんか、片方ではすり寄る商人に優遇して、片方では国民にお金をばらまいたりして散財したんだって、それで経済が傾いたらしいわ」
「国の末期にありがちな行動だな...... それであれか」
街には武装した兵士が何人か歩いている。
「ええ、他国からの侵略を警戒するという名目で増税し、兵士を雇っています。 本当は反乱を恐れているとのこと」
「そんなことしたら、また経済が悪化するじゃない」
「外に敵を作ることで内部の目を外に向けさせるんだろう」
「......そうです。 それぐらいしかもはや打てる手もないんですよ。 だから国に裏社会の者たちが入りこんでも何もできない」
ゼノフォスはため息をついた。
「それで他国では動きづらい裏社会の組織の格好の住みかになってるんです......」
レンドはそういうと拳を強く握っている。
(ここまでひどくはなくとも、レンドも同じような境遇だ...... だからowrに同情したんだろうな)
路地に座り込む人たちを見ながら、複雑な心境になる。
(とはいえ、今の俺たちにできることは少ないな)
「それでレンド、ゼプト商会と接触できるのか」
「前にここにクランチの使いで来たとき、仲介したやつがいます。 そいつに当たりましょう」
レンドについて路地を進む。 人相の悪い者たちが物色するようにこちらを見ている。
「なにもしてこないわね......」
「俺たちが武器を持ってるからだろう。 もし、丸腰なら普通に恐喝かさらわれてるよ」
レンドが言うとディルセアはレンドの袖をつかんだ。
「ここです」
一軒の家にたどり着く。 そこは小さな宿屋のようだった。
「【アード】いるか」
そうレンドが言うと、奥から背の低い青年が出てきた。
「おお! レンド、まだ死んでなかったか」
「誰が死ぬか」
「それで何の用だ? クランチ一家はつぶれたんだろ」
「ああ、今は冒険者をしている」
「そりゃよかった。 おめえは裏社会なんて向いてねえからな。 まだ冒険者のほうが幾分ましだな」
そう笑顔で答える。
「まあ、あのときもお前はそう言ってたな。 それでゼプト商会に用があるんだ」
「......おいおい、よりによって、あいつらかよ。 裏社会から離れたんだろ」
「どうしても欲しいものがあってな。 仲介頼めるか」
「あいつらはヤバイんだが...... せっかくお前が来たからな。 わかった、取り次いでやる。 ただ覚悟しろ。 あいつらは約束は守るが、それは商売での話だ」
「わかってる......」
緊張気味にレンドが答えた。
取り次ぎを願い、俺たちはアードの宿に泊まった。
次の日、アードの後をついて路地を進む。
「取り次ぎはした...... 奴らのアジトのひとつに行く。 ただ気を付けろよ。 機嫌を損ねると、奴らは取引を中止して狙われかねんからな」
アードからそう忠告を受ける。
「大丈夫だ。 この人たちは強い。 狙われても逆に返り討ちにするさ」
「いや、どうやら仲間が冒険者だということはわかるが...... 奴らのボスはなんかヤバイんだ」
アードは考えるように言った。
「どういうことだ...... 奴らのボスってグラウニーとか言うやつだろ。 ただの裏社会の人間じゃないのか」
俺が聞くとアードは眉をひそめた。
「ああ...... 確かにな。 昔ならそうだろうが」
アードは言葉を止めた。
「なんだよ」
レンドが聞くと、アードは小さな声で話し始めた。
「......【リズテア】は知ってるだろ。 そいつら全員グラウニーに殺されたって話だ」
「リズテアってゼプトの敵対組織だろ...... かなりの構成員がいた。 それが組織でじゃなく一人でか......」
「......そうだ。 この界隈だと知らんものはいない。 それから奴らに逆らうもんなんていない。 最近じゃ国のお偉方にも関係してるって話だ」
(一人で組織を潰せる力...... 宝玉が売られたのは大分前だから、さすがに関係はないか)
「ここだ......」
そこはこの国では珍しく、大きな屋敷だった。 そこは黒い鉄格子で囲われ、異彩を放っていた。
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