男子高校生は現実逃避をする
1日の終わりにある
「めんどくせぇ……」
心の中で思っていたことをそのまま口にする。やりたいことが決まっている人ならそんなことは無いのだろうけど決まってない自分にとってはこれが地獄への招待状に見えるぐらいにはめんどくさい。
いっそ進路なんて考えないような状況になってしまえばいいのになんて妄想をしてしまう。けどここは学校、なんなら教室内だ。変なことを呟いたなら下手をすれば変な目で見られてしまう。
なんて想像も心に秘めてHRを乗り切る。そうして帰る時間になればさっさと荷物をまとめて帰るに限る。こんなに気分が沈んでいるのだからゲームでもして心を落ち着かせるべきだ。
「
「……今日はさっさと帰りたいんだけど」
「んだよ、ゲームか?」
「そ、進路希望なんて物から逃げる為のゲーム」
「そこまでわかってんなら逃げるなよ……」
そう言われても書くものがないんだから仕方ない、と心の中でボヤきつつ靴を履き替えて学校を出る。帰って何をしようか考えていると肩を叩かれる。
「もう帰るとこ?」
「
「用事は無いけど見かけたから」
「そっか」
彼女は幼なじみの瑠璃で幼稚園の頃からずっと一緒の学校に通っている。高校は流石に別になるのかなと思っていたらいつの間にか一緒のとこに通うことにしていて軽く驚いたのが懐かしい。
「今日部活は?」
「休みだよ、先生がいないから個人練習なんだけど……まぁいっかなって」
「そんなんで大丈夫なのか」
「そんなもんだよ」
瑠璃は吹奏楽部に入っている、と言ってもうちの高校は毎年コンクールで賞を取れる程の強豪でもないし運動部も大きな大会まで進まないので結構緩くて楽みたいな話を以前に聞いた気がする。そのぐらいの方が楽でいいよなと思い出しながら帰り道を歩く。
俺たちは学校まで徒歩でこれる距離(家から近いという理由で選んだ)なので自転車や電車などを使うことはない。なんてことない話をしながら10分程歩けばあっという間に家に着く。
「んじゃまた明日」
「うん。また明日〜」
瑠璃と別れ数軒分歩けば自分の家に着く。さっきの会話が彼女との最後の会話になるなんてこの時は思いもしなかった。
家に帰って風呂や晩御飯を済ませ、やりたくはないが勉強を少しだけしてゲームをする。いつものルーティンのようになった生活をして日が変わる頃にベットに潜る。
「……進路なぁ」
瑠璃にそれとなく聞いたらなんとなくこの辺に進もうかなというのは考えていると言われてきちんと将来を決めようとしていて素直に感心した。自分は進学か就職すらまだ決めていないというのに。とりあえず働きたくないから進学かなとか思っているけどこの調子で大学に行った所で何も変わらずに4年間を過ごしそうでいっそ就職の方がいいのでは、なんて思うことの繰り返し。
「はぁ……」
思わずため息が出る。フィクションのような衝撃的な何かがあれば俺は変わるのだろうか、いやきっと変われない。変わらないといけない状況にならないと俺はきっと変われないのだろう。
「……いっそ世界が滅びればなぁ」
くだらない妄想。自分じゃどうにもできないから他人にどうかしてもらおうとする他責。全て無くなれば、終わってしまえばこんな悩みを抱えることも無くなる。もちろんこんな妄想が聴き届けられるわけもないのだが。
「寝よう。寝たら全部気にしなくて済む」
スマホを枕元に置いて目を閉じる。対して何か疲れるようなことをしてないとはいえ1日起きていると人間は疲れているもので直ぐに睡魔がやってきた。
夢ぐらいは幸せだったらいいな、なんて考えて意識を闇の中に沈めていった。
意識が浮上してきて瞼越しに伝わる光がいつもより強く感じる。アラームはなっていないしまだ起きる時間ではないはずだけどなぜこんなにも明るいのか、そんなことを考えて目を開ける。
そして視界に映るのは綺麗な空だった。
「……寝ぼけてる気がする」
目を擦ってもう一度見てみる。変わらず綺麗な空が映る。小鳥のさえずりが聞こえてきていい朝だ、と感じるぐらいの快晴。身体を起こして周りを見て俺は今度こそ驚愕の声をあげた。
「は!?」
壁がない。というか家が壊れている。天井……いや屋根も壁もない。俺の部屋のあたりから崩れてなくなるようにしてあったはずのものが無くなっている。まるで最初から崩壊していた家に住んでいたみたいな感覚だ。ふと枕もとに置いていたスマホを手に取り電源を入れてみるが圏外が表示される。
「どうなってんだ……」
そこまで一通り慌てたところでもっと大事なことに気づく。家族は?両親は無事なのか?友人たちはすぐに連絡が取れないから確認できないけど両親の無事を確認することができる。僅かな不安を抱きながら俺は両親の寝室へと向かう。
きっとこの時心のどこかでわかっていたのだろう。こんな世界になっていてい親が俺の確認に来ていないこと、いつも俺より先に起きている両親が今日に限って寝ているなんて都合のいいことがあるわけないと。両親の部屋の前に来てドアノブに手を掛ける。まだ崩壊していないこの場所を見て期待に胸を膨らませて部屋の中を見る。
「そう……だよな」
そこにあったのはかつて両親であっただろう大量の白い粉だった。
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