天使は終わりを告げた
骨をすりつぶして粉にしたような感じと言えばいいだろうか、そんな感じの白い粉が両親が寝ていたはずのベットの上にあった。恐る恐る近づいてそれに触れてみる。感触は普通の粉と一緒で掴んでもサラサラと指の隙間から零れていく。両親が死んだというのに一切の実感が湧かない、こんな死に方じゃ実感が湧くわけがない。
「ふざけんなよ……!」
急にこんなファンタジーになったって飲み込めるわけがない。そもそも両親が死んで俺が生き残った理由は?ほかに生き残りがいるならどうやったら連絡が取れる?もしいないなら俺は今後この世界でどうしろって言うんだ。次は何をするべきかと迷っているところにペタペタという足音が聞こえてくる。
「誰だ……?」
人間、それも知り合いなら嬉しい。だけどこんな世界だしもう化け物が出てきたって驚かないぞと覚悟を決めてその足音の主が来るのを待つ。そこに現れたのは真っ白なワンピースに身を包んだ少女?で手には小さな杖のようなものを持っている。
「初めまして」
「え、ああ……初めまして……」
「今日はいい天気ですね」
「ええ……そうですね」
「そちらはご両親だったんですか?」
「そうですけど……貴方は?」
「私はステラといいます」
奇跡的なまでに美しい少女はステラと名乗る。日本人ではないのだろう、それどころか人間じゃない気までする。なんというか雰囲気というか立ち姿が人のそれではない……と思う。そしてその予想は当たっていた。彼女は俺の両親だった粉に近づくと軽く杖を振る、するとその粉だけが燃え上がっていき消えていく。まったく知らない他人に両親だったものを燃やされているのにその光景に思わず見入ってしまう、全て燃えてなくなるまで見終わってから俺は少女に話しかける。
「ありがとう、その……弔ってくれて」
「いえ。そもそもこうなった原因が私ですから」
「どういうことだ?」
「世界を滅ぼしたのは私、ということです」
一瞬にして脳が沸騰するような感覚があった。いますぐに目の前の少女に飛び掛かって殺したい、両親の仇をとりたいそういった感情に駆られる。けどそれをしてももう意味がないしなにより彼女は両親を弔ってくれた。なら罪悪感は持っているだろうし別に彼女に怒ったって両親が帰ってくるわけでもないしな……決していきなり魔法みたいなことをしてたからビビったとかではない、決して。
「理由は教えて貰えるんですよね」
「もちろんです。貴方はこの世界唯一の生き残りですから」
「……なんでこうなったんですか」
「そうですね……」
彼女は少し考える素振りをしてからこう答えた。
「気まぐれ、なんとなく。でしょうか」
「——っ!!」
必死に唇を噛んだ、歯が刺さって血が出ているのがわかる。今この女は気まぐれって言ったか?こんなわけのわからないことで俺の家族も友人もみんな死んだって言うのか。それを許せと?許せるわけないだろう。
「ああ、私の気まぐれという意味ではないですよ」
「なら誰の!誰の気まぐれで俺の……俺たちはめちゃくちゃにされたんだよ!」
「神です。もっとも上位の存在である神の意思ですよ。私は残されたこの世界を管理するだけの天使です」
彼女の話が本当かどうかすら確かめる方法はないし仮に確かめるとして神様の存在を証明されてしまえば俺はなにもいえないのだからこれはそういうものだと受け入れるだけしかないのか。余計に色んな疑問が浮かんで来るしこの話を全く信じる気にはなれないがとりあえず目の前にいる少女を俺は頼らざるを得ない。まずは色々と聞いてみるところからだろうか。
「この世界はもう元に戻らないのか」
「戻りません。バックアップから滅ぶ前に戻るなんてそんな機能はこの世界に備わっていませんから」
「俺だけが生き残った理由は?」
「私からはわからないとしか言えません」
「これから俺はどうすればいい」
「その為に私がいるんです」
彼女はそう言うと軽く杖を振る。すると目の前の空間がぼやけていき人一人が簡単に通れそうな穴ができる。向こう側をのぞき込んでみれば何やら綺麗な景色が見えるが……どこだろうか?
「これは?」
「転移魔法の一種です。私に続いてくぐってきてください」
言われた通りに後ろをついていきその揺らぎを通る。特に変な感覚がすることもなく足を付ける、そこは不思議な場所だった。見る限り小さな島のようで小高い丘の上に綺麗な白い一軒家が建っている。国内なのか国外なのかもわからないけど気温もちょうどよくて住むにはとてもよさそうな場所だと思う。
「ここは?」
「海の上に私が作った島ですね。これからはここに住んで貰います」
「食事とかそういうのはどうするんですか」
「冷蔵庫に勝手に補充されますよ。娯楽も大概のものが揃っていますし……それに私もここに住むので一人になることもありません」
「便利な冷蔵庫ですね………………今一緒に住むっていいました?」
「はい♡」
「この家に俺と?」
「そうですよ♡」
なぜだろう背中に悪寒を感じる。いきなりこんな美女と同棲することに驚いているはずなのだが何とも言えない恐怖のような感覚を味わっている。
「ちなみに断ると?」
「この島から出る手段もなく一人で生きるすべもないのに断ると?」
「すみません冗談です是非ここに済ませてください」
「もちろんです。ではこの場所について簡単に案内していきますね」
こうして俺は世界が滅びたその日に天使と同棲することが決まった。
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