ミオ・アイオライト②
「ミオ、顔を上げて」
倒壊しかかった巨大な電波塔。地上六百メートルを超えるその高所で、ヨウは顔を覆うガスマスクを外す。
目の前には、純白のウエディングドレスを身に着け顔を真っ赤にするミオの姿があった。
「ヨウ……やっぱり恥ずかしいよ。私にはこんな格好似合わないし……」
「いや、すごく似合ってるよ」
深い青色の髪と真っ白な肌、そして純白のウエディングドレスを身に纏うミオは本当に綺麗だった。普段はあまり女の子らしい格好をしないせいか、恥ずかしそうにもじもじするミオを眺めると、ヨウはふうむと唸る。
「けどあれだな。恥ずかしがってるってシチュエーションが素晴らしいな……無理して手に入れてよかった」
「君やっぱり私をからかう為にこれ着せたよね⁉」
「いやいやそんなことはないぞ。俺はただミオの恥ずかしがってる顔が好きなだけで」
「そんなことあるじゃないか!」
「あはは。あ、そうだミオ」
そう言ってヨウは恥ずかしそうに縮こまるミオの頭をそっと撫でる。
「綺麗だよミオ。愛してる」
「っ……バカァ!」
ドレスの裾を掴みミオは顔を真っ赤にして叫ぶ。かつての東京スカイツリーの頂上、屋根が崩壊し、空がむき出しになったその場所で涙目になるミオを見てヨウは笑った。
「もう……最初は小っちゃくて可愛かったのに……」
目の前で怒っているミオは初めて出会った頃の姿のままだった。あの時は随分お姉さんに感じたのだが、今ではヨウの方が身長も追い抜いている。年をとらず、ずっと同じ姿のままの彼女とは違い、ヨウはすっかり大人になってしまった。
「そりゃ十五年も一緒にいりゃ変わるさ。俺も……あとはこの星も」
スカイツリーの眼下から見下ろす景色は地平線の彼方まで続く廃墟と化していた。もう既に地上付近は大気汚染によりガスマスクなしでは呼吸もできない。
「……ッ、ごほっ」
不意に胸の奥で痛みが走り深い咳が出た。この高い場所も長時間ガスマスクなしでいればきっと肺を病んでしまうだろう。こんな時は、機械のミオがうらやましく思ってしまう。
「ヨ、ヨウ! やっぱり無茶だ! 早くガスマスクを!」
「いいんだ……俺がどうしてもってここにミオと来たんだから」
「で、でも!」
「手、出して」
そう言ってヨウはミオの左手を取ると、その薬指に青い宝石……アイオライトの装飾された指輪をはめた。
「っ……」
「結婚してください。俺と、ずっと一緒にいてください」
それは、教会もなければ司祭もいない、見守る人々さえいないあまりに簡素な結婚式だった。
しかしそんな式だというのに、ミオは指輪とヨウの顔を交互に見て、やがてぽろぽろと涙を流し始める。
「いい……のかな? こんな世界で、皆苦しんでいるのに……私、こんなに幸せでいいのかな?」
「……ミオ」
その小さな身体を抱きしめる。人間を模して発生させた疑似体温、しかしヨウにとっては鼓動までも感じれるぐらいにリアルに感じられた。
今、ミオはこの世界にいる。そしてそれが愛おしくて愛おしくて、どうしようもなかった。
「ヨウ……私のこと好き?」
「大好きだよ、ミオ」
「えへへ……私も」
甘える様に体を預けるミオの身体をさらに強く抱きしめる。出会ってから何度も死線を一緒にくぐって、何度も何度も言葉を交わしてきた。
そして今日、初めてミオと唇を交わした。
「……ずっと一緒だよ? ヨウ」
「当たり前だ……」
こんな地獄のような世界で、それでもこの時代に生まれてよかったと心から思った。胸の中にいるミオを死ぬまで守ろうと誓い、
そして――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます