第十九話 素直な誠意には笑顔を、素直な敬意には照れ隠しを。
「本当に、申し訳ねぇ」
そんな声が、カイレアの大通りの広場で響いた。
声の方向では、後ろで腕を縛られたグラードたちが、町民たちに向けて頭を下げていた。
ブラガンが事情を説明しようとした時に、グラードが、「やっぱり俺らの口から謝らせてくれ」と言ったからである。
町民たちの方には、勇者御一行様方の姿もあった。
自分たちの代わりに戦ってくれた、勇者達に、町民たちは恩義を感じているらしい。
町民たちの中にはリューも混じっていたが、一人だけ、冷や汗をかいていた。
これは、フィンの想像だが、おそらくリューは上級魔法を圧倒的に凌駕する威力のユリシアの魔法を見て、相当な衝撃を、あるいは、とてつもない危機感を覚えたのではないのだろうか。
自分の自信をもって作った船は、まだまだなのだ、と。
あの魔法を絶えれるほどの船を作ってこその一流なのではないか、と。
実は、リューはこれから先の人生、努力を続け、大陸一の造船職人になるのだが、それはまた、別のお話。
「俺たちも、あの真珠に、そんなたいそうな意味があるなんて、知らなかったんだ」
「ただ………生きるのに必死で………」
町民たちの納得いかなそうな態度に、自分が最低な言い訳をしていることに気づいたのか、グラードは、途中で話すのをやめた。
やはり、こんな謝罪程度では、許されるわけがない。
そう感じたグラードが、
「どんな罰でも受ける」
真剣なまなざしで町民たちへそう言った。
フィンは、その様子に見かねて、彼らの間に割って入って、グラードたちの事情を説明しようとした。
そんな時、一人の町民から、
「そんなに言うんなら、しょうがねぇなぁ」
そんなヤジが飛んできた。
「じゃあ、『潮祭り』の準備、手伝ってもらうぞ!!!」
「お前らのせいで、だいぶ準備が遅れたんだ!!!」
そう続いた。
そして、彼らは、「早く手伝え!!」と笑いながら、グラードたちの縄をほどき始めた。
フィンたちは、状況が掴めなかった。
どうやら、フィンが後に聞いた話によると、この時の彼らは船でのブラガンの言葉の通り、もうすでにブラガンからグラードたちの話を聞いて納得まで出来ていたらしい。
ただ、グラードたちの真意を知るためにも、何も知らないふりをして、グラードたちを試してみたのだそうだ。
やりすぎなのでは?
とも思うが、これが、陽気なカイレアの町のやり方なのだ。
結果的に、グラードたちの誠意のある謝罪の態度が、彼らの心に響いたのだ。
この雰囲気で、レオ達も安心したのか、
「ユリシア!! おまえ、ほんとにすごかったぞ!! あんなの使えたんなら早く言えよ!!!」
「あんな魔法………王城の魔法演習場でも見たことないです……」
「さすがにね………誰しもがあんな魔法使えたら、魔法演習場どころか、お城まで何もかもなくなってるよ」
皆、ユリシアをほめていた。
ほめられている当の本人は、
「………べつにぃ、あれくらい誰でも打てるよぉ……属性魔法でもぉ、なんでもないんだしぃ………」
と呟いて、宿の方に歩いて行った。
ちなみに、魔力が持てば、の話である。
レオは、ユリシアのその一言に
「あーあ、また布団に入りに行っちまったよ。あのくらいは普通なのかぁ、魔法ってすげぇな」
と反応して、
「いや、普通じゃないですよ!!」
とツバキがそれに突っ込み、
「ユリシアさんも疲れたんだよ、きっと…………きっと。」
とリオが言葉を漏らした。
「っていうか!! リオの魔法もすごかったぞ!!」
「痛みがすぐに引いた!!!」
「まあ、そのために学んだからね」
「ツバキも強すぎだろ!! 俺、グラードに手も足も出なかったのに!!」
「まあ、毎日鍛錬してますから」
「でも、レオもすごかったよ。僕だったら、もう一回グラードに挑んだりできなかった」
「まあ、根性だけは、ありましたね」
「そうだろ!! おれは根性だけでここまで生きてきたからな!!」
「それはそれでどうかと思うけど………」
ユリシアが何でもないかのように宿へと戻った後、三人は何やら、褒め合いをしているようだった。
しかし、フィンには、ユリシアが、三人に褒められて、うれしい気持ちを隠していたように見えた。
こちらに背を向けていたユリシアの耳が、心なしか赤く染まっていた気がした。
見間違いでもいい、ただそうであってほしいと感じた。
宿へと帰る道中、フィンは、
あ、そういえば、勇者様と刃姫様は、今回の事件を通して、本当の意味で持ちつ持たれつの関係になりましたね。
と、歩きながら考えていた。
いや!
確かに、海賊の船に乗り込む時はツバキがレオを持って、飛び降りる時はレオがツバキを抱えてたけど!!
感想そこ!?
次の日、フィンが人通りの増えたカイレアを散策していると、海賊たちが『潮祭り』の準備を手伝っていた。
力のある者は重い荷物を運び、料理が出来るものは露店で出される料理の作り方を教わっている。
彼らは元々、普通に暮らしていたありふれた国民だったこともあってか、当時の知識や経験を生かして、町民たちの仕事を手伝っているようだった。
フィンは、昨日はうまくまとまったものの、幾人かは快く思っていない者もいるのではないか、と胸の片隅で感じていたが、楽しそうに会話をしながら準備を進める彼らの明るい雰囲気にあてられて、そんな思いはすぐに消えていた。
その日の夜、フィンは『潮祭り』という町を上げた大きな行事に胸を高ぶらせつつも、いつもより遅くまで窓から差し込む外灯のささやかな光と潮の匂いに心地よさを感じながら、深い眠りへと沈んでいったのだった。
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勇者御一行様の案内係 丸もりお @marumorio
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