四辻の死神
芹沢
四辻の死神
男は遠い地に住む母親が危篤と知り、深く悲しんだ。男の住む町から母親のいる故郷へは十日はかかる。男は間に合わないかもしれないという思いを抱きながら夜明け前に出発した。
四辻に差し掛かると、後ろから声をかけてくるものがあった。こんな時間に一体誰だと振り返ると、身の丈一間半はあろう死神が佇んでいた。真っ黒な装束を身にまとい、顔は闇より黒いモヤがかかっていた。
「お前、母親の死に目に会いたいのだろう? だがこのままではお前が着いたころには母親はもう死んでいる。そこでどうだ、俺と契約しないか? お前が俺と契約すれば、お前の寿命を母親にわけてやろう。だがしかし、俺の取り分も必要だ。だからお前から取る寿命の半分を母親が、もう半分は俺がいただく。なにもしないとお前の母親はあと三日ぐらいで死ぬだろう。だがお前の命を二週間分捧げれば、母親の命は十日に伸び、お前は無事に死に目に会える。どうだ? 悪い話じゃないだろう」
男は少し迷ったが、確かに母親はもってあと三日と言われている。二週間程度くれてやろう、そう思って契約を承諾した。
「たった二週間ぽっちで母親ときちんとお別れができるんだ。安いもんだろ」
そう死神はほくそ笑みながら男の寿命を二週間分取り、闇に消えた。
男はその後無事に母親の元にたどり着き、なんとか別れを済ませた。
そんな契約のことも忘れかけたある日、今度は父親の危篤を知る。男はまた急いで故郷に向かっていると、四辻にてまたあの死神に出会った。
「また会ったな。今度はお前のおやっさんか。そうだな、もってあと半日ってとこだな。三週間分の寿命で契約すれば充分間に合うだろう。どうだ?」
男は承諾し、無事に父親と別れができた。
そしてまたそんな契約を忘れかけたころ、男に息子が生まれた。しかし息子は体が弱く、五歳まで生きられるかどうかと医者に言われた。
男はあの四辻に立っていた。そこへ死神が現れる。
「久しぶりだな。息子の命を長らえさせるのか。だがそれは数週間単位じゃないぞ。息子はこのままだと四歳の誕生日を前に死ぬ。いくつまで生きさせたいんだ?」
「息子が二十歳になるまで」
男が答える。
「それは無理だ。お前には三十歳分の寿命も残っていない」
男はしばらく黙り込んでから、結論を出した。
その数日後、息子は死んだ。男はその時の契約を未だ忘れていない。
四辻の死神 芹沢 @serizaa
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます