国会

衆議院 内閣委員会(20××年秋)



A党 吉田議員の質疑


吉田議員

「まず冒頭に、本事件で犠牲となられた52名の方々に心からの哀悼を申し上げるとともに、負傷された183名の皆様にお見舞いを申し上げます。

 今回の無差別殺人事件は、我が国がこれまで直面したことのない大規模な特異感情能力犯罪であり、現行制度の限界を白日の下に晒したものであります。

 現場では警察官、自衛官に加え、一般人までもが協力に立ち、特異能力によって制圧に至ったと承知しておりますが、いずれも法的根拠の乏しい中での行為でありました。

 このことは、国民の生命を守るため命懸けで職務を遂行した関係者を、法の網の下で逆に危うくしかねない重大な問題であります。

 そして、今回の事件の被告人でありますが、制圧にあたった警察官、自衛官を殺人未遂、特別公務員暴行凌虐罪、逮捕罪で、民間人を殺人未遂、逮捕罪でそれぞれ刑事告訴しております。この件については、現在も係争中でありまして、暴走する能力者を、危険を顧みず制圧したにも関わらず、特異能力に関する法整備が不十分であることが原因で刑事告訴され、まぁ刑事告訴するのは自由ではありますが、現状では有罪となる可能性があるというのは、法的に不健全であると、私は考えております。

 そこで、順に伺ってまいります。まず国家公安委員長にお尋ねいたします。

 警察法、警察官職務執行法は、現行においては武器の使用について一定の規定を置いておりますが、この特異感情能力の使用については明文の規定が一切ございません。

 それにもかかわらず、今回現場の警察官が自らの能力を用いて制圧に加わった事実が報じられております。

 これは法的にどのように位置づけられるのでしょうか。

 警察官が能力を職務執行に用いることを、現行法は認めているのか否か。国家公安委員長、明確にお答えいただきたい。」



公安委員長答弁


山岡国家公安委員長

「お答えいたします。

 委員御指摘のとおり、警察官職務執行法には特異感情能力の使用に関する明確な規定は存在しておりません。しかしながら、警察庁から発出した通達などにより、それぞれの能力に鑑み、拳銃や警棒などの武器の使用と比較検討し、国民の生命身体財産を守るため、必要最小限度で使うことはやむを得ない旨を伝達しているところでございます。

 そのため、今般の現場警察官の行為は、必要最小限度の力の行使を認める一般的な規定の中で解釈されてきたにすぎず、法的に能力行使を直接的に裏づけるものではございません。

 現場の警察官は、国民の生命を守るため緊急避難的に判断したもので、報告内容によれば、私自身も適正な制圧行為であったと認識しております。」



吉田議員

「今の御答弁で明らかなように、法的根拠は曖昧なままであります。

 現場の警察官は、正義感と使命感から命を懸けて行動した。にもかかわらずですね、法律上は『これは違法ではないのか』という不安を常に抱えざるを得ない状況であります。

 これは一警察官にとっても、また治安機関全体にとっても極めて不健全であり、執行力を著しく低下させるものであります。

 次に、防衛大臣に伺います。

 今回現場には、自衛官数名も駆けつけ、その中には自らの能力を用いて警察官、一般人と協力して制圧に加わった隊員がいたと承知しております。

 しかし、自衛隊法にも特異感情能力の使用を定めた条文は存在いたしません。

 結果として、自衛官は国民を守るために戦ったにもかかわらず、事後にその行為が法的に適切だったか否か、責任を問われかねません。

 これは国を守る重要な任務を負う部隊の士気をも著しく損なう問題であります。

 防衛大臣、この点をどのように認識されておりますか。」



相馬防衛大臣

「お答えいたします。

 委員御指摘のとおりでございまして、自衛隊法にも特異感情能力の使用について明示的な規定はございません。

 先ほど国家公安委員長にもありましたとおり、防衛省としましても、内規として、治安維持や国民の生命身体財産を守るため、必要と認められる場合、現場の自衛官は、状況の緊急性を踏まえ、武器使用基準と同様の考え方で、自らの能力を必要最小限度の範囲で行使することを妨げない、と通達しております。

 よって、今回の対応をしていただいた現場隊員もこの内規に従って制圧行為を実施したもので、適正な職務執行であったと承知しております。

 現行法制下では法的整理が不十分であることは事実であり、政府としても今後検討を要する課題と認識しております。」


吉田議員

「警察も自衛隊も、現場の判断に委ねられ、結果として法的空白の中で行動していたことが明らかになりました。

 では法務大臣に伺います。

 今回、民間人の能力者に対しても、現場の騒乱の中で半ば公的な協力要請がなされ、戦闘行為に従事するに至ったと承知しております。

 しかし、彼らの法的地位は一切整備されておらず、もし仮に過剰防衛や誤認行為があった場合、刑事責任を問われるのか、あるいは民事上の損害賠償を負うのか、全く不透明であります。

 また、命を懸けて協力したにもかかわらず、現行法では特異能力によって相手に与えた損害に対する補償の枠組みも明確には存在しておりません。

 このままでは勇気を持って制圧に向かった民間人に不利益が被る、極めて不健全な法体制ではないでしょうか。

 法務大臣、御所見を伺います。」


河辺法務大臣

「お答えいたします。

 現行法制下においては、御指摘のように民間人能力者の協力について明確な法的根拠はなく、その責任の所在や補償制度も未整備でございます。

 そのため、協力者が不利益を被るおそれがあることは否定できず、制度整備が急務であると認識しております。

 政府としては、今後速やかに法的枠組みを検討し、責任と補償の明確化を図ってまいりたいと考えております。」


吉田議員

「今までの答弁で明らかになったのは、現行制度が全く追いついていないという厳しい現実であります。

 警察官も、自衛官も、そして善意で協力した市民も、法的には空白の中で命を懸けてきた。

 これでは国を守る体制としてあまりにも脆弱であり、同時に国民の信頼をも失うおそれがあります。

 したがって、我が国として喫緊に必要なのは、能力者の人権を尊重しつつ、公共の安全を確保するための明確な法整備であります。

 加えて、その法を運用し、能力者に対応できる専門の組織を創設すること。

 これこそが、国民の命を守るために不可欠な国家的課題であります。

 総理に伺います。政府は速やかに法案を提出し、専門の取締り機関を設立するお考えがあるのでしょうか。明確に御答弁いただきたい。」



木田内閣総理大臣

「吉田委員の御指摘にお答えいたします。

 現行制度の不備により、今回の事件に適正に対処できなかったことは、政府としても真摯に受け止めております。

 能力者の適正な管理と国民の安全確保を両立させるため、法整備を速やかに進めるとともに、これを担う専門の組織を設ける方針でございます。

 具体的には検討中ではございますが、現在警察庁にある特異感情能力対策局を独立した庁として設立する方向で調整を進めていこうと考えております。加えまして、法整備についても進めていく考えでございます。

 政府としては、今後も与野党の御意見を伺いながら、必要な立法措置を速やかに講じてまいる所存であります。」


吉田議員

「はい。是非早急にお願いをしたいと思います。今回はそれぞれの勇気ある方々が行動を起こしたことで、犯人制圧に至りました。

 しかしそれでも死傷者が235名の大惨事です。これは早急に対処せねばなりません。

 今回は時間の都合がありますので、次の機会に能力者の適正な登録、管理についてもお尋ねいたします。ありがとうございました。」



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