第3話 希望を糧に
かひゅかひゅと不規則な息を漏らすシュイン。彼はゴブリンの腕を震える手で
全員が息を呑んだ。誰もが飛び出したい思いでいっぱいだった。
しかし、そんな気持ちを
――真っ直ぐ背中を突き破った。
「うっ、ごは……っ!」
緑色の腕は赤に染まり、彼の背中からその異様なまでに鋭い爪を覗かせた。
ゴブリンは邪悪な笑みを深め、
「っ。……っるせない!!」
あまりの惨状にセラは激情を露わにした。
彼女は宙に浮かせていた魔導書と腰に備えていたワンド型の杖に持ち変え、構えたかと思うと杖の先端から淡い光が漏れ出した。そして、自らの毛先から一本の髪を抜き取り光に添えるように落とした。
すると、髪の毛は燃えるように消え、光は紫色へと変わり、より輝きを放ちダンジョン内を明るく照らした。
どこからどなく風が流れる。地面は揺れ、
対価を
「セラ、それ以上はまずい!」
輝きが最大まで達したそのとき、リアの隣にいたバッカスが叫んだ。
「やめろ! シュインにはまだ息がある! そんなものをここでぶっ放してみろ、全員お
バッカスは目の前を指差す。
そこにはシュインを自らの眼前に突き出し盾のように構えるゴブリンがいた。額には汗を
「くっ……、なんなのよっ!」
怒りを抑えるように語気を強めると、光は途端に収束し、辺りは再び薄らとした暗闇に包まれる。
セラは力なく肩を落とした。
「どうするよ、リア。あいつはこのまま逃してくれるような奴じゃねえぞ……それに、セラにはああ言ったけどな。俺も結構ギリギリだ」
そう怒りを
拳には血が
リアはキサラに目を向ける。
彼女の精神ダメージも相当なもので、シュインの
無理もない、リアでさえシュインの状態は受け入れ難くスキルがなければ今頃、セラのように感情に身を任せた結果バッカスに止められていただろう。
仲間が各々に想いを抱く中、自分だけが酷く落ち着いていた。心は冷え、冷静な頭だけが常に状況の打開策を
まるで物語を
いや、そんなことよりも今優先すべきはシュインだ。
リアは己の苦悩を頭の隅に追いやり、目線をシュインに戻し意識を改める。
「うそ、ですよね……」
すると、突然キサラがふらっと立ち上がった。
覇気のない声は
「また、いつものジョークでしょ? 前に言いましたよね、そういう冗談はやめましょうって……貴方の美徳は誠実なところだって……」
「キサラ……?」
彼女は落とした杖には目もくれず、
「待てっ、て……おい!」
「――離してっ……!!」
キサラの不穏な気配を感じ取ったのか、バッカスが止まるようにキサラの肩に手を乗せる。だが、彼女は目の前の光景が受け入れられないのか声を荒げて、腕を払い除けた。
思慮的でおおらかな彼女からは考えられない行動にリアは内心驚いた。
バッカスも同じだったようで目を見開いて、固まった。
「皆さんは、いいんですか……シュインさんが、私たちのリーダーがあんなふうにされているのに……!!」
キサラの怒りを含んだ声は小さい声音だったにも関わらずダンジョン内へと広がった。
「あいつが……! あいつのせいで!」
そう、ゴブリンを指差した。
目で射抜き殺すんじゃないかという形相で。
キサラの豹変にバッカスは動揺し、リアはセラに助けを求めるが、セラもまたキサラの変化には予想外だったのか酷く
しかし、ゴブリンは彼女の反応が面白かったのか、下劣な笑い声を
「殺す……ッ!!」
「バッカス!」
キサラは怒りが
「離してよっ!! あいつだけは絶対に!」
人好みするようなタレた目は吊り上がり、歯を噛み締めギリギリと音を鳴らした。
セラはキサラを止めようとしない。最悪、彼女の意識を奪い取るしかない。脱出できる可能性が限りなく低下するが仕方がない。そう思ったときだった。
「……ごふっ、――来るな……っ!!」
がなり混じりの声が響いた。
シュインだ。彼は首だけをこちらに振り向かせると――その際にも口からは血が吹き出し、表情は
「しゅいんさん、なぜ……」
名前を呼ばれたキサラは落ち着きを取り戻し大人しくなった。
シュインは
「……はあ、はあ。うっ。り、ーだめいれい……っ。だっしゅ、つしろ……」
生気のない顔で、シュインが静かに口にした。
「せら、たのむ……」
「……っ」
彼が必死に
言葉では語らないが、自分を捨てて逃げろと彼の目がそう言っていた。
「い、嫌よ! なんで私があなたの指示に従わなきゃいけないのよ。……前から思ってたのよね、あなたの指示って、結構外すことがあるって。普段からアレなのに、満身創痍のあなたに冷静な判断ができるはずないじゃない……ほら、リア。言ってやりなさい。承諾出来ないって」
捲し立てるように言ったセラは、肩で息をしながら助けを求めるようにこちらを向いた。声は嗚咽を含み震えていた。
拒絶の意を示すセラにシュインはふっと力ない笑みを浮かべ、次にリアに視線を移した。青く
彼は
リアは拳を握りしめると、唇を固く結んだ。
「セラ、魔法の準備をお願い」
リアは振り向いてセラを見ると、そう冷静に言った。
すると、バッカスは息を呑み、キサラは大きく目を見開いた。セラはリアに詰め寄り胸ぐら掴んだ。
「っ!? ……あんた、わかってるの? それはシュインを見捨てろと言ってるのと同義なのよ!?」
リアは否定するように首を振った。
「シュインは見捨てない……見捨てるわけがない」
力強くセラの瞳を見て言った言葉に、セラは一旦手を下げた。
「今から私は隙を見てシュインを
「
セラの言い分はもっともだった。彼女の言う通り、セラにあのゴブリンを倒す算段はない。無策で近づいても再びシュインを盾にするような姑息な手を使ってくるだろう。
だが、それは通常時であればだ。
「あいつは今、敵のリーダーを倒して慢心してる。その隙をついて腕ごとシュインを救出する。だからセラ。お願い」
今やゴブリンの腕がシュインの止血の役割を担っている。
「……わかったわ」
セラは若干不服そうに頷くと、詠唱を唱え出した。
あとはゴブリンに動きがないことを祈るばかりだ。
しかし、不幸は突然やってくるもので――
リアとゴブリンの視線が交差した。
ゴブリンはにやりと笑うと、わざとらしく欠伸を噛み殺すような仕草を取った。
次いで
すると、突然シュインの肩をがしりと掴んだ。ゴブリンの爪が食い込み血が
「待っ――!!」
嫌な予感がした。リアはシュインへと手を伸ばした。
シュインはブリキのように首をこちらに向けると、優しく笑みを浮かべ、
「……やくそく、守らなくてごめん。りあ、あとはたのん――」
ゴブリンはシュインの言葉を待たずに何の
「――嫌ァァァァァァ!!」
キサラの絶叫がダンジョン内へと響き渡った。
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