第2話 希望とは常に暗闇の中に
―スキル《不屈の飛び火》――
自身の力ではどうしもない局面に立たされた状況に限り発動するスキルで、
効果は簡単で、周囲にいる味方の士気を上げ、悲観的な考えを強制的にシャットダウンさせるというもので、所有者の闘志が燃えれば燃えるほど周りに作用する力が
たったそれだけのスキル。
特別なバフもなく味方のスタミナを上げるわけでも、キサラのような回復効果がある訳でもない。精神に作用するだけのスキル。
だが、たったそれだけがこの状況では何よりも必要な力だった。
シュインのスキルに3人はそれぞれの反応を示した。
バッカスは
セラは魔法の詠唱に集中しているせいか、瞼を閉じたままフッと笑みを浮かべた。
キサラはバッカスの側に寄り彼の回復に全神経を注いでいるのか聞こえていないようで……いや、何度もこくりこくりと頷いていた。
そして、シュインは最後にこちらを向くと、一言
「勝つぞ」
放った。
「うん」
静かに口にされたシュインの言葉は、不思議とリアの頭にスッと入り、片隅にあった敗北という文字が消え去るのを感じた。
「俺は右から奴の横腹を突くから、リアはその隙に接近して傷を負わせてくれ。出来るか?」
「わかった。任せて」
「よし」
シュインはリアの目を見て、そう頷くと飛び出すように駆け出して行った。
リアもそれに続くように動き出す。
ゴブリンはシュインの接近に気付くと猫のような目を獰猛に血走らせ、
シュインは勢いに任せ、ゴブリンの目を目掛けて真っ直ぐ剣を突き刺さした。
しかし、ゴブリンはそれを見越していたようで軽やかに後ろに飛んで回避。シュインの攻撃は空を切った。
だが、おかげでゴブリンの足は地面から離れ、その瞬間を流すシュインではなかった。
彼は
「そこだっ!!」
だが、ゴブリンは一切動じることなく、ひと笑いすると後ろに視線を送った。
そこには杖を顔の前へと突き出すゴブリンシャーマンの姿があった。
「なっ!?」
驚きの声を上げるシュイン。
魔法攻撃の体制だった。
通常、魔法はどんなに簡易なものでも絶対に数秒は要するとされている。
だが、この世界にはスキルというものが存在していて、これが厄介なのだ。
スキルはこの世界の生物なら誰でも授かることができ、最大2つまで所持できる。
中には力を大幅に増長させ、人の力では割れないような岩石を破壊したり。どんな攻撃すらも通さない
その内容は様々だ。
本題に戻るが、魔法はどんなに簡易的なものでも詠唱に数秒は掛かるとされている。努力を重ね短縮できたとしても精々0.数秒で無詠唱など空想の産物と言われている。
しかし、例外はある。それがスキルだ。
もしゴブリンシャーマンに無詠唱を可能にするスキル、若しくはそれに類する能力が備わっていたとしたらシュインは今、敵の手中に丸腰で飛び込んでいるにも等しい。
そう考えた瞬間、リアの脳内には地に伏し動かなくなったシュインの姿が映し出された。
「シュイン……!」
リアはゴブリンへの攻撃を中断し、地面を蹴ってシュインへと手を伸ばす。
「っ!? リア……!!」
シュインの首根っこを掴み、最大限の力で仲間の方向へと投げ飛ばす。投げ飛ばされる直前、彼は目を見開きリアの名を呼んだ。
シュインとの位置が真逆になり、リアは魔法の射程位置へと晒さられることになった。
来るであろう魔法に備え、武器を斜めに
魔法を跳ね返したことなどない。でもここで死ぬわけにはいかない。
リアは決死の思いで敵の魔法に備えた。
しかし、いつまで経っても身を
体勢をそのままで奴らを見ると、そこにはキヒヒヒと
ブラフ。
その文字が
煙幕の込められた魔道具だ。
視界を遮るだけだが効果は十分でその隙に、シュインの側へと後退する。
「リア、お前っ!!」
直後、軽い衝撃と共に赤い髪がリアの視界を掠めた。
「何してんだよ、バカっ!」
叱咤するシュインにリアは首を傾けて、なぜと疑問を口にする。
「あの状況では最善だと選択したまで。司令塔のシュインが
淡々と、それが当然だと説明するリアに、シュインは深いため息を吐いてリアの頭を軽く小突いた。
「結果的にはブラフだったから良かったものを、お前が死んだら皆んな悲しむんだぞ?」
「それはシュインにも言えることじゃ?」
「ああ言えばこう言うな……。でもリア、それを言うとお前も指示出しは出来るだろうが。俺が用事でいない時はお前が指示出してんだから」
「それでもリーダーであるシュインは最優先に生きるべき存在では?」
「あのなぁッ――いっ」
シュインとの口論がヒートアップしていくと、間に紫色の髪が入ってきた。
「ねえ、今が戦闘中ってことわかってる?」
見上げると、そこには眉を
彼女はシュインを叱った後、リアに顔を向けたが視線が交差する瞬間、逸らすようにシュインへと向き直った。
「……そうだったな、悪い。気を引き締める」
「ごめんなさいセラ、シュインが頑固で」
「俺かよっ!!」
「セラ、そっちは大丈夫なの?」
隣でシュインが何か言っているが気にせず、リアはセラに顔を向ける。彼女はふんと鼻を鳴らし不満そうに頷いた。
「なんとかね。バッカスと協力してトロールを倒すことが出来たのよ」
その報告に心なしかホッとするリア。この状況で敵が1人消えたのはありがたい。ずっと平行線で手詰まっていたのだ。もしかすると倒れたのがトロールではなく、スライムの一体でさえ
「じゃあ、こっちに回す余力が出来たってこと?」
「そうね。今はバッカスがキサラの援護ありきでスケルトンと相手取って、い……は?」
これでセラを勘定に入れてゴブリンに当たれる。彼女の援護魔法があれば。
煙が晴れる前にシュインと次の一手について相談しなければと、彼に向き直る。だがそこには誰もいなかった。
「……セラ? シュインは――」
疑問に思ったリアはセラに視線を向けると、彼女は焦ったように杖を持ち詠唱を唱えていた。
なに? そう彼女の視線を辿ると、そこには。
ゴブリンに向かって一直線に駆け出すシュインの姿があった。
「シュイン?」
シュインの身体には赤い
あれは催眠にかかった者に現れる症状で、魔法によって生み出される現象だ。
(催眠、そんないつ……もしかして、あの時!?)
あの時。それは、先ほどゴブリンシャーマンがブラフとして取った体勢。
もしあれが、本当に何らかの魔法……催眠系だった場合、シュインの行動にも合点が行く。
だが、それはあまりにも、計算高く、これでは互角というより、むしろ
弄ばれているような……
そう考えに思い至った時だった――
「――ガハッ」
ぽたぽたと滴る血。漂う臭い。崩れ落ちる赤。
リアは目の前の光景に目を疑った。
「しゅ、いん……?」
震える声で彼の名を呼ぶ。
リアの目の前には、膝をつき肩で息をするシュインと、彼の腹部に腕を突き刺さすゴブリンの姿があった。
「……うそ」
セラは信じられないと言ったよつに呟いた。
「あいつら突然尻尾巻いて逃げて行きやがったんだが、そっ、ちは……?」
退路側で戦っていたバッカスが不思議そうな、だが軽やかな足取りで歩いてきた。しかし、リアとセラの様子を見て不審に思ったのか、足を止め2人の目線の先へと顔を向けた。
「お、おい、シュイン……?」
「待ってくださいよ、バッカスさん! そんな傷で――」
自分の杖を抱くように持ったキサラも慌てて走ってきた。だが、彼女もまた不穏な様子に首を傾ける。
そして、その惨状をエメラルドグリーンの瞳に写した瞬間。
「しゅ、しゅいん……さん?」
カラン、と大事に抱えていた杖を落とすと、目を見開かせ、瞳を揺らしその場に崩れ落ちた。
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