第4話 上級への昇格

 ━━城郭都市じょうかくとしフォースト━━━


 そこはロビン公国の北方に位置し、ロビンの第二の首都と呼ばれる場所。


 広大こうだいな平原と雪原に挟まれた場所で、その境目さかいめに建つ都市は円を書くように大きな城壁に囲まれ、外敵からの侵攻を防ぐ役割を果たしている。

 平原の奥地には森林が広がり、モンスターが多数生息していた。

 反対に雪原側にも存在感のある美しくもけわしい標高の高い雪山が鎮座ちんざしていて、人が住むには不向きな場所だった。


 しかし、フォーストは第二の首都と言われるほどさかえる理由があった。

 

 それは冒険者業だ。


 前述したお通り、森林には多くのモンスターが生息している。その数は周辺の国を軽くしのぎ被害もそれ相応だったが、その分討伐に力を入れてマイナスをおぎって余りあるほどの資産を得ている。

 また、雪山にも豊富ほうふな量の鉱脈こうみゃくが眠っていて、魔鉱石や、その上位素材である魔晶石ましょうせきが多数採れる。

 まさに、冒険者の楽園とも言える場所は、冒険者からこう呼ばれていた。


 冒険の都、と。


 そして、そんなフォーストの中央には領主城ほど大きく巨大な要塞のような建物があった。


 要塞ようさいの中央には大きい門を構え、門の上部にはわしのシンボルが彫られていて、そこが冒険者ギルドだと誰がどう見てもわかるようになっていた。


 通常、都市の中央付近には領主の城が建っているのだが、フォースト初の領主は変わり者で自然を眺めるのが好きだったらしく、平原側の城壁に接するよう城が構えられている。


 そして、本来城を建てるはずだった土地はそのまま放棄され、長い間野放しとなっていた。だが、そこに目をつけたのが冒険者連盟だ。


 彼らは領主への交渉の末、いくつかの条件の上、土地を買取りギルドを設立。

 

 フォーストのギルドは他領――いや、他国のどのギルドをとっても巨大で強固な作りとなった。

 敷地内にはギルドだけでなく、騎士団が演習を行うような広々とした訓練所や宿泊施設、入浴施設までもが揃っていた。

 

 冒険者ギルドとは思えない建物ばかりだが、ギルドの役割はしっかりこなしていてる。


 門をくぐってすぐ目の前にはギルドの本館がその存在を示す。


 1階は依頼の申請や受注が行える受付スペース。部屋の半分を仕切る形で窓口があり、もう半分はロビーのような役割をしていて、壁には依頼の概要がいようや報酬などが記載されたチラシが貼れている。

 部屋の両脇には2階へと続く階段があり、上がってすぐそこその部屋はあった。


 他の部屋よりも一際豪華な両扉があり、その両側の上部には魚を捕えたわしが彫られたドアノッカーが存在感を示している。


 室内は外と比べて簡素な作りだが、槍や斧、籠手ごてといった武器の模造品もぞうひんらがかざられていて、どれも非常に高価そうだ。

 中央にはテーブルを挟む形で置かれたソファー。

 ソファーの側面に沿うように置いたあるのは部屋の持ち主専用のものなのか一回りほど大きいテーブルと椅子がある。


 そんな中、ソファーには1人の筋肉質な男と赤髪の少年が何やら話し込んでいた。


「えっ、俺が上級に!?」


 少年は驚きのあまり席から立ち上がると、男に詰め寄った。


「ああ……だが、少し落ち着け」


 男は少年の反応に眉をひそめると、鋭い目線を少年に向けた。


 目が座れと言っていた。


 少年はこほんと咳払いをしたあと、席に座り直し男の言葉を待つ。


「それでお前はどうしたい、シュイン?」


 そう問われた少年――シュインは、考えるまでもなく答えは決まっていた。


「もちろん、なります!」


 冒険者にはそれぞれランクがあり、下から見習い、下級、中級、上級、そして最上級と区分されている。

 見習いは文字通り冒険者になったばかりの初心者で、ゴブリンやスライムと言った低級のモンスターも狩ることも許されず、都市内の依頼や薬草採取でランクを上げられるようになっている。

 フォーストの中級冒険者は全体の4割を占め、他の地域に比べるとかなり多い方だ。

 上級になるとフォーストでも1割程度しか居らずその存在が極めて貴重だった。


 そして、これはフォースト支部独自のものだが、ランクが高ければ高いほど、その貴重さから相応の恩恵おんけいがある。


 例えば、素材の買取に数パーほどの上乗せがあったり、武器の強化や修繕しゅうぜんをギルドが補填ほてんしてくれるのだ。

 他には冒険者ギルドの証であるランタンが格安になったりなどといった収入面において助かることが多い。


 ちなみにパーティーの区分はトップの位で決まり、リーダーのランクが上級に上がれば自動的にパーティーの区分も上がるようになっている。

 

 つまり、パーティーの運営費がアップし、より品質の良い装備品を買い揃えることができると言うことだ。

 

 だからシュインは二つ返事で応じた。


 シュインはこれからのことを考え、期待に胸をふくらませ、顔の前でガッツポーズを作った。

 

 だが。


「何を考えているのかはおおかた想像はつくが、今すぐじゃないからな?」


 シュインの体がピタリと固定されたように止まった。笑顔は張り付き、人物画のように静止してしまった。


「話しが違う!」


「いや、先に言っただろ。あと数回の任務の達成率次第だって。話を聞いてないお前に落ち度があるな」


「う、嘘だろ……セラを顎で使う算段が」


「悪い、想像の範囲外だったわ」


 項垂うなだれるように落ち込むシュインに、男は肩に手を置き、


「どのみちあと数回だろ。それまでにやりたいことでも思い浮かべてろ」


 そう話を締めるように立ち上がった。


「俺は男児か何かですか……」


 男が立ち上がったことによって、シュインは顔を上げる形になり、仕方なく自分も続くのだが、首の体勢は変わらずだった。


 それもそうだ。男の身長は見上げるほど高く3メートルを優に超えていた。筋肉質な上に大柄なためモンスターに間違えらることもしばしばあるらしい。

 

 あまりの身長差にシュインは自嘲じちょう気味な笑みを溢した。


「どうした、急に」


「……いえ、別に」


 公国内において、シュインの背は決して低くはないのだが、男と向かい合うと毎度首を痛める。

 しかも、彼と一緒にいる際、第三者がどちらかに用事があると、決まって2人を交互に見た後本題に入るのだ。

 シュインにとってそれは居心地が悪いというレベルではなかった。今はもう慣れているが最初の頃は酷かったと心の中で吐露とろした。


 2人を見比べなかったのは、ギルドの副マスターであるユシアとパーティーメンバーのセラとリアくらいだ。


 もっとも、セラに至っては交互に見比べるまでもなく、フッと笑ってなにごともなかったように話し出すのだが。


――俺が上級になった暁には絶対に顎で使ってやるからな……!


 セラへの復讐心をたぎらすシュインであった。


 ちなみにリアは、最初は一瞬思考を停止したかのように動きを止めたが、それ以降はいつものようになんの反応も示さず本題に入っていた。


 ――リアも内心は笑っていたんだろうな……あいつはスキルで感情は見えないけど、昔はよく泣くわ笑うわで大変だったな……。


「おい、どうした急に黙って」


 懐かしむように目を細めていると、男が怪訝けげんな表情でシュインを見ていた。


「なんでもないです」


 男はそうかと一旦置き。


「とにかくだ、お前はリーダーとしても、いち冒険者としても高水準に達している、と俺は思う」


「そんな、おれ」


 思わぬ賛辞に感激の念を送るシュイン。

しかし、男は「ただ」と続け。


「想定外のことで取り乱すのは減点だな。リーダーとしては致命的だ」

 

「そっ――」


 意をとなえようとするが、思い当たるふしがあり口を閉ざすシュイン。


「です、ね」


「ハハ、冗談だ。それとは別にユシアが――」


 その時、部屋の外からキャーと悲鳴のような声が響いた。


 シュインと男は顔を見合わせる。


 次いで割れんばかりの喧騒けんそうが響き、何人かの人間が駆け回るような音が下から聴こえ、2人は頷き合うと両扉を同時に開く。


「いったいなんの騒ぎだ!」


 男がそう声を張り上げ響き渡るように言うと、黒を基調としたシックなデザインの制服を見に纏った女性が階段を登ってきた。


「あ、ギルマス! またヤニタイムか何かですかー? 仕事してくださいよ、全く」


 そう、ヤマラアラシばりの棘を飛ばしてくる女はギルドの受付嬢で、名をフィオナという。


 フィオナは冒険者の間で非常に人気が高い。彼女目当てで冒険者登録をする人がいるくらいで、ギルドではマスコット的な立ち位置だ。


 しかし、業務はマスコットとは言い難く、むしろ稼ぎ頭と言っても良いほどだった。

 サボりは一切なく自ら進んで仕事を見つけるストイックさと顧客に対しての真摯しんしな対応。どこをとっても完璧であらを探すほうが難しいと副マスターからも太鼓判を押されている。

 欠点があるとすれば、時々出る即効性の毒舌くらいで、職員からは遠巻きにさているところをシュインはよく見ていた。

 ただ、本人は気にしていないようでそのスタイルを変えるつもりはないようだ。


「い、いや、俺はサボっていたわけでは……」


 フィオナはブラウンの髪をかきあげると、ため息を吐いて、


「まあいいです。それよりも」


 男の――ギルドマスターの話を遮り、要件だけを一方的に話し出した。


 あまりの不憫さにシュインは彼の肩に手を伸ばし……たが届かず、手は空を掴む。

 ぶつけようのない嫉妬が湧いたため、無視して4人が待つ別館へ向かうことにした。





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