第6話 奇襲
「サース村にオークが?」
「ああ、深刻な被害が出る前に冒険者を派遣して欲しいと領主からのお達しだ」
再びギルドマスター室に呼ばれたシュイン。
なんでもサース村付近に一体のオークが出現したらしく、その調査を受けて欲しいとのことだ。
サース村とはフォーストから南西に続く平原の道を進んだ場所で、寒い地域であるフォーストの枯野とは違い、緑に包まれた草原が広がる場所にある。
モンスターが多く生息する森林の近場で、普段は魔除けの魔道具が村を囲むように配置されていて、モンスターが近づくことはないのだが、今回ついに村の安全区域にオークが侵入したということでフォーストへ調査要請が届いたらしい。
両手を合わせ
「いやぁ、俺は受けてもいいんだけど……」
振り向くと、バッカスとセラが首を振った。
今度はメンバーも一緒で彼らはソファーに腰を下ろしながら話をが終わるのを待っていた。
キサラは苦笑しているが悩ましげな顔で内心断って欲しいそうだ。リアは……いつも通りで、テーブルに用意された茶菓子を小さい口に運んでいる。
普段なら二つ返事で了承するキサラも今日ばかりは厳しそうだ。
実はシュイン達5人は1週間前から2日前まで依頼続きで精神的に
ギルドマスターには世話になっているし断りにくいが、シュインはこれでもパーティーのリーダーで仲間の意見を無視するわけにはいかなかった。
「ギルマス、悪いけど今回は――」
シュインは断ることにした。
しかし、ギルドマスターも答えはわかっていたようで、シュインの言葉を待たずして、ある提案を持ち出した。
「この依頼を達成したら、即決で上級に上げてやるぞ」
「――やります!」
「「おい!」」
セラとバッカスの声が重なった。
振り向くと、2人は席から立ち上がり自分を睨みつけていた。
このあとシュインはバッカスとセラから
「シュインさん。貴方の美徳は誠実で、仲間の意思を優先するところだと、私は思います。ですが、目先の利益に捉われるところはどうかと思うのです。もちろん、リーダーが決めたことですので、私は何も言いません。ええ、何も――」
努めて低いトーンで
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
公国領から南下した街道沿いの草原。
5人は乗合馬車に揺られていた。
馬車の中は、頭上に天幕が張られ内側に温もりが
席は横に三列と、後ろに背中を向けるようになっていて、今の5人にはちょうど良い配列だった。
バッカスとセラは最後尾の三列目に座り、二列目にはリアとキサラが。そして最前列にはシュインが細々と座っていた。
と言うのも、シュインはあのあと必死にセラとバッカスを説得し、
2人は不貞腐れたようにシュインと顔を合わせようとしない。
バッカスに至ってはただでさえ怖い顔が、
シュインは後ろを振り向き2人に手を合わせた。
「無理強いをしたのは悪かった! でも、上級に行けばより稼げるようになるし、バッカスは奥さんの妊娠前には側に居てやれるだろ?」
「……それは、そうだな」
奥さんというワードが効いたのか彼は片目だけ上げシュインの声に答えた。
「同じようにセラも収入が増えたらもっと魔道具の材料に当てれるんじゃないか?」
セラの耳がぴくりと動いた。
セラは趣味の一環として魔道具の制作を行なっている。彼女の杖や魔導書もその一環であり自ら改良を
彼女は魔道技師の中でも相当な腕を持っていた。
しかし、魔道具というものは出費が重なるもので、パーティーの収入では足りず一時は中級冒険者にも関わらずギルド食堂を利用していたほどで、彼女の
シュインはそこを攻め、彼女の心を溶かしに掛かった。
「考えてもみろよ。上級パーティーの一員になれば、魔鉱石もわざわざ買わずに取りに行けるんだ」
閉じていた瞼が開いた。
「前に欲しいと言っていた高品質の
魔鉱石は魔道具製作には欠かせないもので燃料のような役割をしている。対して魔晶石は魔道具をより強力なものにさせる。
例えば、攻撃系の魔道具であれば威力を増長させたり、ステータスに関わる魔道具であればその力を単純に倍にしたりと、非常に高価なものだ。
高い濃度であればあるほど価値は上がりオークションなどで高値で取引されることもある。
ちなみに今馬車を引いている馬にも魔晶石があしらわれた魔道具が装着されていて、そのお陰で御者を必要としない運行が可能とされていた。
魔道技師なら喉から手が出るほど欲しい
彼女はごくりと息を呑むと、
「……はあ。仕方がないわね……。今回だけよ」
と、ついに折れた。
「ああ! ありがとな2人とも!」
なんとか2人の機嫌を直すことに成功したシュインは次にキサラへと顔を向ける。
「私は別に怒ってませんよ、リーダーさん」
和やかな笑みを浮かべ、自身が怒っていないことをシュインに伝えるキサラだが、その呼び方はいつもと異なっていて、あからさまに怒りを伝えていた。
これはかなり怒っている。
シュインは助けを求めて隣に腰を下ろすリアへと視線を送るが、彼女はシュインを見ると静かに首を横に振った。
「無理。これはシュインの掘った穴。わたしに言えることはない」
そう言って
シュインは頼りにならない相棒から意識を外し、キサラへの言い訳を考える。
そもそも彼女はシスターらしく無欲で釣れる餌がない。
さらに今回は大事な用事を断らせる形でついてきてもらっている。
言い訳を言える要素が何一つなかった。
とにかく何かを言わなければ、
「キサラ……――」
そう口にしたときだった。
馬の
一拍遅れて視界が歪み、板が軋むようなな音と同時に木材と青色の丸太がシュインの目の前を横切った。
「っ……!?」
それがオークの腕だと理解するのに数秒を要したシュインは剣を抜く――
キィッと、金属が擦れるような音が響き渡る。
――前に、キサラに迫っていたオークの腕は、彼女を庇うように立ちはだかったリアが弾きいなしていた。
リアのシャムシールと青いオークの剛腕が交え火花を散らす。
その間にシュインは馬車から……馬車だったものから飛び、草原へ降り立つ。
馬車は木造の家を取り壊すような轟音を立てながら、草原を転がっていった。
「みんな、大丈夫か!?」
「なんとかな。すげぇびっくりしたけどな」
「酷い目にあったわ……まさか、オークがあっちからやってくるなんてね。しかもブルーオークなんて、全く面倒なんだから」
セラは杖を取り出すと自身へそっと振り、魔法で取り付いた草花を取り払いながら言った。
青いオーク。通称ブルーオーク。青い体毛に追われたオークで、優れた剛力を発揮する。
オークの群にだけ現れる個体で、通常より力が桁違いに高く、耐久力も上がっている。
そして、一番厄介なところは、前述した通り群れにだけ現れる。つまり、奴がいるということは付近には群れがいる可能性が高いと言うことだ。
幸い、周囲に他のオークの気配はないが注意することに越したことはない。
「ああ。てことは村に行くまでもなく、あいつらをやったら依頼達成というわけだな」
「ブルーオークか……攻撃は単調だけど威力が強いんだよな。リアだと大丈夫だと思うけど……よし、2人は馬車の方のオークを頼む! 俺はリアの方を、セラは――セラは……?」
バッカスとセラへ指示を飛ばすが、肝心のセラがいつの間にいなかった。
「キサラが戦ってると聞くや否や飛び出して行ったぞ」
バッカスの言う通り、セラは馬車を踏み潰すのに夢中なオークに魔法で作った火炎弾を打ちかましていた。頭に直撃した火炎弾は爆破し煙を発生させた。オークはあがくように煙を払う。
しかしセラは次の詠唱に入っており、煙が晴れる頃には次の攻撃である氷の
単身突撃したことを注意するべきか、聞いてなくともシュインの狙い通り動いたことを褒めるべきか。
シュインは額に手をやり、深いため息を吐いた。
「行くか」
「……そうだな。じゃあバッカスはセラの方を頼む」
「おう。任せろ」
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