第7話 起死回生

「リアさん!」


「ん」


 ブルーオークの体当たりがリアの体をおおうように迫る。草木はぎ倒され、地面は抉れる。邪魔な障害を鬱陶うっとうしそう払っているが、それでも止まらない突進にリアは何の反応を示さず、ぎりぎりのところで回避する。


 ブルーオークはリアが避けると、大回りしてもう一度リアへと直進する。


 だが、それも難なく避けるリアにブルーオークは地団駄を踏んだ。

 大地は揺れ、木々からは鳥たちが一斉いっせいに飛び去った。


 オークは力と耐久力に関しては下位のドラゴンにおよぶとされている。

 力は人の頭を片手で飴細工のように握り潰すほどの握力を持ち、体は大樹のように太く剣や槍をただ突き立てても刺さらないのような硬さで跳ね返してしまい、並の冒険者では太刀打たちうちならないモンスターだ。


 なにより、その巨大さ故に冒険者になったばかりの見習いは戦う前から戦意をがれる。中級冒険者になればオーク以上の巨体を持つモンスターも現れる。オークに足踏あしぶみしていれば昇格など夢のまた夢。

 ある意味中級冒険者へ上がる前の障害といえ存在だ。


 だが、そんなオークにも弱点がある。首周りと手首、そして目は下級冒険でも傷つけられるほどもろく、オークと戦うならまずここを狙えと言われていた。


 リアは先ほどから腕を狙っているのだが、やはりブルーオークの四肢ししは特別太く攻撃が通りずらい。

 短剣では傷をつけることさえ難しい。ならばと、武器をシャムシールに持ち変え、意識を改める。


 すると、ブルーオークは鳥が飛び去った木々に意識を向けると、何を思ったのか突然一本の木へと両手を伸ばした。

 4メートルほどのある木を掴むと、腕に青筋が入り人に聞き取れないような唸り声をあげた。

 

 すると、木は次第に地面から離れ、それに伴い無数の根っこがぶちぶちと音を立て出てきた。あっという間に抜かれた木は根っこが邪魔で持ちにくそうだ。

 だが、ブルーオークは片手で根っこを鷲掴みにし掴み上げると強引に引きちぎった。続いて反対側に持ち替え、地面へと投げつけみきをへし折った。

 

 結果、木は不恰好ぶかっこうな槍のような形状になり、青いオークにはそれが喜ばしいことなのか、けたたましい咆哮を上げた。 


 そして、槍を片手にリアを見据みすえる。


 逃げ回る敵には長物ながものを。


 意外にも頭が回るブルーオークにリアは内心感心した。

 それもそうだ。オークはトロールよりは脳の出来が良いとはいえ、人間の赤子にも満たない。そんなオークが頭を使って敵に挑むなど考えられないことだった。

 それはリーダー各のブルーオークだとしても同じことだ。奴らは上位種になっても知能は変わらない。変化があるとすればその威力くらいだ。


 しかし、リアの表情は一切変わらず、ブルーオークの目には余裕の現れにでも見えたのか怒り狂うように槍を振り回した。


「リアさん! 保護魔法をかけます!」


「大丈夫。もしもの時の温存」


 キサラの保護魔法を断ると、リアは地面を蹴ってブルーオークへと走った。

 ブルーオークも向かい撃つように地面を抉り突進。今度は槍を突き刺すように構えて。


 リアはすれすれ、残り数ミリのところで身体を回転させるようにして回避。リアとブルーオークの視線が交差する。

 そのままブルーオークの股を潜り抜け、背後を取って剣を逆手に持ち首へ突き刺す。

 しかし、ブルーオークはそれを見越していたのか、巨体をくるりと振り返らせた。そして、腕がリア目掛けて振るわれる。遠心力えんしんりょくの掛かった剛腕は鞭のようにしなりリアを襲う。


 咄嗟に剣をらすように持ち、流す構えを取るが、オークの拳は直前で開かれ気づいた時には掴み挙げられていた。


「っ」


 そのまま殴り潰されるのかと思いきや、リアを拘束したまま腕を回し始める。まさか、そう思った時には遅く。リアは拘束から解き放たれた。するもリアの体はカタパルトに打ち上げられたように簡単に上空へと吹き飛ばされる。


「リアさん……っ!!」


 キサラの驚きの含んだ声が響く。


 凄まじいす速度で進むリアの体は自分の意思では制御が効かず、このままでは地に足をつける頃には全身骨折じゃすまない。まず間違いなく死が待っている。


 そうなるとキサラが単身で残されブルーオークと対峙する羽目はめになる。それだけは避けなければならない。彼女はヒーラーに関して右に出るものはいないとリアは考えているが、戦闘となるとごまんと存在する。


 ブルーオークは離れて行くリアを見て豪快に笑うと、待ってましたとばかりにキサラを狙いに定めた。

 だが、こういった最中であろうとスキルは脳の冷却をしてリアに冷静な判断を仰がせる。


 リアは剣を傾け、太陽の反射を利用してキサラに生存を伝える。

 すると、彼女は微妙に動いたように見えた。ここからでは一挙一動など視認はできないがおそらく大丈夫だろう。次に視線を横にずらすと、赤い影がブルーオークへ迫っていることがわかった。一瞬止まると何やらこちらに向かって叫んでいるようだ。

 

 遠すぎて言葉は聴こえないが、彼が居るなら当分は問題ないはず。むしろ倒してしまうかもしれない。


 オークが人差し指サイズになった頃、ついに落下が始まった。おおよそ七○メートルくらいだろうか。リアは体を大きく捻った――



 

 

「――はぁ!?」


 空高く花火のように打ち上がった何かをシュインは目を細めて覗き込むと、ギョッとして驚愕の声を上げた。


「嘘だろ、おい……リアーー!!」


 声を大にして呼びかけるが、距離はどんどん開いていき、全く届いてないようだった。


 しかし、リアはこれまでも無謀な戦いを潜り抜けてきた。今回も大丈夫だと、シュインには確証のない確信があった。

 つまり、今はブルーオークと取り残されているであろうキサラが優先だ。


 シュインがキサラがいる場所に着くと、ちょうどオークの丸太のような武器が降りそそがんとしている最中さなかだった。


 シュインは無我夢中ではしり、ブルーオークの背後を取るとその勢いのままオークふくらはぎ辺りに剣を突き刺す。

 ブルーオークの身体は鉄のように硬く、刀身の半分しか刺さらなかったがそれで十分。


 ブルーオークは振り払うように体を揺すった。だが、シュインは剣を刺したまま後ろを向き、背負い投をする流れで剣を振り上げた。


 ブルーオークは野太い悲鳴をあげながら膝をつき、痛みに耐えきれなくなったのか、白目を剥いてドサっと倒れた。

 簡単に意識を失ったブルーオークを不審に思うも、リアの与えたダメージが蓄積ちくせきされていたのだろうと考え、キサラのところは向かう。

 

「シュインさん……!」


 キサラが身元に涙を溜めながら駆け寄ってくる。


「ああ、それよりリアを――」


「シュインさん、うしろ!!」


 瞬間、大きな影がシュインをおおった。

 シュインは剣を構え、防御の体制になるが、


 ――間に合わない……っ!!


 すると、キサラが頭上へ杖を掲げる。


 杖先から光が漏れ、道のような光が空へと向かった。なぜこのタイミングで。そう思ったとき、


「終わり」


 落ち着いた声が耳に届いた。


 ――一閃。


 それと同時に目の前に光の線が通り、ブルーオークの首が簡単に、まるで豆腐のようにスパッと切れ、ごとりと落ちた。

 

「キサラ、タイミング完璧だった。ありがと――」


 蒼然と現れたリアはそう言ってキサラへお礼の言葉を送る。


「リアさん!!」


 キサラは突撃するようにリアへと抱きついた。リアはキサラの胸に顔を埋めたまま、くぐもった声で言う。


「きさらのまほうが……う、くるしぃ、ないと死んへた」


 シュインは先ほどのキサラの行動を思い出し、ハッとする。


「落下する直前に保護魔法を付与したのか!」


 あまりの無茶に口をあんぐりとさせるシュイン。

 リアはキサラを信用して自由落下を利用して頭上からオークに一撃を浴びせ、キサラはリアがオークと激突する直前に保護魔法を彼女へ付与。ちょっとのズレでも生じればお互い無事では済まない芸当に驚きを隠せなかった。


「リアだけならわかるけど。キサラ、お前まで……」


 シュインは呆れを表すかのように目を細めてキサラを見る。


「ち、違いますよ!? あのときはリアさんを信じるしかなくて……なによりオークに追われてるタイミングで考えてる余裕がなかったんですって!」


 必死に弁明するキサラ。


 いつもリアの自身をかえりみない行動に対して不満を示す彼女が、一緒になって一か八かの行動するとは意外なことだった。

 あの行動が最善だったとはいえ、シュインはてっきりリアが作戦を押し切ったのかと思っていた。


「い、いや、それはですね……って、そうだ! とりあえず解体しちゃいましょう!」


「はは、そうだな」


 追求して欲しくないようで無理やり締めくくるキサラ。

 シュインは少し微笑ましく思うが、まだ戦っている仲間がいるのだ切り替えなければと、オークの解体に取り掛かろうしたときだった。


 ぶおおぉーと低く力強い音が2人のいる方向から鳴り響いた。


「角笛……?」


 3人は顔を見合わせて頷き合うと、その場をあとにした。

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わたし達のパーティーは昨日、わたしと彼女を残して壊滅しました。 夢空 ねぇきっど @Ao96

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