わたし達のパーティーは昨日、わたしと彼女を残して壊滅しました。
夢空 ねぇきっど
第1話 崖の下の希望
リアは今、4人の仲間と共に窮地に立たされていた。
そこはダンジョンの最奥。切り立った崖と崖に挟まれたような場所で、前にはモンスターの大群と先頭には一体のゴブリン。
後ろには退路を断つように
奥地であることから援軍は見込めず、まさしく絶体絶命と言っていい状況だった。
「おい、どうするよこの状況。事前の情報と丸っ切り違うじゃねぇか」
大剣を抱えた大柄な男がそう切り出した。
灰色の髪を短髪に切り揃えた男は、4人に背中合わせになる形で後方のトロールとスケルトンを見据えている。
「ごめん。わたしの見立てが甘かった」
リアは端的に自分の落ち度を告げる。
リアはパーティーにおける
だから一番の責任を感じ、謝罪を口にしたのだがそれに意を
「いや、リアだけのせいじゃない。最終的な判断を下したのは、俺だ」
パーティーのリーダーであるシュインだ。
彼は前方に布陣する大量のモンスターに視線を向けながら言った。
確かに、リアは自分で見て聞いたことを客観的にまとめパーティーに説明した。
しかし、出発前は行くことに反対していた人も中にはいて、それを踏み切ったのが彼だった。
「ちょっと、今責任の所在を確かめ合ってる場合?」
焦りの混じった声で疑問を投げかける少女はパーティー1の火力を持つ魔法使い。主に火力、場合によっては補助魔法でサポートに回ることもある。魔法使いの中でも相当な実力の持ち主である少女の名はセラ。
彼女は軽いパーマのかかった長い髪を揺らしながらこちらを振り向くと、もう保たないわよと付け足した。
と言うのも5人が呑気に話していられるのも彼女が張った全体シールドのお陰で。今もモンスターの攻撃は絶え間なく続いていた。
「ええ、そうですね。そもそもそれ言うなら私だって一刻も早く追撃するべきだと言ってしまいましたし、おあいこだと思います」
金糸のような髪を持つ少女。キサラもシュインの言葉に付け足すように同調した。
彼女の役職は神官で、人を癒すことに長け、いくつかの支援魔法を心得ている。パーティー内で唯一の回復職である彼女は大変重宝されていた。
パーティーは既に2時間ほどの戦闘を繰り広げており、皆一様に肩を上下に揺らし疲弊が見て取れた。精神的にも限界が近づいていて、人に気を使う余裕など遠に過ぎているのだ。
「いや、そうだな。俺もお前に責任を押し付ける言い方になっちまった、悪いリア」
自らの頭を撫で謝る男。バッカスにリアは静かに大丈夫とだけ頷く。
「とにかく、皆んな。ここを切り抜けてギルド飯で祝杯をあげよう!」
シュインが片手剣を前方にいるゴブリンに突き出してそう
「お前、こんな時にまたかよ……」
「ホント。
「ええっ、嘘だろ? 激戦から帰った日はいつもアレって相場が決まってるだろ!? なあ、キサラ!」
「うえっ!? わ、私ですか……? え、はは……どうでしょうか」
シュインの言葉にバッカスとセラは呆れ、彼はキサラに共感を求めるも、彼女もまた理解できないようで困惑気味に苦笑した。
敵の中心部だというのに
だが事態は重く、セラの張ったシールドはすでに
リアは自身の短剣を握りしめ、
「絶対に死なせない」
そう、決意を新たにした。
しかし、リアの思いとは裏腹に戦いは困難を極めた。
セラの張ったシールドは予想通りゴブリンシャーマンによって破壊され、戦いは再開された。
「リア、一旦下がった方がいい!」
リアはゴブリンの首目掛けて短剣を突き立てる。だがゴブリンもまた鋭い爪をリアの腹部を突き刺さんと迫らせていた。
リアは身体を横に捻り間一髪で回避。そして、腰に携えている投げナイフをゴブリンへと
ゴブリンは緑色の腕をクロスにすると簡単にナイフを弾いた。普段ならこの隙を狙って再び首を狙うのだが、流石のリアも大人しくシュインの指示に従い彼の側へと跳躍。
このまま戦っても拉致が開かないことなどリア自身わかっていた。
「お前、相変わらずスレスレなんだよ。……いや、悪い。この状況だもんな、気にしないでくれ」
心配したように言うシュインは、自らの言葉に反省したように重ねた。
「大丈夫」
シュインの言う通りリアはいつもギリギリの戦い方をする。
もちろん、リアにそのような意図はなく、むしろ相手に致命傷を与えられる最善の方法だと熟知していた。
リアは斥候の他に、短剣二つを扱う回避アタッカーを担っていて、
並外れた冷静さと俊敏さがあるリアだからこそ出来る芸当だった。
とはいえ、力がないわでもなく普通ならゴブリン一体に手間取るほど弱くはない。
にも関わらず目の前のゴブリンは一切の焦りを見せない。それどころか笑みを浮かべて楽しんでいる
通常、ゴブリンは下級冒険者1人で対応するとされるモンスターで、スライムと言った低級モンスターを狩慣れた見習い冒険者の昇格試験として用いられることが多く、中級冒険者であるリア達にとって
すでに1時間以上シュインと交互に撃ち合っているのだが、何の進展も見られない。ただこちらの体力をじわじわと削られている、そんな気がすら感じていた。
「どう見る?」
シュインはゴブリンを見据えながらリアに意見を求める。
「普通。力は人間の子供と変わらない。かと言って特別俊敏というわけでもない」
淡々とゴブリンの詳細を述べるリアは「でも」と続ける。
「思うように攻めさせてくれない」
と言うのもリアやシュインは先ほどの戦闘のように、何度もゴブリンを追い詰めていた。総合的な戦闘力は互角で互いに拮抗し合っているのだが、妙に致命傷を与えられない。それこそ敢えて演出されているような……。
そう伝えると、シュインは難しい表情をして口を開く。
「ああ、俺も同じように感じてた。あいつは他のゴブリンとは違う。まあ、俺らの攻撃を簡単に捌いてる時点で異常なんだけどな、ははははは、はは……悪い。緊張を
大袈裟に笑うシュインだったが、リアのじとーっとした視線に耐えかねたのか一瞬で謝罪を口にした。
「とにかく、このままじゃジリ貧だ。回復があるとはいえアイツらも相当辛そうだし。最悪セラに頼ることも視野に入れないと」
言って、シュインは後方へと視線を送った。リアもシュインの視線をたどり彼らを見る。
退路側では今も、セラとキサラ、そしてバッカスが三体のフル装備スケルトンとトロール一体との戦闘を繰り広げていた。
「おおぉ!!」
バッカスが叫び声を上げながら大剣でトロールの剛腕を防ぎ、彼の後ろではキサラが彼の傷を癒やし続けていた。そしてその隣ではセラが土魔法でスケルトンの足元に土壁を作り足止めを。
本来ならリアとシュインの2人でゴブリンと低級モンスターの大群を速攻で仕留め、彼らの援護に周り退路を確保するつもりだったのだが、前述した通りゴブリンの護りが異様に固く攻めあぐねていた。
「とにかく。次は2人で攻めよう。俺が右からリアは左から」
2人同時に攻めるのはまだ試していない。と言うのも、今はゴブリンが1対1の戦闘に付き合ってくれているが、もし奴の後ろに群がるスライムやゴースト、手負のオークが徒党を組んで2対多の状況に追い込んできたら敗戦は免れないだろう。
しかも、そのモンスター達もあのゴブリンのように異様な動きを見せるとしたら……最悪のシナリオにリアは首を振ってその考えを除外する。今はゴブリンだけに注力しなければ。
ただ。
「わたしたちが同時にやられたら全滅だけどいいの?」
底冷えしたような声音で問うとシュインは青く澄んだ瞳をリアに向けて力強く頷いた。
リアとシュイン、2人が敗北すると言うことは、目の前の集団が
しかし、シュインは決心したように頷いた。
「ああ。どのみちこのままだと体力を削られて終わるしな。ならやるしかねぇだろ」
「わかった。なら、わたしも出し惜しみしない」
リアは立ち上がって短剣を仕舞うと、腰に備えていたシャムシールを抜いた。無色透明に光る刀身は標高の互い山に生まれる
シュインはリアを見上げ、そうだなと呟やき声を張り上げた。
「皆んな、長い時間付き合ってもらって悪かった! だけど、これで最後だ! 次の攻めで終わらせる。だから最後まで付き合ってほしい!!」
リアの手を借り立ち上がったシュインは、皆んな鼓舞するように剣を頭上へと掲げた。
彼の剣は光り暗闇を明るく照らした。
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