第30話:正義の思想

須佐本部長

「確かにそうだな。鬼頭剛。」


「どうして最初に彼に辿り着けなかったのか。」


猿渡

「須佐本部長は鬼頭さんをご存知なのですか?」


須佐本部長

「知っているよ。彼は警察システムの構築のために尽力してくれた人物だ。」


猿渡

「鬼頭さんは警察組織のために働いたのに一方的に切り捨てられたと言っていました。」


須佐本部長

「それは切り捨てるしかなかったんだよ。」


「彼は我々に独自の警備システムの導入を提唱してきたんだ。」


犬飼

「それのどこが切り捨てられる理由になるんだよ。」


須佐本部長

「彼の提案は交通、防犯カメラ、SNS、公共データベースなどあらゆる街のシステムをハッキングする。」


「そこからデータ収集と分析をすることで犯罪者予備軍を認定するシステムを構築し、彼らをシステムで監視するというものだ。」


桃谷

「そんなこと認められて良いはずがない。」


須佐本部長

「そのとおりだ。我々としては彼の技術を評価し契約したのだが、彼はそのうち自身の理論を正義の理論として掲げるようになったんだ。」


桃谷

「だから鬼頭は自らを正義の執行者と名乗っていたのか。」


須佐本部長

「彼なりの正義だったのかもしれない。」


「しかし、我々としては受け入れることはできない思想だった。」


「ちょうど国際大会でも敗れたし、そのタイミングで彼との契約を打ち切ったんだ。」


猿渡

「それが僕への恨みへと変わったのか。」


須佐本部長

「猿渡くん、君は国際大会で優勝していたんだよね。」


「我々としても鬼頭の変わりにとは思ったんだが辞めたんだ。」


猿渡

「確かに鬼頭さんは僕と警察が契約していたと思っていたみたいですが。」


須佐本部長

「君は鬼頭と親しかったし、同じような思想の持ち主だと困るのでね。」


「だから、君には声は掛けなかったんだよ。」


猿渡

「そうなんですね。しかし、鬼頭さんは切り捨てられることを予感していたんですかね。」


「警察システムにハッキングできるように仕掛けをしていたようですから。」


須佐本部長

「そのとおりだよ。我々のシステムは外部からの攻撃に対しては強化されていた。」


「しかし、設計者という最も信頼する人物には簡単に侵入されるような状況を作ってしまっていた。」


桃谷

「鬼事件の裏でとんでもないことが起こっていたようですね。」


須佐本部長

「全ては私の責任だ。」


「もしかしたら最初の鬼事件の時に鬼頭のことが思い浮かばなかったのではなく、思い浮かべたくなかったのかもしれない。」


桃谷

「でも須佐本部長は元から鬼の存在を知っていたのではないですか?」


須佐本部長の笑い声が響く。


須佐本部長

「鬼の存在など知るはずがないではないか。」


桃谷

「しかし、鬼ヶ島の座標位置が警察システムの機密データの重要データとして保管されていました。」


須佐本部長

「あの島の座標データは漂流者を保護した島のデータだよ。」


「昔、先輩から聞いた話だがあの島に漂流した人物がいた。」


「その人物が証言したそうだ。鬼に助けられたと。」


桃谷

「確かに鬼ヶ島の鬼は皆が純真だと母鬼から聞きました。」


須佐本部長

「ならば、鬼に助けられたと言うのは本当なのだろうな。」


「ただ、漂流者を保護した時にはどこを探しても鬼などいなかったそうだ。」


「だから漂流者が幻覚でも見ていたのではないかということになったそうだ。」


桃谷は鬼頭の言っていたことを思い出していた。


鬼たちが人間様に見られると災いが起こると言って逃げ回っていたと。


きっと漂流者がいた時は倒れている人を見て放っておけなかったのだろう。


須佐本部長の話を聞き終えると竹取警務部長が話し始めた。


竹取警務部長

「なるほど。本当に鬼ヶ島があり、鬼がいるというのですね。」


「それならば話が早い。今すぐにでも鬼ヶ島に出向き、鬼を捕らえて処罰しましょう。」


「それを公表すれば警察の威信が保たれる。」


大和刑事部長

「それは良い考えだ。どうせならその協力してくれたとかいう母鬼とかなら容易く処罰できそうだな。」


犬飼が二人のやり取りを聞いてキレそうになった瞬間、彼の耳に怒りの声が聞こえてきた。

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