第29話:警察本部の真実

須佐本部長

「2年前、私のパソコンに一通のメッセージが届いた。」


「『我は正義の執行者 悪の成敗のために鬼を襲撃させる。』という意味の分からないメッセージがな。」


桃谷たちは顔を見合わせた。


桃谷

「鬼頭は自らの動機を『正義の執行』と言っていました。」


須佐本部長

「しかし、私はその時は単なるいたずらだろうと無視したんだ。」


犬飼

「まぁ、そんなメッセージは無視して当然だな。」


須佐本部長

「そうだな。でも本当に事件は強盗事件として起こったんだ。」


「目撃者の話では犯人は鬼だというではないか。」


猿渡

「そのメッセージを見た後なら、確かに何か関係があるのではないかと思いますね。」


須佐本部長

「そうだ。だから私も事件の関連性を調べようと警備企画課や捜査二課もメッセージを送った人物の特定を依頼した。」


猿渡

「鬼頭さんのことだから、追跡できないようにしていたのか。」


須佐本部長

「そうなんだ。猿渡くん、警察組織では君のように解析はできなかったんだよ。」


猿渡の表情には笑みが浮かんだんだ。


須佐本部長

「私はどこか目に見えない恐怖と戦っているような気がした。」


雉屋

「でも、事件も起こっていたので正式な捜査に踏み切れば良かったのでは?」


須佐本部長

「メッセージと強盗事件の関連性を証明するものなど何もない。」


「そもそも鬼が襲撃に来ると言って信じる奴がどれほどいるか。」


犬飼

「確かに。俺も最初は鬼など信じていなかったが、後輩と目撃したからこそ言えることだしな。」


須佐本部長

「私は何もできないまま時が過ぎていき、一人の刑事が鬼の追跡により命を落とした。」


犬飼

「それが俺の後輩刑事か。」


「しかし、その時に真実を公表すれば良かったのではないのか。」


須佐本部長

「君たちには理解できないかもしれないが、私は警察組織のトップだ。」


「警察組織のトップが鬼の存在を公表するということがどれほど重みがあると思う?」


桃谷たちは須佐本部長の組織人としての責任と覚悟に息を飲んだ。


須佐本部長

「葛藤する私を嘲笑うかのように新たなメッセージが私に届いた。」


「『我は正義の執行者 我を止めたければ鬼の犯行を隠蔽しろ。さもなくば次は大量の鬼が襲撃するだろう』」


桃谷「まさか、鬼頭が隠蔽を指示したと言うのは…」


須佐本部長

「指示といえば指示だが脅しという方が正しいだろうか」


桃谷

「それで鬼頭の言うとおり鬼の存在を隠蔽したのですね。」


須佐本部長

「そうだ。それで全ては終わるはずだったんだ。」


しかし、しばらくして再びメッセージが届いたんだ。」


「『我は正義の執行者 鬼の存在を密かに調べるとは何事だ。これが最後の忠告だ。もし捜査を辞めなければ、―世界を恐怖に陥れる―』と。」


雉屋

「まさか、鬼の存在を密かに調べていたというのが私の父なのでは?」


須佐本部長

「そのとおりだ。」


雉屋の表情は強張っていた。


雉谷

「でも父も真実を知っていれば、納得したはずです。」


須佐本部長

「そうだったかもしれないな。」


「しかし彼は鬼の存在を公表しようとしていた。」


「組織としてそれだけは避けたかったんだ。」


雉屋

「だからといって何も辞職に追い込まなくても良かったんじゃないですか?」


須佐本部長

「いや、彼に鬼の事件の追求を辞めるように何度も説得したんだが聞かなかったのでね。」


「これは十分に刑事の規程に違反する行為なんだよ。」


犬飼

「うるさい!結局はお前が鬼頭に負けただけだろ!」


犬飼の一言は須佐本部長の心をえぐった。

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