第24話:きびだんご
猿渡は最後の力を振り絞り、鬼頭がパスワードにしそうな単語を思い巡らしていた。
(鬼頭さんがパスワードにしそうなもの…。)
(それとも単語ではなく、文字列なのか。)
(いや、鬼頭さんはこの状況を楽しんでいた…。)
(もしかして僕に関する単語なのか…。)
猿渡は何度も何度も考えるが、その答えが見つからない。
(そういえばさっき鬼頭さんは僕のことを「師との契約を裏切った裏切り者」とか言っていたな。)
(契約とは何なんだ…。)
(ダメだ。時間がない。)
(やはり…僕は鬼頭さんを超えることができないのか…。)
猿渡は残り時間を見ている余裕などなかった。
猿渡は一度焦る気持ちを抑えようとポケットからきびだんごの御守りを取り出して眺めていた。
「まさか!」
猿渡の頭脳に衝撃が走った。
しかし、猿渡はその単語を入力するかどうか迷った。
残された回数はあと1回。
猿渡は再びきびだんごの御守りを見ると叫んだ。
「みんな、僕は『正義の信念』を信じるよ。」
「だからこの単語が間違っていても僕を恨まないでくれよ!」
猿渡はキーボードをたたき、その単語を入力した。
“kibidango”
認証成功
猿渡はモニターに写し出された時間を確認した。
1分32秒で止まっていた。
***
鬼頭「登、お土産だ。ほら、きびだんご!」
(回想開始)
猿渡「きびだんごですか!あの桃太郎に出てくる。」
鬼頭「そうだ。桃太郎はこのきびだんごで動物たちを家来にした。主従契約を交わしたんだぞ。」
猿渡「そうなんですね。」
鬼頭「私は登にきびだんごをあげるんだ。」
「これでお前は一生俺の弟子だからな覚えておけ!」
猿渡「何言ってんですか、鬼頭さん。」
「僕はあなたの技術に惚れたんです。」
「きびだんごなんてなくても一生ついていきますよ。」
鬼頭「そうか。ハハハ。」(回想終了)
***
「違うよ鬼頭さん、契約を破ったのは僕ではなくあなたの方だ。」
「kibidangoは鬼頭さんにとっては主従関係の契約の証だったのかもしれない。」
「でも、今の僕にとってkibidangoは『正義の信念』の証なんだよ。」
鬼の泣き叫ぶ声が響き渡っている。
(犬飼さんは勝ったのか?)
その時、基地の入口の扉が開く音がした。
温羅が基地の中へ飛び込んできた。
「どうした、温羅さん!」
犬飼の温羅との言葉に、剛羅は扉の方を振り向いた。
「温羅!」
「剛羅兄さん、良かった。」
「それより犬飼さん、時間がありません。」
「プロメテウスが船着場から逃走しようとしています。」
「分かった!」
犬飼は無線機を取り出し叫んだ。
「雉屋、船着場だ!プロメテウスが船で逃走する!」
猿渡が鬼システムの近くにあった鬼ヶ島の地図を持って駆け寄ってきた。
「温羅さん、船着場の位置を指さして!雉屋さん北緯…、東径…へ」
***
雉屋はヘリで鬼ヶ島周辺を飛行しながら待機していた。
雉屋は考えていた。
鬼ヶ島に上陸後、ほとんどヘリへの連絡はなかった。
それだけ緊迫した状況なのだろうか。
それとも連絡ができない状況になっているのだろうか。
(みんな大丈夫かしら…。)
(私の任務は海上保安庁のパイロットとしてみんなをこの鬼ヶ島に連れて来ること。)
(心配だけど、あくまでパイロットとしての責務を果たさなくちゃ。)
雉屋はヘリで島の周囲を見渡していた。
(父も海が好きだったな。)
(この広い海を渡れば必ずどこかに父はいる。)
(この鬼ヶ島で起こっている真実が明らかになれば必ず父は戻ってくる。)
雉屋は操縦席に飾っているきびだんごの御守りに目線を送った。
無線から犬飼の声が聞こえた。
「雉屋、船着場だ!プロメテウスが船で逃走する!」
(プロメテウスが逃走!そんなことは絶対にさせない!)
続いて猿渡の声が聞こえてきた。
「雉屋さん北緯…、東径…へ」
「了解!すぐに向かうわ!」
(ありがとう、猿渡くん。)
(でもね私を甘く見ないでね。)
(あなたたちが上陸した後、鬼ヶ島の地形と船着場の位置は把握済みよ。)
(ここからだと、1分あれば着く!絶対に逃さない!)
雉屋はヘリを船着場のある浜辺の方へと旋回させる。
そして鬼ヶ島へ向けて高度を下げると同時に
ードォォォンー
とヘリのローターが空気を激しく叩きつける音が鳴り響いた。
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