第25話:雉と風
海の向こうから轟音が鳴り響き、強い風が鬼頭の乗る船に襲いかかる。
鬼頭は揺れ動く船に立つことができず、思わずしゃがみ込む。
さらに風が強く吹き、波は大きくなり船が大きく揺れ続ける。
鬼頭には今何が起こっているのか全く分からなかった。
とにかくその場に留まることがやっとだった。
桃谷は轟音が鳴り響く中、瞬時に岩陰に身を挺していた。
(雉屋さんだ、。鬼頭、お前はもう逃げられないよ。)
雉屋は鬼頭の船へ威嚇をした後、ヘリの高度を上げた。
高度を上げると次第に海辺の風は弱くなった。
すかさず雉屋は拡声器で鬼頭に向かって言い放つ。
「プロメテウス!あなたはもう逃げられない。」
「無駄な抵抗はよしなさい。」
鬼頭はやっとの思いで立ち上がった。
(海からは逃げれないぞ)
鬼頭は海からの逃走を諦め、船から降りて海辺を駆け出した。
(そうだ森の中を抜けて、集落に逃げよう。)
(こうなったら大量の鬼たちに奴らを仕留めさせる。)
鬼頭が森の中に入ろうとした時、目の前に強靭な鬼が立ちはだかる。
「剛羅!ちょうど良かった!」
「悪魔の化身の奴らを仕留めろ!」
鬼頭は後を追ってきた桃谷を指さして剛羅に指示を出した。
桃谷は一定の距離をとった。
(確か剛羅は温羅さんのお兄さんだったな。)
(彼は味方なのか。それとも敵なのか。)
剛羅は持っていた棍棒で力の限り地面を叩く。
地面は大きく揺れ、そばにいた鬼頭は一瞬ふらついた。
「剛羅!何をする!」
「俺はもうお前の言いなりにはならないと決めたんだ。」
「お前、人間様の言うことを聞かないとどうなるか分かっているのか!」
その時、剛羅の後を追いかけてきていた犬飼が鬼頭に対して告げた。
「もういい加減に辞めたらどうだ。」
「剛羅はもうお前の支配下にはないんだよ。」
「何だと!でもデータはどうだ。データは消失したはずだ!」
犬飼の横にいた猿渡が一言伝えた。
「鬼頭さん…システムは停止しました。」
猿渡の一言を聞くと鬼頭はその場で膝から崩れ落ちた。
「馬鹿な…お前にあのシステムを止められたというのか。」
「私がお前に負けたというのか。」
「いえ鬼頭さん、僕は技術ではあなたにまだまだ敵いませんよ。」
桃谷は崩れ落ちた鬼頭に駆け寄った。
「鬼頭さん、確かに技術の優劣はあるのかもしれらない。」
「でも本来その技術をいかに使うかが大事なんです。」
「あなたは技術の使い方を間違えた。」
「あなたは自身に潜む心の鬼に負けたんです。」
鬼頭は桃谷の顔を見上げた後、再びうなだれた。
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