第23話:猿vs鬼システムと桃の追跡
猿渡は目の前に広がるモニターの文字を見ながら、鬼システムにアクセスした。
(これは、鬼頭さんらしい完璧なシステムだ。)
(外部からの侵入や強制停止を一切許さないような仕組みになっている。)
(やはり今の僕の力では鬼頭さんには敵わない。)
モニターに写し出された残り時間を確認する。
残り6分48秒。
先ほどから後方では犬飼が剛羅と対峙して、地響きが鳴り響いている。
(犬飼さんはあの鬼と戦っているが、大丈夫だろうか。)
(ただ今は自分にできることに集中するしかない。)
(しかし、鬼頭さんがあそこまで変わってしまうとは。かつての鬼頭さんではなかった。)
(でも国際大会での三連覇なんて大した事なかったな。まだまだ鬼頭さんには及ばない。)
(そうだ、鬼頭さんのことだからシステムを停止するためのバックドアがあるかもしれない。)
猿渡はシステムを停止する方法がないか探し始める。
残り時間は5分11秒。
(よし、メインコードの最も深い部分に停止コマンドが隠されていたぞ。)
(停止コマンドの実行ボタンは出たがパスワードの入力回数は3回しかない。)
猿渡は息を飲んだ。
(おそらく、三回間違えると二度と停止することができなくなる…)
刻一刻と時間は経過していく。
(とりあえず何かパスワードを入力するしかない。)
(鬼頭さんが使いそうなパスワードは何だ。)
(そもそも何かの単語なのか。)
猿渡は頭をフル回転させる。
(確か、鬼頭さん、この島に辿り着く人間がいることを想定してたよな。座標位置に「onigashima」とつけて。そうだ!)
猿渡は思い当たった単語を入力してみる。
“onigashima”
認識失敗
(そんなに単純なことではないのか。)
モニターを確認する。
残り3分58秒。
(落ち着け。鬼頭さんは自らを支配者と名乗っていた。まさか!)
猿渡の指が動く。
“prometheus”
認識失敗
(やはりダメだ。僕には鬼頭さんの技術を超えることはできないんだ。)
(僕も鬼頭さんと同じ…か。)
(確かにそうかもな。この任務に失敗すれば僕は単なる足手まといになっただけだしな。)
猿渡はモニターの時間を見た。
残り2分55秒。
残されたパスワードの入力回数は1回のみ。
猿渡が孤独感を感じている間にも時間は無常にも過ぎていく。
***
桃谷は重たい金属製の扉を開けると急いで外に出た。
鬼頭はいったいどこに逃げたのか。
すると茂みの中から温羅が出てきた。
「桃谷さん、どうされたんですか?」
「温羅さん、時間がない。プロメテウスが逃走した。」
「基地の向かって右手の奥に裏口があったようです。」
「そうなんですね。私のいた茂みからはヤツは見えませんでした。」
「こちらは集落に向かう方面になります。」
そして、温羅は基地の奥を指差した。
「あちらには船着場に続く道があります。」
「もしかしたらヤツは船着場に逃げたのではないでしょうか。」
「間違いない!温羅さん、船着場に続く道まで案内して下さい!」
「はい!ついてきて下さい!」
桃谷と温羅は基地の奥に回り込み、船着場に続く道まで走り出した。
(おそらくセンサーをあの部屋で切ってから逃走したのだろう。)
とにかく桃谷たちは船着場めがけて走るしかなかった。
しばらくすると船着場まで続く道が見えてきた。
「ここからは一本道になります。」
「このまま行けば船着場まで辿り着けます。」
「温羅さん、ありがとう。」
「そうだ、基地の中で剛羅という護衛の鬼と犬飼さんが戦ってるんだ。」
「温羅さん、様子を見てきてくれないか?」
温羅の表情が変わった。
「剛羅兄さんが犬飼さんと!それは大変!」
「兄さんって剛羅は君のお兄さんなのか!」
「そうです。こうしちゃいられません。桃谷さん、早く行って下さい。」
「私もすぐに基地に戻って剛羅兄さんを止めなければ!」
「わかった。あとプロメテウスが船着場に逃走したとみんなに伝えてくれ。」
桃谷はそう言うと温羅の返事も聞かずに船着場までの一本道をひたすら走り続けた。
しばらくすると船着場が見えてきた。
そして森の中の一本道を抜けるとそこには船に乗り込んで今にも出航しろうとする鬼頭の姿があった。
「待て!」
鬼頭は声のする方向を振り返った。
「これはこれは、よくここまで来れましたね。」
「それで、気が変わりましたか?」
桃谷は鬼頭を睨みつける。
「そんな怖い顔をしないで下さい。」
「どのみちもう遅いですよ。あのシステムは止められない。」
鬼頭はおもむろに時計を見る。
「そうだな。あと3分もすればシステム内の情報は暗号化され、事実上消失する。」
「システム内の情報も大事だが、お前をここから逃がすわけにはいかない。」
「あくまで私を捕まえるということですか。」
「そのとおりだ。」
船着場の浜辺には穏やかな風が吹いていた。
「君たちの正義とは私を捕まえて警察本部の隠蔽データを消失させることなんだろ。」
「さすが組織の犬としてお手本のような活躍だ。」
桃谷は鬼頭の挑発にも一切動じない。
桃谷はきびだんごの御守りを強く握りしめた。
「僕たちの正義はお前を捕まえて、データの消失も防ぐことだ。」
「僕には正義の信念を共にする仲間がいる。」
「彼らなら必ず全てをやり遂げられる。」
「猿渡のことか。アイツに私のシステムは止められない。」
鬼頭はまるで何かを愉しむかのような表情をしている。
「確かに、私はあのシステムを停止することができるように細工をしてはいるが、アイツには止められないよ。」
「アイツは私を超えられない。」
再び鬼頭は時計を見た。
「見てみろ。あと15秒でデータは消失する。」
「君たちはデータも消失させたうえに、私を捕まえることもできないんだよ。ゴー、ヨン、サン、ニー、イチ…」
ードォォォンー
船着場の浜辺には爆風にも似た衝撃波と共に轟音が響きわたった。
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