第11話:雉の決意と猿システム
深夜の海上保安庁ヘリの格納庫に桃谷、犬飼、猿渡、雉屋の4人が集合していた。
格納庫は広大な空間で複数のヘリが並んでいる。
桃谷たち4人はその空間の端っこで明朝の出発に向けての打ち合わせを念入りに行っていた。
雉屋は猿渡を見て言った。
「あなたが猿渡さんですね。」
「私は今回の鬼ヶ島への航路のパイロットを務めさせていただきます雉屋翼といいます。」
「桃谷さんたちからお話は伺っています。」
「あなたが鬼ヶ島の座標位置を特定されたそうですね。」
猿渡にとってはハッキングの国際大会で見たことのあるアルゴリズムだったので得意がることもなかった。
「どうも、猿渡登といいます。」
「いや、僕からしたら容易い作業でしたよ。」
「2年前の海上保安庁のシステムバグから鬼ヶ島の位置を特定することができました。」
雉屋は若き天才ハッカーに敬意を評した。
「猿渡さんはすごいですね。若いのにそんなことできるなんて!」
猿渡はさらっと答えた。
「いえ、僕にしてみれば鬼ヶ島を見つけ出すことは環境さえ整えば本当に容易いことでしたよ。」
「どちらかと言うとあの刑事部長を黙らせる方が気が重かったですよ。」
犬飼は笑いながら猿渡に言った。
「そりゃあすまねぇことをしたな。それであの刑事部長は大人しくなったのかい?」
猿渡はほくそ笑んで言った。
「まぁ、僕にかかればどうってことないですよ。」
「それより雉屋さん、ヘリの操縦を頼みますね。今度はあなたの番ですよ。」
雉屋はきびだんごの御守りを握りしめて3人に向かって言った。
「任せといて!次は私があなたたちを無事に鬼ヶ島まで乗せて行くわ!」
雉屋の力強い言葉に犬飼が言った。
「心強いじゃねぇか!」
雉屋は握りしめたきびだんごの御守りを3人に見せた。
「いいえ、これもあなたたちのおかげです。」
「私一人じゃどうにもならなかった。」
「桃谷さんから『正義の信念』と言ってきびだんごの御守りをもらった時、少し考えてしまったの。」
「本当に私にこの御守りもらう資格はあるのかって。」
桃谷は今こうしてきびだんごの御守りを掲げている雉屋が物凄い葛藤の中でこの御守りを受け取り、鬼ヶ島へ行くと決意したのだと思った。
そして、雉屋に向かって言った。
「いえ、僕は雉屋さんだからこそ渡したんです。」
「ゴンさんから聞いてたんです。純粋に毎日、海の平和を守っているって。」
「あなたにお会いして話を聞いてみて、あなたはこの御守りを持つのにふさわしい人だと思います。」
雉屋は桃谷の言葉が嬉しかった。
「ありがとうございます。皆さんが一緒なら必ずやり遂げることができる気がしています。」
「それに現役の警察官、元刑事に天才ハッカー、これ以上私にとって心強いものはありません。」
「それに、そうだ、鬼ヶ島へ行くには距離的に途中で燃料補給が必要になるの。」
犬飼が不満そうに口を開いた。
「そうらしいな。そういや、俺は補給船の方に回されたよ。」
「何で俺が翼ちゃんのヘリに乗れずにあの野郎の船に乗らないといけねぇんだよ。」
猿渡は犬飼を見て笑いながら告げた。
「仕方ありませんよ。警察にも事情があるんでしょう。」
「あなたを補給船に乗せると言い出したのは須佐本部長でしたよ。」
「須佐の野郎…」
犬飼は相変わらず憮然としていた。
「ゴンさん。これも鬼退治のためなんだよ。」
「補給船に万が一のことがあってはいけない。」
犬飼は桃谷に諭されしぶしぶ納得した。
「いいさ、補給船の船長も俺の同僚だった奴だ。」
「犬飼さんの同僚ということは私の父とも知り合いなんですね。」
「心強い仲間がいますね。」
雉屋は笑顔で言った。
「そうだな。それじゃあ、俺は港へ向かうことにするよ。」
犬飼がその場を去ろうとすると猿渡が犬飼に無線機を手渡した。
「犬飼さん、鬼ヶ島へ向かっている最中はこの無線機を使って下さい。」
「一応、須佐本部長には許可を得ているのですが、今回の鬼ヶ島の鬼はシステムの鬼です。」
「もしかしたらこちらの通信が傍受される可能性があります。」
「この無線機は通常の国際VHF無線をベースに相手から傍受できないような工夫を施しています。」
「ヘリと補給船のやり取りはこの特殊無線機でお願いします。」
「たいそうな無線機だな。」
「向こうが『鬼システム』ならこっちは『猿システム』だな。」
犬飼は猿渡から無線機を受け取ると足早に格納庫を去っていった。
三人は港へ向かう犬飼の背中を見ながら、いよいよ鬼ヶ島へ向かうのだという強い緊張感と高揚感が湧いてきた。
***
一人の男が港にて出港のための準備をしていた。
彼のもとにはたびたび海上保安庁や警察から燃料補給のための要請が来ていた。
金城課長から要請を受けた。
連続強盗事件の捜索で海上保安庁のヘリが広域捜査を行うため補給船が必要だと。
わざわざヘリで捜索するとは男は犯人が国外で金品を売りさばいているのだろうと思った。
しかし、目的地を見ると明らかに単なる島だった。
それよりも今回広域捜査する海上保安庁のヘリのパイロットの名前が雉谷翼だった。
「キジさん、これも何かの縁かな。」
「それにしてもあの島はもしかして…」
一人の男が近づいてきた。
「よぉ、浦島。久しぶりじゃねぇか!」
「ゴンさん、お久しぶりです。」
二人の再会も束の間、浦島は出港の準備へ再び戻った。
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