第4話:猿の爪跡
深夜の桃ノ木町。
裏路地にある廃墟と化したゲームセンターの二階に一人の男が座っていた。
蛍光灯の点滅する薄暗い空間で、いくつものモニターに囲まれている。
彼の周囲には世界中から集めたであろうハイスペックなサーバー機器が無造作に積まれている。
彼の名前は猿渡登。
国際的なハッキング大会で三連覇を達成した、世界屈指の天才ハッカーだ。
猿渡は手元のキーボードを恐るべき速さで叩きながら、鼻歌を歌っていた。
その表情は、まるで子供のように楽しげだ。
彼の正面の巨大なモニターには、警察や銀行、富豪たちのプライベートネットワークの通信記録が、複雑なノード図として表示されている。
「ふぅん。相変わらず、警察のセキュリティはザルだね。」
しかし、天才ゆえの思考からか彼は人とは一線を画していた。
時折、彼は孤独感に苛まれることがあった。
(この町を荒らしてる『鬼』、どうやら単なる物理的な暴徒じゃない。)
(奪った金品のマネーロンダリングと、証拠隠滅のロジックが、かなり洗練されている。)
猿渡の知的好奇心は、『鬼』という存在の、暴力の裏にある『システム』に強く惹かれていた。
彼は、杵塚(きねつか)家の襲撃事件の直後、銀行システムから消えた痕跡を追っていた。
通常、凶悪犯は物理的な証拠を消そうとするが、この『鬼』は最初からデジタルな足跡を消すことに長けていた。
(物理的な力で人を威嚇し、デジタルな力で証拠を消す。)
(まるで、文明を理解した野蛮人だ。)
(しかしこの鬼とはいったい何者なんだ。)
猿渡の頭はここ数日間、鬼の正体とそのシステムのことで埋め尽くされていた。
「さぁ、気分転換にメシでも行くか。」
猿渡は深夜の町へと消えていった。
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