第5話:猿との遭遇とその誓い
桃谷と犬飼は鬼退治の作戦会議のために桃ノ木町にある定食屋『みちくさ食堂』に来ていた。
「犬飼さん、あなたが見た鬼とはどんな鬼だったのですか?」
「俺のことはゴンと呼んでくれ。そっちの方がしっくりくる。」
「そう、俺が見た鬼だな。」
「俺が見た鬼は赤色で身長が2メートルくらいで大きな棍棒を持っていた。」
「あと金品を詰めていたであろう袋を担いでいた。」
桃谷は食事には目もくれず話を続ける。
「なるほど。ところで犬飼さん、いやゴンさん。」
「ゴンさんが言っていた鬼のアジトが絶海の離島にあるとはどこからの情報なんですか?」
犬飼は食事を頬張りながら話を続ける。
「本来なら情報源は教えたくないのだが、今回は特別だ。」
「海上保安庁の雉屋 翼という女性のパイロットだ。」
桃谷は意外な表情をしていた。
「海上保安庁ですか。」
「そうだ。そいつが鬼らしきものを見たらしい。」
その時だった、一人の若い男が声をかけてきた。
「すみません、今、鬼という言葉が聞こえたんですが、あなた方は鬼を見たことがあるんですか?」
「兄ちゃん、質問に答える前にまず名前を教えてもらおうか。」
犬飼はいきなり声をかけてきた男に警戒心をあらわにする。
「失礼しました。僕は猿渡登といいます。」
「それで鬼を見たことあるんですか?」
犬飼は薄っすらと笑みを浮かべた。
「待てよ。兄ちゃん。ワシの名前は犬飼権三。」
「お前の質問に答える前に一つ聞かせてくれ。」
「どうして鬼について聞いてくるのか。あんなの昔話の世界の話だろ。」
猿渡は楽しげな表情を浮かべた。
「いえ、ここ最近ネットでは大きな話題となっていますよ。」
「鬼が町を荒らしていると。単なる都市伝説だといいんですが。」
「だからあなたの話が聞こえてきて本当に鬼がいるのではないかと思ったんですよ。」
犬飼は満面の笑みで猿渡の質問に答えた。
「そうなのか。まぁでも兄ちゃん、考え過ぎだ。」
「単なる飯屋での戯言だと思ってくれ。本当に鬼なんかいるわけねぇだろ。」
猿渡は犬飼を嘲笑うかのように聞き返した。
「そうですか。単なる飯屋での戯言だったのならわざわざ名前を名乗る必要もないのでは?」
「よくある話じゃないですか。知らない人と気分がよくなって一時だけ仲良くなることなんて。」
(チッ、この小僧)
犬飼の表情を見てもなお、猿渡は楽しそうな表情を浮かべている。
「わかりました。あなたは僕のことを警戒しているようなので、本当のことをお教えしますね。」
「僕はハッキングのプロで国際大会で3連覇しています。」
「それと鬼がどう関係あるかですが、鬼は単に力任せに金品を強奪しているだけではない。」
「この鬼は何よりもシステムに秀逸であらゆるシステムを理解し、運用している。」
猿渡の発言に二人は耳を疑った。
「それも今の警察よりも相当高いレベルです。」
「僕はそのシステムに興味がある。」
「だから鬼の話に興味があっただけです。」
犬飼は思わずテーブルを叩き、叫んだ。
「鬼がシステムを構築している!そんなバカな!」
猿渡の楽しげな表情は変わらない。
「これを本当ととるか、飯屋の戯言ととるかはあなたの自由です。」
犬飼は桃谷に目を向けた。
「猿渡さん、貴重な情報ありがとうございます。」
桃谷は猿渡が戯言を言っているようには思えなかった。
「私の名前は桃谷太郎と申します。」
「桃ノ木署の巡査部長です。」
「私はあなたを信じます。」
桃谷はどこまで猿渡に伝えるべきか躊躇した。
しかし、鬼がシステムを操るとなると猿渡の協力も不可欠だと感じていた。
「私たちは凶暴な鬼を退治すべく今後どうするかを考えていました。」
「今の警察組織では町民の安全を守れない。」
「あくまでこれは警察としてではなく私個人の信念です。」
「良かったらもう少しお話しを伺えませんか。」
猿渡はしばらく考え込んだ。
「鬼退治ですか。わかりました。」
「情報提供はしますが一つ条件があります。」
「僕を仲間にしてもらえませんか。」
桃谷とゴンは驚いて顔を見合わせた。
「警察としてではなく、あなた個人としてですよね。」
「だったら僕を仲間にするかどうかの判断はあなた自身でできるということですよね。」
猿渡の楽しげな表情の中にも真剣さが垣間見えた。
「僕はプロのハッカーとして生きてきています。」
「しかし、ハッキングということは善悪両面を持っている。」
猿渡は一度視線を落とし、先程までの楽しげな表情とは変わり、真剣にその悩ましい本心を語っていた。
「当然、その技術を悪用しようと考える人も多い。」
「ただ、僕にもプロとしての信念がある。」
「だから僕は何のためにこの技術を使うのか常に考えさせられていた。」
桃谷は猿渡がハッカーとして孤独の中で悩み抜いているのだと感じながら猿渡の話を聞き続けた。
「確かに最初は鬼の持つシステム技術にプロとして興味があった。」
「でも、桃谷さんの信念を聞いて確信しました。」
「この技術は必ずあなた方のお役に立ちます。」
猿渡の話を聞き終えると、桃谷はポケットからきびだんごの御守りを取り出した。
「わかりました。これは私がおじいさんとおばあさんからいただいた御守りで、『正義の信念』の証です。」
「私と同じ信念を持つ者に渡しなさいと教えられました。」
「猿渡さん、私たちと一緒に正義の信念に基づき、あなたの技術を活かして下さい。」
猿渡はきびだんごの御守りを見つめていた。
(きびだんごか、懐かしいなぁ。)
「わかりました。あなたにとってはきびだんごが正義の信念なんですね。」
「僕にはそんなたいそうな言葉は言えないですが、少しでもこの御守りにふさわしいことができるようにお供しますよ。」
「いえ、あなたが正義の信念を持っているからこそ私たちと仲間になったんです。」
三人は共に食事をしながら、鬼退治へ向けてさらなる決意を燃やしていた。
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