第12話 俺、やっちゃいましたか?
「さて、奥に進みましょう。次の魔獣はジェイドが対応してみて頂戴。母様もアザレアも居るから、気楽にね」
「はい!」
そう返事はしたものの、どうやって対処すべきかとジェイドは少し考え込む。
フリージアやアザレアが使ったスロウワー系の魔法はジェイドも使えないことはないが、ジェイドが一度に使える魔法の大きさの上限だ。魔力の出力量を意識して増やすことで範囲を広げることが出来るのがスロウワー魔法の特長だが、出力を上げられないジェイドが使ってもその恩恵は得られない。魔法の効果範囲より多くの魔獣が現れると、ジェイドのスロウワー魔法では対処できないのだ。
そして魔法は連射が出来ない。一度魔法を撃つと、魔宝具にダウンタイムが必要になるためだ。ダウンタイム中に別の魔宝具に切り替えて魔法を使うことはできるが、普通はメインの魔宝具でしか魔法は使わない。アクセサリーなどで魔宝具を持つのは、飽くまでも予備だ。
(まあでも、母上やアザレアがカバーしてくれるなら、失敗するのも織り込み済みでやってみたいことをやるのも有りかな)
少し歩くと、通路のような洞窟が終わり、開けた場所に出た。
「何ですのここ? 洞窟の中のはずなのに、明るいですわ」
辺りを見回したクリスティナが目を見開いている。
「ダンジョンにはこう言うところがあるのよ。採取ができる場所なんかはこんな感じになっている場所が多いわね」
通路から入ってすぐのところはまだ足元が岩の床だが、数歩歩けば草が茂り始め、奥の方は草原になっているのが見える。
「洞窟の中を進んできたはずなのに、中にこんなに広い、しかも明るい草原があるだなんて、どうなっているんでしょう」
マリーも不思議そうに周囲を見回している。ジェイドも少し感動している……のだが、前世で嗜んだファンタジーではダンジョンとはこういう物としている作品も多かったので、二人のように疑問に感じず、ダンジョンらしいなあと受け入れてしまっていた。
「ここからは魔獣が現れる方向が絞れなくなるから、これまで以上に気をつけて……!」
フリージアが注意を促そうとした瞬間、魔獣の気配がした。
「いけない、二方向から同時に来たわ!」
「私が……!」
フリージアとアザレアが慌てているが、ジェイドが試したかったことには丁度いい。
ジェイドは右手にショートソードの魔宝具を、左手に指輪の魔宝具を持って呪文を唱えた。
「フレイム=スロウワー!」
と同時にショートソードと指輪から火炎放射が吹き出す。
それぞれの群れ自体は数が多くなかったので無事に両方の魔獣達が燃え落ちた。
「ジェイド! 今の魔法は何!?」
驚いた様子のフリージアが詰め寄ってくる。
「フレイムスロウワーを二発同時に発動しただけですよ。魔力を分割して集めることが出来れば、詠唱は一度で発動出来るんですね、これ」
「そ、そんなことが可能なの?」
「理論上は……出来てもおかしく無いですけど、意識の集中を二つにするのが難しいですよね……」
考え込んでしまった二人に、まずいなとジェイドは内心で冷や汗をかく。
これはあれだ、所謂前世で「俺何かやっちゃいましたか展開」と言われていた奴だ。
ぶっちゃけて言えばジェイドは俺何かやっちゃいましたか系のキャラが嫌いだった。異世界に転移して、期間が短いが故に異世界の知識が凄く乏しいというパターンはいい。しかし、転生してその世界に暮らして十年以上経っていて、というケースのものは何かやっちゃいましたもクソも無いだろうと思っていたのだ。それは周囲に自らを合わせる気も学ぶ気もない、自己中野郎だ。
前世でラノベを読む時散々悪態をついた行動を自分がしてしまい、心の中でジェイドは己自身を罵った。
「あっ、出来たわ!出来なくはないわね」
ジェイドが内省している間に、フリージアは実際に試してみたらしい。右手に杖、左手に魔宝具だったらしいネックレスを持って魔法を試している。
「でもコントロールが難しいわ。スロウワーとか火力調整を自分で出来る魔法だと、両方うっかり最大火力になってしまいそう」
フリージアがアザレアにネックレスを渡すと、アザレアもすぐに魔法を試し撃ちした。
「あ、私も出来ましたぁ。これ、気がつく人が居なかっただけですかね」
アザレアの言葉にジェイドはホッとする。
「学園で、王宮騎士を目指している先輩の訓練を見学したことがあるんです。その時、身体強化で剣を扱いながら、盾の魔宝具から牽制の攻撃魔法を使っている人がいて。発動タイミングは違っても、実質二つの魔法を同時に維持していると言えるので、射出型の攻撃魔法でも出来るのではと思ったんです」
ジェイドの言い訳にフリージアが納得したように頷く。
「確かに騎士で攻撃魔法を使う人も居るわね。身体強化と攻撃魔法って別のものだと思っていたから、同時に使っているのを疑問に思わなかったわ」
「思い込みってやつですねぇ」
「ついでに、俺は魔力の出力量はあまりないですけど、魔力量はあるので……二つ同時に使えば出力量二倍になるかなと」
出力量の才能が無いのは事実で有り変えられないのだから、何らかの工夫で補えないかと考えていた案がこれだったのだ。
「そうね、素晴らしいわジェイド! 出力に不安がない人間ではこの発想に至らないものね」
フリージアにハグされてジェイドは慌てる。ジェイドももうじき十五歳なので、流石に母にハグをされるような年齢ではないと思う。
「私も抱きついちゃお〜」
さらにアザレアにまで抱きつかれて、流石にジェイドも暴れて逃げ出した。それを見てフリージア達はくすくす笑っている。
「あっ、私も抱きつこうと思ったのに!」
むくれるクリスティナと、どうやらその後ろから続こうとしていたらしいマリー。
トールは口を押さえてそっぽを向いている。笑いを堪えているらしい。
「笑ってないで助けろトール」
「いえ、ハーレムですねジェイド様」
「血縁が二人も混じっている。否定するぞ」
確かにはたから見れば美女と美少女ばかりのハイレベルのハーレムかも知れないが、母親と妹をカウントしないでほしい。それにアザレアもマリーももう家族みたいなものなのだ。
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