第8話 助けが来たのに、状況がさらにヤバい。


森の奥へ数歩進んだ、その瞬間だった。


「伏せろッ!!」


反射的に地面へ倒れ込むと、

すぐ頭上を鋭い風切り音が走った。


次の瞬間——

敵機の一体が、金属音を響かせて倒れた。


赤い照準が狂い、

泥の上で痙攣する。


「な、なんだ……今の……!」


悠斗は息を呑んだまま動けない。

背中でエルの体温が弱く震え、

コアの光は細く明滅を繰り返す。


ニャースケが警告音を鳴らしながら叫ぶ。


「まだ照準がこっち向いてるニャ!!

 敵、まだ全部やられてないニャ!!」


木々の奥で、

赤い光が三つ、ゆらりと揺れた。


森の湿気が濃く、

雨の匂いが鼻に刺さる。


(どこだ……? 誰が……さっきの声は……?)


さっき敵を撃ち抜いた“何か”は見えない。

だが、確かに気配がある。


静かに。

正確に。

足音だけが森の奥から近づいてくる。


ザッ……ザッ……


重さのある足取り。

だが、迷いは一つもない。


ニャースケの耳がピクッと跳ねる。


「ユウト……来るニャ……。

 敵じゃない……でもただ者じゃないニャ……!」


悠斗はエルを抱きかかえたまま、

木々の向こうを凝視した。


赤い光が揺れる。

森の闇が割れる。


足音が止まる。


そして——


木々の間から、

一人の少女がゆっくり姿を現した。


木々の影から現れた少女は、

濡れた黒髪を肩で払いつつ、悠斗たちを一瞥した。


年は悠斗と同じくらい。

制服でも作業服でもない、動きやすい私服。

そして手には、細長い金属器具——

まるで“携帯型スタナー”のような光を放つ武器。


「……間に合ったみたいね」


落ち着いた声。

その後ろで、赤い照準がふいに動いた。


敵機が跳躍する。


少女は振り向かない。

ただ、片手を軽く上げただけ。


バチィッ——!


空気が裂ける音とともに、

敵機が弾かれたように転がった。


「なっ……!」


悠斗は息を呑んだ。

動きが速すぎて、何をしたのか分からない。


ニャースケも尻尾を膨らませる。


「この人……ただ者じゃないニャ……!」


少女はしゃがみ込み、

エルの胸の紋に触れた。


その指先は迷いなく、まるで

“内部構造を知っている者の触り方”だった。


「……コア、完全に乱れてる。

 このままじゃ持たないわね」


悠斗の胸が冷たくなる。


「直せるのか……!? 頼む……!」


少女は首を振った。


「ここじゃ無理。

 コアの安定化ができる装置が必要なの」


「装置……?」


「森を抜けた先に“地下シェルター”がある。

 そこなら、応急の調整ができるはず。

 ——立てる? 行くわよ」


ずいぶん淡白だが、

その声は不思議と安心感があった。


ニャースケが武器を向けた敵機を見て、

更に険しい声で叫ぶ。


「ユウト! 囲まれてきてるニャ!!

 上位型ドローン、追加で数体!!」


少女——つかさは立ち上がり、

悠斗にだけ短く言う。


「逃げ道、もう一つしか残ってない。

 ……つべこべ言わず、ついてきなさい。」


その背中は、

この場で唯一“状況を理解している人間”のものだった。


つかさが森の奥を指差した。


「こっち。走るわよ!」


言い終わるより早く、

三人は雨の森へ飛び出した。


足元の泥が跳ね、

ぬかるんだ地面で何度も足が滑りかける。


エルは悠斗の背中でぐったりしたまま、

胸の紋だけが不規則に光る。


——ビッ。

——ビビ……ッ。


歩調に合わせて震え、

時折、青白い火花が散る。


「エル……耐えてくれよ……!」


つかさが横を走りながら短く言った。


「コアの暴走が始まってる。

 あなたが落としたら、一瞬で死ぬわよ。しっかり抱えなさい!」


「分かってる!!」


背後で金属の跳躍音が鳴った。


敵の跳躍型ドローンが木々を蹴って追ってくる。

足音が速い。

照準の赤が増えている。


ニャースケが警告を叫ぶ。


「三体! 右上から来るニャ!!」


つかさが即座に反応した。

手にしたスタナーを地面に向けて撃ち、

土を弾き上げて目くらましを作る。


「このままじゃ追いつかれる……!

 もう少しでシェルターよ、走れ!!」


その時だった。


一体の跳躍型が、

ニャースケめがけて飛びかかった。


「ニャッ——!?」


「危ない!!」


つかさが身を投げるように割り込んだ。

スタナーの柄でドローンを横へ叩き落とすが、

腕に火花が散り、肌が裂けた。


「つ、つかさ!? 今の……!」


「気にしない! 走りなさい!!」


雨の中、

古い鋼鉄ハッチが見えた。


地面に半ば埋もれ、苔に覆われた蓋。

それが、つかさの言う地下シェルターだ。


「ここよ!! 早く開けて!!」


つかさが駆け寄り、

重たいハンドルに手を伸ばしたその瞬間——


悠斗の背中で、

エルの胸が激しく光った。


——ゴッ。


地鳴りのような低い音が森に響く。


「……え……?」


紋が、明らかに“異常拡大”していた。

光が形を保てず、外へあふれ出す。


つかさの表情が一瞬で青ざめる。


「ダメッ!! 離れて!!

 ——コアが暴走する!!」


跳躍型ドローンの赤い照準が再び点いた。


森の空気が、光に引き寄せられるようにうねる。


エルの胸の紋が——

破裂しそうなほど強烈に輝いた。


世界が白く跳ねた。


——暗転。

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