第4話 魂の継承

 『【神話ミソロジー】魂なき女神の現し身』のカードが、俺の魔力と生命力を急速に吸い取っていく。

 体の奥底にあるエネルギーまでもが、細い糸となって引き出される感覚。だが、それは単に吸収されるだけでなく、何か別の形へと変容しているようだった。


 俺の腕の中で、ユキさんの身体が淡く光り始める。


 最初は微かだったそれは、次第に強さを増し、まるで夜の湖面に映る月明かりのように周囲を照らしていった。

 光は彼女の胸元に収束してから、俺の持つカードへと吸い込まれていく。


 やがて、彼女の身体から放たれる光すべてが『【神話ミソロジー】魂なき女神の現し身』のカードへと収束する。


 次の瞬間——。


 カードの中心から、吹雪のような白い霧があふれ出した。


 霧はたちまち視界を覆い、まるで世界そのものが凍てつくかのように周囲を包み込むなか、俺の手にあったカードの感触が消えていく。

 指先すら見えないほどの濃霧の中、生命力を消費して消耗していた俺は、無理矢理にでも意識を保ちながら、ただじっと待つしかなかった。


 どれほどの時間が経ったのだろうか。

 朦朧とし始めた意識のなか、とても長かったような気もするし、一瞬のことだったようにも思える。


 ——やがて、吹雪が静まり、視界が晴れていく。


 そこには、俺の腕の中で横たわるユキさんとは別の、


 そして、もう一人の彼女の前に新たなカードが現れる。



神話ミソロジー】骨格型魔導人形〈ヘル〉 Lv1、攻0 / 守0 / 魔5/ 命5、(水×2)(風×2)(無×6)、[機巧人形オートマタ / 魔導具 / 装備][装備コスト5][装備補正+2/+3/+5/+5][耐久5][自動修復5][装備解除不可][適応5][戦闘補助5][氷肌玉骨][魔晶溟雪ニクスマグナ… (水or風):溟雪めいせつ生成 / 操作1・熱 / 魔力吸収1・熱魔変換]



 俺がゲームで魂なき女神の現し身のために用意していた、専用の装備カード。


 『【神話】魂なき女神の現し身』の効果アビリティの一つ——。


 [このユニットを召喚した際、同時にデッキ内の好きな『魔導具/装備』を開封し、ノーコストでこのユニットへと装備させることができる]


 その効果により、半ば強制的に召喚されたのだ。


 〝骨格型魔導人形〟——自立可能な機巧人形オートマタの一種。

 その名の通り、それは魂なき女神の現し身の全身の骨格に合わせて作られた、骨型の機巧人形オートマタだった。


 ユニットでありながらアイテムでもある。そんな通常のユニットとは違う機巧人形オートマタ特有のアビリティである“機構システム”、高レアユニットであるがゆえに取得可能な“固有スキル”、装備品としての各種様々な“補正効果”。

 さらに、恵まれた能力がゆえに本来ならば種族として弱点が多く、非常にもろく弱い機巧人形オートマタでも、骨として別のユニットの内部に組み込まれれば、攻撃対象にすらならなくなる。


 この発想をもとに、骨格型魔導人形と、それを装備するための英雄ユニットばかりで『フィールド専用英雄デッキ』は編成されていた。


 彼女の前に浮かぶカード『【神話】骨格型魔導人形〈ヘル〉』が、一度脈動するかのように震える。

 次の瞬間、それは砕け散るようなエフェクトを発したあと、骨の姿を映し出した。


 まるで氷か水晶のように輝く白銀の骨格が、淡い光を纏いながら浮かび、すぐさま彼女の身体へと吸い込まれていく。


 ——そして、奇跡が完遂された。


 宵月よいづきゆきの魂を宿した『【神話】魂なき女神の現し身』の召喚。

 そこから『【神話】骨格型魔導人形〈ヘル〉』の開封と装備へと至る、一連の流れ。


 それは、まるで神話の一ページのように——

 言葉にできないほど神秘的で、美しい光景だった。


 ……だが。


 俺自身には、その光景を楽しむ余裕など残されていなかった。


 魔力の枯渇。生命力の減少。

 筆舌に尽くし難い全身の倦怠感と苦痛。

 体の芯から冷え、指先がしびれ、感覚が遠のいていく。

 意識の奥で、何かが削られていくような音がする。


 気を抜けば、意識が途切れそうだ。


 それでも、ユキさんの魂の移植とも言えるこの奇跡の結果を見届けるまでは、倒れるわけにはいかない。


 やがて、人形のようだった『【神話】魂なき女神の現し身』の美しい唇から、白い吐息が微かに漏れる。


 そして——ゆっくりと、まぶたを開いた。


 俺を見つめる彼女は、戸惑いながら言葉を紡ぐ。


「……PQたん? あれ? 私……死んだはずじゃ……?」


 ——彼女の声を聞いた、その瞬間。


 張り詰めていた何かが、音もなくほどけるのを感じた。


 俺は、抱きしめていたユキさんの本来の身体とともに、崩れ落ちるようにして意識を手放していった……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る