第3話 狂気の選択
ギィ、ギィャアァッ……!
――
この叫び声……ゲーム通りなら、間違いなくゴブリンだ。
ファンタジー作品では定番の、由緒正しき雑魚モンスター。
ペンタモーフ・シリーズでもゴブリンは最序盤に出てくる魔物の一つだった。
PACのカードデータでは、確か——
[攻撃力1 / 守備力1 / 魔力1 / 生命力1]
何の能力も持たない、いわゆるバニラというやつだ。対して、プレイヤーの初期ステータスは——
[攻撃力0 / 守備力0 / 魔力5 / 生命力5]
どう考えても、勝ち目がない。
「ユキさん、走って! 逃げるよ!」
「う、うん……わかった!」
彼女の手を取り、迷宮の石畳を駆けながら必死に打開策を考える。
PACでは、ゲーム開始時に無数に存在する固有スキルのなかから二つ選ぶ仕様だった。対戦型カードゲームとして、プレイヤーの個性を際立たせ、同じデッキばかりにならないようにするための要素の一つ。
俺が選んだのは、[
――問題は、それらのスキルが今の状況で使い物になるかだ。
[
PACでは、スキルやアビリティといったプレイヤーやユニット由来の能力使用には“魔力”を、カードの開封や召喚には“マナ”を、それぞれに使い分けて発動する必要があった。
[
集められるマナは最大魔力量に比例するため、本来なら魔力5の現在はマナも5までしか操れないのだが、[
9マナもあれば、相当に強力な
俺のデッキでなければ、だが。
俺の『フィールド専用英雄デッキ』は、ユニットの特性を活かした専用魔道具を装備させて初めて機能する超晩成型のピーキーな構成。
ユニット単体の攻撃力・守備力はすべて“0”。
今召喚しても、何の役にも立たない。
――囮にするのはどうか?
……ダメだ。
デッキ内のユニットの召喚コストは、最低でも8はあったはず。
ゲームでは生命力が少なくなると、体が重くなっていく仕様だった。
現実になった今、最悪そのまま動けなくなる可能性すらありえる。
もう一つの固有スキル、[
[
ゲーム内でのストーリーモードに限り、デッキとの相性が最高だったこともあり選んでいたが――
今の俺には、何の意味もなさない。
なぜなら、俺専用の魔導具のマナコストは10。
どうあがいても発動できない。
――詰んだ。
冷静な自分が、動かしがたい現実を突きつけてくる。けれど、右手に感じる大切な人の温もりが、それを拒む。
考えろ。考えるんだ。今、俺が持っているものは?
スマホ、鍵、メガネ、ベルト、ポーチ、デッキ、剥ぎ取り専用ナイフ……ナイフ?
……待てよ。
ゲームでは、倒した魔物からアイテムを得るためだけにしか使えない『剥ぎ取り専用ナイフ』。
けど、ここは多分現実だ……。
これ、ただのナイフなんじゃないか?
思いついた瞬間、俺は走るのをやめた。
驚くユキさんの手を離し、代わりにナイフへ手を添えながら彼女を庇うようにして前へと出る。一か八か、迫りくるゴブリンを睨みつけながら、俺はナイフを抜いた。
「はぁ、はぁ……ぴ、PQ……!」
ユキさんの俺を呼ぶ声が聞こえるが、彼女を守るためにも反応することは出来ない。
襲いかかるゴブリンの動きは、意外なほどよく見えた。何度もゲームで戦った経験が、ここにきて生きている。
「はっ、はっ、はっ……」
俺は、疲れと緊張により呼吸が荒くなる。息を切らしながらも必死にナイフを振るい――目の前のゴブリンを倒した。
その直後、耳をつんざく悲鳴が響いた。
「いやぁぁ……! 来ないで!!」
振り向いた先に――血が舞っていた。
ユキさんの身体を切り裂くゴブリンの刃。
頭の中が、真っ白になった——。
◇
気付いたときには二体のゴブリンは斃れ、命の
絶望の最中、禁忌に近い考えが頭をよぎる。
たった一つ。
一つだけ、この状況を何とかできる可能性があった。
俺は、ポーチから一枚のカードを取り出した。それは奇しくも、ユキさん——
【
ユキさんを助けるために――いや、彼女を失いたくないからこそ。このカードを召喚し、宵月詩の魂を生贄に捧げればいい。
都合が良いことに、二体のゴブリンを始末したことで、俺のレベルが上がっている実感があった。ゲーム通りならば、最大魔力量が1上昇しているはず。仕様上、生命力を削れば最大10マナまでは捻出できる。
その結果、俺がどうなろうと知ったことか。彼女さえ無事ならばどうでもいい。
絶望の淵で狂気に囚われた俺は、[
そして、生み出された(水×3)(風×2)(無×5)のマナを——『【
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