俳優を志した理由

 高校の頃から、僕はやたらとモテた。


 自分でも分かっていた──顔だけは、悪くないってことを。

 でも、それは僕の“取り柄”というより、ただ大嫌いな父親にそっくりなだけだった。


 家に帰れば、仕事もしない父が母に怒鳴る声が聞こえる。

 そんな父に似た自分が嫌で、いつか自分も同じ人間になるんじゃないかと怖かった。


 だからせめて、弟・草太の学費だけは自分の力で払いたかった。

 父にだけは頼りたくなかった。


 ある日、公園で声をかけられた。


「君、俳優に興味ない?」


 スーツ姿の男──後のマネージャー小林は、僕を見て即座に言った。


「顔が武器になる世界だよ」


 その言葉に、心がざわついた。

 僕にあるのは、この顔くらいだ。だけど──。


「……弟の学費、稼げますか?」


「稼げるよ」


 その瞬間、決めた。


「僕、俳優やってみます」


 ――大嫌いな親父に似たこの“顔”を、武器にするために。

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