第9話魔法のお部屋
一人になった俺は、まずは部屋を物色していた。
これまで、その他の印象が強すぎて目に入らなかったが、この部屋は結構奇妙だった。
白の大広間みたいな空間なのに壁はほとんど本棚か薬品っぽいものが詰められた棚で埋め尽くされている。
多分素材は何らかの木でアンティーク感のあるおしゃれなデザインなのに学校の理科室みたいな机が並び、その机の上は、こりゃまた分厚い本や怪しい液体の入ったフラスコや瓶その他実験器具っぽい物で埋め尽くされてる。
俺は本棚に近づき背表紙を眺めるが、書かれている文字は俺の知ってるものではなくて何一つ読めなかった。
俺、ほんとに異世界に来ちまったんだなぁ。
落ち着いて、考えると実感が湧いてきてなんだか物寂しい気分になっていった。
「春巻き、食べたいなぁ」
そう思っても、言っても、春巻きは現れてくれない。
することのなくなった俺は、猛烈な睡魔に襲われ、逆らうことなく目を閉じた。
一方その頃、アロエとアセロラは自分を呼び出した父親の部屋の前にいた。
「姫様、大丈夫。なんとかなる。私はずっとそばにいるからな。見えないけど」
「うん。ありがとうアセロラ。いつも頼りにしてるわ」
「姫様……」
「行ってくるわね」
姫様は覚悟を決めたように深呼吸をして大きなドアを二回ノックした。
相当いいものを使っているのか、ただ分厚いのか。
薄暗く、静寂の漂う廊下にその音だけが響く。
「アロエか?」
中から低い声が返ってくる。
「はい。アロエです」
「入れ」
「はい。失礼します」
いかにも重そうなドアが、軋む音一つたてずに開く。
何度見ても、異質で奇妙な光景だ。
この世界では当たり前であっても、その存在は特異であるとひしひしと感じる。
姫様が部屋の中へと入ってゆく。
私は無の魔法を使うことで存在を消し、姫様のあとに続く。
モノクロで統一された部屋の奥には、大きな机と椅子があって、そこには姫様のお父様が座っていた。
姫様の足が止まる。
「どうされましたか? お父様」
「お前の嫁入りが決まった。オータムロール家に嫁ぐことになる」
「嫌ですわ! なんでそんなこと! オータムロール家とは仲が悪く、嫁ぎになんて……」
駄目よ、そんなの殺されに言ってるようじゃない。
そんなの私が許さない。
あぁ、もどかしい。この人に存在を知られてはいけない私は何もすることができない。
「決定事項だ。話はそれだけだ。下がりなさい」
「一つだけ。聞いてもよろしいですか?」
「何だ」
「私の対価となったものはなんですか?」
「主に料理や食材に関する貿易だ。これ以上は言えない」
「わかりました」
姫様は失礼しましたと一礼して、その場を去った。
廊下に、扉を閉じる音が響く。
途端に崩れ落ちそうになる姫様をさっと魔法を解除して支える。
「ありがとうアセロラ」
当たり前だ。半分死刑宣告されているようなものなのだ。
そのくらい。この二つの派閥は仲が悪い。
どうにかしないと……。
いや、どうにかする。
私は姫様を守ると、もう一度固く心に誓ったのだった。
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