第8話アセロラ
アロエが出ていって、静寂が漂う部屋の中で俺はぐるぐると考え事をしていた。
俺はなぜ、こんなところにいる。
どうやってここに来た。
ここはどこなんだ。
七百十一はほんとに無いのか?
あぁ、春巻きが食べたいよ。
てか、あの二人は何なんだ。
「どうしよう……」
突然、背後から小さい物音がした。
振り向くと、ピンク髪赤目。
「お前は何者?」
「俺の名は、スプリ……」
「違う。名前はしっている。お前のそのふざけた名前は。どこから来た?」
「日本というところから来た」
「嘘でないだろうな」
「はい」
「私の知っている限り、日本という国は存在しない」
「多分ここは別の世界線なんだよな」
「あぁ、その線が濃厚だろうな」
「でも来れたんだから、帰れるはずだ」
「お前が来たとき、たしかに私達は魔法陣を起動していた。ただ、何も唱えたりしていない。魔法陣は基本呪文を唱えないと発動しない。だから、本当ならありえないはずだった。ただ、お前は来た。なぜなのだ? お前は、なにか呪文を唱えたのか?」
「いや、俺は呪文を知らない。あり得ない」
「だろうね。だから、お前が帰る方法は誰も知らない」
「でも、凄く魔法が詳しい人とかなら知っていたり……」
「いや、あり得ないとは断言できないが、私の姫様はこの世界で一位、二位を争うくらい素晴らしい魔法使いであるし、魔法についても詳しい」
「そ、そうですか……」
あれ、これはほんとに絶望に近いのでは……。
え、まって春巻き。俺の春巻き。
「ま、だからもしさっきの春巻きとやらが食べたいのなら、この世界で自分で作るしか無いのかもな。せいぜい頑張れよ」
彼女はヒールを鳴らしながら俺の横を通り過ぎ、扉の方へと歩いている。
「あの! あなたは、何者?」
途端に、空気が変わった。
背筋が凍りつくような空気が俺の周りを覆った。
俺は身震いし、その場から立ち去りたい衝動をなんとか抑え込んで、その場に留まった。
「私は、アセロラ。姫様のお付の者であり、護衛騎士でもある。姫様にすべてを捧げた存在よ。基本表にも出ないから、私の存在を口外することのないように。もし、姫様に危害が加わるようなことをしたら、わかってるわね。」
「は、はい……」
どこから、取り出したのか。俺はまた、ナイフを突きつけられている。
素人目でもわかる。アセロラは強い。
しかも、ただ強いんじゃなくてなんていうんだろう。どう言えばよいのかわからないけど、半端なく強いんだと思う。
隙がない。でもそれだけじゃなくて、アセロラは姫様のためなら容赦なく、ためらいもせず、俺のことを殺すだろう。それがひしひしと伝わってくる。
「この部屋で、大人しくしておくのよ」
扉が閉まる音が、虚しく響く。
今度こそ俺は、一人になったみたいだ。
アロエとアセロラ。二人はただの仲の良い主とその従者みたいなものだと思っていたがもしかしたらもう少し深いわけがあるのかもしれない。
影武者みたいなものなのだろうか。いや、それは少し違うかもしれない。でもそれに限りなく似たようなものを感じる。
わからないな。謎が多すぎる。
ただ、あの感じ。本当に逆らわないほうが良さそうだ。
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