第5話 やっぱり春巻きは美味い!!

「はぁ……」


 金髪青目は俺の首元から槍もどきを離して言った。


「もういいわ。あなたを殺すのは辞める。その代わり春巻きは一本いただくわよ」


 俺の春巻き……。

 でもしょうがない。

 死ぬ前に春巻きが食べれるようなら、間違いなくそっちを選ぶが、結局食べれないのなら生きて一本食べたほうがいい。

 ただ、俺にも譲れないことはある。


「わかった。その条件をのもう。ただし一つ俺からも条件がある」


「話してみなさい」


「春巻きを温めてくれ」


「はぁ~、そんなことね。いいわよ」


 金髪青目は手から火を出し、春巻きにつけた。

 眼の前で春巻きが炎に包まれていく。


「え?」


「ん?」


「え、まて待て燃えるって!! 春巻きぃぃぃ!」


 嘘つきだ。春巻き食べてもいいって言ったのに。

 俺は春巻きを取り返さなくてはいけない。焦げてなくなってしまう前に……前へ前へ。

 その一心で春巻きの方へ這って進もうとした。


「こぉらあぁぁ! 姫様の邪魔をするなぁぁぁ」


「ぐへっ」


 俺の努力は虚しく脳天に振り下ろされたかかとによって俺は床とにらめっこをすることになった。

 頭がぐわんぐわんする。

 これ、あれか? 脳内出血とかで死ぬやつじゃないのか?

 

「できたわ」


 はいー? 何が”できたわ”だよ俺はこの目で見たからな。春巻きが炎に包まれて焼かれていくのを!


「どーぞ召し上がれ」


 眼の前にコトンと置かれたいかにも高級そうな白地に金縁の平皿。

 その上にはちょこんと春巻きが一本。

 まるで焼き立てみたいにツヤツヤに輝く皮にホクホクと立ち昇る白い湯気。

 まるでじゃない。本当に焼き立てみたいだ。

 いやぁ、にしても似合ってねえーー。皿と春巻きがあってなさすぎる。

 素材殺しのお手本だ。

 もっと春巻きにあった皿あっただろうがよ。

 ただ……。


「美味そう……」


 ごく自然に、俺の手は伸びていた。

 まっすぐと、春巻きへと。

 

 そしてやっとのこさ、俺は春巻きを口に運んだ。


 噛んだ瞬間、パリッと弾ける皮とその皮に包まれたトロトロの餡。

 餡の味付けも完璧でまさに”追い調味料をしたいと思わないランキング”1位だ。

 まさしく、春巻きは究極の食べ物なのだ。


「うまい……」


 一周回って言葉が出てこない。

 俺は、もう七百十一の春巻き。これがあれば他には何もいらないのさ。


「何コイツ。とろけた顔しやがって、キモっ__」


「確かにきも……いやなんでもないですわ」


「姫様は優しいなあ。もっと素直に言っていいんだよ?」


 こいつらが俺のことをなんと言おうとどうでもいいのである。

 あーー聞こえない聞こえない。

 俺には春巻きしか無いのさ。


「アセロラ、私達も食べましょ」


「はーい」


 ピンク髪赤目がスキップで金髪青目に近づいていく。

 でもそんなことはどうでも良くて、俺は春巻きの動きを凝視していた。

 お皿の上に乗っていた春巻きが金髪青目に掴まれてどんどん上昇していって、そして口の中に。

 噛み切った瞬間金髪青目のただでさえバカでかい目が更にでかく丸くなって、残った半分の春巻きをピンク髪赤目に渡した。

 ピンク髪赤目は黙って残りの春巻きを受け取り、恐る恐る口に運んだ。

 そして二人は互いの目を見合わせた。


「美味しい……」


 ピンク髪赤目がボソッと呟く。


「だろ??」


 俺は、ドヤ顔をするが……。


「キモっ」


 おかしいな。俺、顔自体はそんなに悪くないはずじゃ……。


「美味しい……美味しいわ」

 

 金髪青目がヒールを鳴らしながらゆっくりとこちらに近づいてくる。

 俺の眼の前でピタッと止まり、探るような目でじっとこちらを見つめてきた。


「あなた、名前は? それと一体何者なの……?」


「お、俺は……」


 待てよ__俺はここで本名を言っていいのか?

 俺にはあるじゃないか。最強の二つ名が……。


 

 



 




 


 



 

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