第45話【配信開始】
パッ、とギフトの背後にあるモニターに、1つの映像が映し出される。水色と白を基調とした、どこか電子的な1つの映像。右側には青い枠で何かが更新されているようで、細々とした文字が表示されている。画面中央には「配信準備中」という白色の文字が踊っており、僕はそれを目にしてようやく、これが生配信の画面であると理解する。
じゃあ、待機画面の右側に表示され文字は、配信の概要などの説明だろうか。
僕がそう思い画面を注視していると、ステージに立つギフトが声を発した。
「さて、皆様画面をご覧ください……と言うまでもありませんね。……さて、早速この『何でもメイキング』の結果発表を行っていくわけなんですが……今回は昨日説明した通り、システムが少し違います」
ギフトの美しい声に合わせて、パっと画面が切り替わる。僕らの視界に飛び込んできたのは、白と黒の至ってシンプルなスライドだ。手抜きではないけれどさしてこだわりも見られないそのスライドには、「結果発表の流れ」という大きな見出しが付けられていた。
……ああ、これから僕らの命運を分ける、作品の投票タイムが始まるんだ。
僕は改めて自分が置かれている状況を自覚すると、僅かな読み取りミスも作らないように、慎重にスライドに目を通した。
……結果発表の流れ。
「株式会社プログレス」公式チャンネルで世界に向けて生配信を行い、作品の画像と紹介動画を配信する。
投票は専用フォームから行い、最大3つまで投票できる。ポイントは全て1ポイントで集計され、0ポイントだったグループ別室に移動し処刑される。
「……特に、変わったことはないな……」
僕はそのスライドに目を通して、ボソリとそう呟いた。
当たり前といえば当たり前かもしれないけれど、ギフトが表示したスライドには、本当に簡単で当たり前のルールしか書いていなかった。
配信の流れ、投票のシステム、脱落者の誘導。
僕はそこにも何か仕掛けがあるんじゃないかと勘ぐっていたけれど、それは杞憂だったようだ。なんなら、すごくアッサリとしたルールしか書いておらず、なんだか拍子抜けしてしまった。
僕が一時的な安堵に包まれた矢先、急に画面が切り替わった。
水色と白をベースにしていたはずの配信画面には、カラフルなカウントダウン画面が映っている。その数字はどんどん減っていき、今は20秒を表示している。
生配信をあまり見ることが無い僕だけど、これが動画サイトによるカウントダウン表示であることは、さすがに理解できていた。
10、9、8、7……。
ああ、僕は、僕らはちゃんと1位を取って、生き残ることができるのだろうか。ああ、伊藤を傷つけた違反者どもに票を与えず勝ち進むことはできるだろうか。
「さて、皆様の作品を見ていきましょう。結果発表のお時間です」
凛、という音が聞こえてきそうな涼やかな声で、その生配信は始まった――……。
♤♤♤
『こちらの彫刻のテーマは、猫じゃらしで遊ぶ猫です! 躍動感が出るようにポーズを工夫して制作しました。猫のふわふわの毛並みを再現するのが難しく……』
あ、この人はダメだ。
『この彫刻、人の後ろ姿を掘ったんだと思うじゃないですか? まあおわかりの方も居るとは思いますが、某有名アニメのキャラを掘ったんですねー! いやあ、あの名シーンが蘇り……』
これは……良いな。
『投票してください! 投票してください! 投票し――……』
…………。
ついに始まった生配信は、今、彫刻グループの20組目に突入している。画面映る多種多様な彫刻と、それを引き立てる紹介動画。まだ飽きてはいないけれど、そろそろ一般視聴者の人はブラウザを閉じる頃じゃないだろうか。
僕はそんな、とても失礼なことを考えながら、生配信に視線を向けていた。
何の変哲もない白い石が1つの作品に変化していく。それ自体はとても面白く魅力的かもしれないけれど、僕らが見るのはあくまで結果だ。平々凡々とした作品に、読み上げるだけの紹介動画。流石にもうちょい上手くやれよとは思うけれど、そんなのが何回も続いてくると、見る気が失せるというものだ。
正直、この凡人の作品展覧会という形を取るこの配信は…………僕らにとっても地獄だった。
僕らの投票に映る頃に、一体何人が残ってるんだろう。もし誰もこの配信を見ていなかったとしたら……僕らは、0票で死ぬんだろうか?
僕はそんな不安を抱えながら、動画をひたすら眺め続けた。それしか今やれることはないし、周りのクオリティ見ておきたかったから。
ふと周りに視線を向けると、多くの人が画面を注視しているのがわかった。血眼ってこういうことを言うんだろうな、と思うような、必死で命懸けの瞳。
ああ、この人は一体どの作品を作ったんだろう。無事、生き残れるんだろうか。
『――――彫刻部門は以上です。デザイン部門に移ります。なお、彫刻部門の投票は、5分後に締切ます』
……ああ。長い。退屈だ。
僕は自分の命がかかっていない部門なことを良いことに、清々しいまでの怠惰にその身を全て任せていた。暇で暇でしょうがない。僕の部門以外は、どうでもいい。
人間とは本当に利己的なんだな、と僕はそんな分析を頭に浮かべる。
自分の身に危害が及ばないなら、別に何も気にしない。たとえそれが人の命に関わることでも、出来ることがないなら仕方ない。
こういう時に誰かの生を祈るのが優しさなのかもしれないが、僕にはそんな優しさは無かったようだ。……というか、誰かの生を祈るぐらいなら、僕はもっと実用的な……伊藤のような助けを提供しているはずだ。
まあ、要は――……
『――最後に、絵画グループの作品紹介を行います』
「っ……!」
その機械的なナレーションに、僕の意識が引き戻された。
空想の世界で暇を潰そうとしていた身体が、ピリリと嫌な緊張を伴う。途端に同期が激しくなり、心なしか体温が上がる。慌てて僕が周り見れば、僕の部屋の人たちも同じように、独特の緊張感に包まれていた。
――ああ。これから始まるんだ。僕の、僕らの命運を分ける、正真正銘の人気投票が。天才かモブか、生か死か。これから目の前で行われるのは、僕らの運命をくっきりと分ける、地獄の作品展覧会だ。
1番最初か1番最後……できるだけ皆の印象に残りたい。中盤に登場しようもんなら、死ぬ確率が上がってしまう。どうか、最初か最後であってくれ。皆の印象に残ってくれ……。
僕がそう願いながら画面を見ていると、画面は徐々に切り替わり、1つ目の作品を表示した。プレゼン動画も再生され、僕はその絵に視線を向ける。
ああ、どうか、どうか神様……! 僕たちの絵を出してくれっ…………!
「っ…………え…………」
僕は思わず声を零した。無意識に、するりと言葉を零した。
僕らの視線の先にあったのは、誰よりも上手く闇を抱えた絵……。皆を飲み込み魅了するような……天才を彷彿とさせる、絵。
なにそれ。なんだそれ。ズルい、ズルい、ズルい。こんなの、聞いてない。知らない。嫌だ。
ドロドロと僕の感情を引っ掻き回したそれは、伊藤の自己犠牲で生まれた――……違反者たちの絵画だった。
そして、僕はそれに気づいた時、同時に悟ってしまったんだ。
……ああ。もう負けだ。僕らはここで死ぬんだと。
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